第8話 俺、食事をする
ゆっくりと過ごせる町に着くことが出来てほっとひと安心する新太は、休むこと無く次に行う目標を立てていた。
(まずは、現状の整理だ)
最重要の目的としては、鍛冶職人に要らない武器を素材にし、これを売り歩きながら国の情報を集める。
そうすれば、少なからず硬貨は入ってくるし、国の情報を集める事も可能だ。
だが、それには商人手形が必要になる。
そのためには、同じ国で道を渡り歩いて来る商人からどうにかして譲り受ける必要がある。
次に、元の世界に帰る方法だ。
今現在、帰る方法の手がかりはない。
ただ、昔王様が言っていた事は、魔王を倒せばその魔力で帰れるという事だったが、あれは信用できないだろう。
なぜなら、あの時、魔王は誕生していなかったからだ。
ならなぜ、魔王などという嘘を付いてまで勇者である新太を行かせようとしたのか謎である。
最後に、今後の戦闘についてだ。
今持っている
その間に武器を片っ端から素材や加工して売り歩きながら装備を整えるとして、20回で済むのだろうか。
恐らくは、無理だろう。
「さて、どうするか」
腰に付けていた袋から硬貨を何枚か取り出し、いくつか並べて頭の中で構想を練っている新太の腹の虫が鳴る。
「腹が減ってはなんとやらか」
硬貨を袋の中に仕舞い、胸の内ポケットに仕舞い込む。
そして、部屋を出て鍵を掛けると向かいに居る部屋をノックした。
「誰です?」
「俺だ。飯でも食いにいくか?」
食事の誘いに扉を開けて元気よく出てきたのは、銀色の髪に獣のような耳と尻尾を生やしたコハクだ。
「アラタ、食事とは何?」
「まぁいいから、付いてこい」
説明するのが面倒な新太に付いて行こうとするコハクに鍵を掛けるよう指示をする。
「おー、こうやってやるのか」
「次からは自分でやれよ」
「はーい」
そう言って新太の後ろに付いて行き、ようやく宿屋から出て食事の出来る食事処に着いた。
「おー!」
周りを見渡しながら初めて見る食事処にテンションがかなり上がっている様子だ。
また勝手に興味本意で進んで行こうとするコハクの手を掴んで案内された席に移動する。
「何になさいますか?」
店員が食事のメニューを手渡し、新太が軽く頁をめくって迷うこと無くすぐに決めた。
「俺は、サラダで。こいつには、小ランチを」
「かしこまりました。銀貨三枚です」
「はい、ちょうど」
新太の渡したお金を受けとると、注文を受けた店員が一礼し、厨房の方へ向かって行く。
「ねぇねぇ、アラタ」
何か疑問を持ったコハクが話しかけてくる。
「何だ?」
「さっき、あの人に言っていた事ってなに?」
「説明するより先に実物が来るから待て」
「はーい」
新太に言われた通り、素直にしばらく待っていると店員が新太の言う実物を持ってきた。
「おまたせしました。サラダと小ランチです~」
「どうも」
「おーっ!」
新太はサラダと炒飯とハンバーグが盛り付けてある少ランチを受け取り、コハクに少ランチを渡す。
「ごゆっくりどうぞ」
店員が下がると少ランチに興味津々のコハクがいろいろな角度から見ていた。
「とっとと、食べないと冷めるぞ」
そう言って新太は、少ランチにあるフォークとナイフに指を差す。
「おー」
両手で持ったまま少ランチを見つめている。
その間に新太は、サラダにフォークを突き刺して口に運んでいた。
(変わらず味がしない、か)
いくら咀嚼した所で、この世界に来てから新太の味覚はなぜだか存在しない。
肉を食えば、ゴムの感触がし、魚を食べれば、生臭い飴を舐めているような感じがする。
そのため、新太が試行錯誤し、たどり着いたのは、新鮮な生野菜のシャキシャキとした歯応えのあるサラダに行き着いたのだ。
「アラタぁ」
味覚の事を思い出していると今にも泣きそうな目で新太の名前を呼ぶコハクが居た。
「どうした?」
「……これ、どうやって使うのぉ?」
フォークとナイフを新太に向けて琥珀色の潤んだ瞳を向ける。
「わかったから、ナイフとフォークを向けるな。教えてやる」
面倒だと思いながらも新太はコハクが理解するまでフォークとナイフの使い方を丁寧に教えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます