第9話 俺、一日を終える
食事のフォークやナイフの扱いを教えていたせいで、予定よりも長くなってしまった食事を終えた新太は、コハクを連れて宿屋に戻る事にした。
「アラタ、あれは美味しかった!」
コハクの言うあれとは、恐らく小ランチの事だろう。
「そうか、それは良かった」
宿屋に向けて歩いて行くコハクの嬉しそうな表情に空腹感の無くなった新太が静かに微笑む。
だが、すぐに首を左右に振って気持ちを切り替える。
なぜなら、コハクは、命を掛けて守る新太の使い捨てるボディーガードなのだから。
「アラタ?」
新太の顔にコハクの視線が向けられる。
「いや、何でもない」
それ以降、視線を合わせずに無言のまま、コハクよりも一歩先を行く歩き方をしながら宿屋に着いた。
いつも通り部屋である二階に上がり、コハクと別れて部屋の中へ入るとすぐにベットに腰を掛ける。
(はぁ~。さて、どうするかな)
結局、宿屋でも食事処でも勇者が再び出たなどの噂は無かった。
元勇者である新太の場合、噂は半日も経たずに国中に広がり、噂がしない所はないほどであったのだが、この町では勇者という言葉すら聞かない。
そこから、新太が考え出した答えは2つ。
1つ、勇者の召喚に失敗している。
2つ、勇者の召喚に成功しているが、王様が隠している。
1つ目の場合は、自分を触媒として行ったが勇者の召喚に失敗した結果、まだ元勇者である自分が生きている可能性がある。
2つ目は、勇者の召喚に成功したものの、まだ完全ではないため、王様が隠している。
しかし、どちらにしろ今の新太の優先すべき事とは違うため、それ以上考えるのは止める事にした。
まだいくつかまとめておきたい事があるのだが、何度か睡魔も襲い始めて来ている。
これからの事は、次の日の自分に託して大きな欠伸をした新太は、ベットに横になり、目蓋をゆっくりと閉じた。
少しでも身体を休めるための束の間の長い休息をーー。
異世界に召喚されて一年の期限内で魔王を倒す事が出来ず、国にも仲間にも裏切られたので、復讐を考えながら元の世界に帰る方法を模索します 悠々自適にマイペース @anikisan
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