同級生のヒロミちゃん…。
宇佐美真里
同級生のヒロミちゃん…。
えぇ~。三大欲求のひとつ『睡眠欲』。他の二つは脇に置いといて、ワタシ…この睡眠ってコトに関して割りと淡泊でして…。普段からかなり短いンでございます。一時は軽い不眠症にもなったりしたコトもありますが、まぁ、それは特別なコト。ですが、とにかく普段から睡眠時間が短い…。幼少の頃から寝るのは深夜二時・三時…。起きるのは学校があるワケですから、みなさんと同じくらいの時刻に起こされるワケです。だから多くとも五時間かそこら。年取ってくると、「寝ているのも疲れる…」ってンで自然と早起きになるなンつう話をよく耳にしますから、このまま年取ったらワタシ…一体どこまで睡眠時間が減るのやら…。トホホホホ…。
そんなワタシでもですネ…、最近ずっと忙しくってネェ…。ただでさえ少ない睡眠時間もロクに取れない…。ロクに取れないから流石に、朝なかなか起きられない…。ギリギリまで寝てるンで、朝飯なンて食べる時間もロクにない。そのまま出掛けるンで、カラダがシャキッとしない…。通勤電車のつり革に掴まって"うつらうつら"…。ようやく夢なンてモノを見始めたトコロで、ハイ!降車駅…。いや、電車の中で夢なンて見ている場合じゃあねぇンですケドね…。アハハハハ。
職場について仕事をするも、忙しくって忙しくって、おにぎり片手に昼も仕事…。ゆっくり休憩も取れないンで、午後も眠い目を必死に堪えながらデスクワーク…。これじゃあイケネェ…ってンで外回りに出る。そして帰って残りの仕事をチャカチャカやって、時計の短針がテッペンを超える頃にナンとか帰宅…。帰ってビールの一杯でも呑もうモンならそのまま気絶するようにバタンキューですヨ…。
妻:「ねぇ、アンタ…起きなって!ねぇ、起きてってば!時間だヨ!」
私:「う………ん、何だい?もう朝かい?ナンだか眠った気がしやしねぇ…」
妻:「嘘をお言いヨ?!ガーガー鼾を掻いて、むしろコッチが寝られなかったヨ…。それに…」
私:「それにナンだい?」
妻:「イビキを掻いて、アタシの睡眠ジャマしたかと思ったら、今度は朝方に寝言だヨ…」
私:「ん?ナンて言ってた?」
妻:「知らないヨ!ナンでも『……ちゃ~ん』なンて叫びながら誰かを追っかけてたヨ!」
私:「追いかけてたってナンで分かるンだい?」
妻:「ベットの上で誰かを捕まえようと両腕伸ばして、両足バタバタさせてたからだヨ…」
私:「そうかい…。そりゃあ随分と激しいネ?」
妻:「お蔭ですっかり目が覚めちまったヨ…。で、誰を追い掛けてたンだい?」
妻はニヤリとしながらワタシの腕をキュ~ッとつねる。
私:「イテテテテ!夢のコトなンて覚えちゃいねえヨ…勘弁してくれ!」
妻:「しらばっくれるンじゃないヨ?!ドコのオンナの夢を見てたンだい?」
私:「知らねぇょ…。きっとオメェの夢だろう?勘弁してくれって!」
妻:「嘘をお言いっ!アタシの夢じゃあ、あんなに必死にならないだろう?!誰の夢だい?」
朝からそんな…三文芝居のようなやり取りを繰り広げながら、追求止まぬ妻から這う這うの体で逃げ出すようにウチを出たワケですヨ…。ふぅ…。
ナンだか仕事前から忙しなくてイケネェ…。
ナンとかいつもの電車に間に合わせ、僅かな時間も眠ってやる…ってな感じで、つり革に掴まり目を閉じようとしたところ?!
おっ?!近くの扉脇…座席と扉の狭い隙間にキレイな女性が立っているじゃありませんか?!
「ん?ん???」
ドコかで見覚えのある女性…。確かアレは…と、半分眠り掛けていた頭をフル回転させ、必死に記憶を辿ります。キレイな女性で見覚えがあるってなっちゃ、思い出さない手はないってモンだ!
「あ、ヒロミちゃん?!」
キレイな女性に知り合いなンて、そうは居やしませんからネ…。オホホホホ…。そりゃあ、スグさま思い出すワケですヨ!そうだそうだ…。中学のトキの隣のクラスのヒロミちゃんに違いない!吹奏楽部で一緒だったヒロミちゃん…。よく二人で練習したっけなぁ~と、しみじみ昔を懐かしみニヤニヤしているってぇと、前に座っているOLが私を見上げて気味悪そうにしている…。いかんいかん…。
咳払いひとつゴホン…としようとしたところ…、ガタンッと電車が大きく揺れて停まります。………。
ハッ…として目を開ける。「はて、ドコの駅???」と駅の表示を見ましたら、もう降りる駅。降りなきゃならねぇ駅でございました…。
あれ?いつのまに居眠りしてたンだ…ワタシ?…ってコトはヒロミちゃんも夢だった?
慌てて件の扉と座席の狭い隙間に目を遣ると…ちょうど開いた扉を出ていく女性の後ろ姿…。
降りようとする乗客の波に乗りながら叫ぶワタシ。
「ヒロミちゃ~ん!」
混雑する駅のホームに降り立ったトキには…彼女は夢か幻か…消えてしまっておりました…。
「…ってな感じで消えちまったンだヨ…ヒロミちゃん」
昼時…。ワタシはおにぎりを食べながら、同僚に今朝の一件を話します。
同僚:「へぇ~。中学の頃ってコトは、もうン10年前の話っスよネ?」
私:「そうヨ…。我ながらよく思い出した…っつうか"ビビッ"って来た感じ?」
同僚:「ヒロミちゃんとは付き合ってたンですか?その頃?」
私:「いやいや…。当時はオレ…他にお気に入りのコが居たンでネ。カノジョからは告白されたケド、断ったっつうコトよ。へへへへへ」
同僚:「いや、それウソでしょ?逆でしょ?断られたンですネッ?」
私:「ナンでっ?ナンでウソって分かる???ナンでウソって決めつける?!」
同僚:「ほら、ウソじゃないですか…。そんなムキになって…」
「ふぅ~ん…。そんなコトがあったンだ…。ヒロミちゃんネ…。ふぅ~ん」
突然、後ろから聞こえるオンナの声…。それもよく知った声?!振り返るワタシ…。
そこには何故か妻が仁王立ちしておりました。薄ら笑いの表情がいつも以上に恐ろしい…。
私:「ナンでオメェ…こんなトコロに?!ここは職場だぞ?」
妻:「ヒロミちゃんネェ~。そんなに可愛かったンだ?ん?ん?」
何故かオロオロするワタシ…。
いや、昔の同級生を見掛けただけで、ナニもやましいコトはないハズなンですがネ?
追い掛けて「ちょっと今夜どう?久し振りに…」などと誘ったワケでもない…。いや、話し掛けてすらいないンですヨッ?!見掛けただけなンですって…。それでも妻の表情がいつも以上に恐ろしく映るのは何故なンですかネェ………。やはりドコか後ろめたいのかしら?トホホホホ…。
そんなオロオロするワタシに、見透かしたような視線を送りながら妻は言ったンです…。
妻:「話すコトはナニもないな…。ヒロミちゃんのトコロへでも行っちまうがいい…。それじゃあ、アタシはこれで失礼するヨ…」
"クルッ"と踵を返し、スタスタスタ…と足早に去っていく…。
私:「お~い、待ってくれヨ~ッ。戻って来ておくれよぉ~!もう一度思い直して…」
叫びも虚しく…妻の後ろ姿はどんどん小さくなっていく…。
「お~いっ!アヤコちゃ~ん!!」
妻の名前を叫びながら、バタバタと慌てて追い駆けるワタシ…。捕まえようと両腕伸ばすも…虚しく空を掴むばかり………。
妻:「ねぇ、アンタ…起きなって!ねぇ、起きてってば!時間だヨ!」
私:「う………ん、ゆ、夢か…。ナンだか生きた心地がしやしねぇ…」
妻:「ナンだい?生きた心地って?穏やかじゃないネェ~。一体どんな夢を見たンだい?教えておくれヨ?」
私:「いやはや、困った…。
この話、いつまで続けば終わるンだい…」
古典『天狗裁き』モチーフの『同級生のヒロミちゃん』と云う一席。
今日はこれにてお開きでございます。
-了-
同級生のヒロミちゃん…。 宇佐美真里 @ottoleaf
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます