第7話 俺、名前を付ける
馬を走らせている道中、暇そうにしていた新太に声を掛けてくる。
「ねぇ、獣人ってなに?」
「獣人ってのは、お前みたいに耳や尻尾が生えている種族の事を言うんだ」
「へぇ~なら、私は獣人っていうの?」
「そうだな。お前は紛れもなく獣人だ」
そんな軽い会話を終わらせると、目の前に宿屋が見えてきた。
通行の邪魔にならないよう宿屋の近くに荷馬車を止め、手近の袋の中から銀色のコインを胸ポケットの中に仕舞い、袋を閉めて腰に取り付けてから、後ろの荷車に声を掛ける。
「お前も降りろ」
「アラタ、今度はどこに行くの?」
荷車から飛び降り、新太の後ろに付いて行く。
「宿屋だ」
そう言って新太は宿屋の扉を開けた。
一般的な宿屋と変わらず、中はシンプルだ。
しかし、見飽きた新太とは違い、見るものが全て真新しく感じる者も居る。
「わぁ~!」
周囲や天井を見て駆け出して行こうとする手を掴んで受付まで連れて行く。
「いらっしゃいませ。こちらに泊まる方の名前の記入をお願いします」
「分かりました。え~と……」
右手で自分の名前を書いた後、すぐに羽ペンの手が止まる。
(そういや、こいつの名前を決めるの忘れてた!?)
無言のまま長時間悩むわけにもいかず、目線を静かに合わせ、何かを思い付き、目線をすぐに戻して羽ペンを動かす。
「はい。では、何泊されますか?」
「一応二日予定で、もしかしたらもう一泊するかもしれません」
「分かりました。追加でもう一泊する場合は、その日に言って下されば、手配しますので。あと、お部屋は一部屋でよろしいのですか?」
「二部屋でお願いします。それで、料金は?」
「はい。お二部屋の二日で銀貨二枚です」
「じゃあ、ちょうど二枚で」
胸ポケットから銀貨二枚を取り出し、そのまま受付に手渡す。
「はい。では、ここの階段上がって奥の右側と左側のお部屋になります」
そう言って受付は、鍵を新太に手渡し、言われた通りに手を引いて階段を登り、奥の右側にある部屋に鍵を差し込んで中へ入る。
「おおー!」
ようやく手を離し、ベットと小さな椅子が1つしかない質素な部屋だが、目を輝かせていた。
「ここが、お前の部屋にお前の鍵。そして、俺はその正面の部屋だ。何かあれば、呼べ。それじゃあな」
鍵を手渡してそうそう立ち去ろうと扉を閉め始めた途端、何かを思い出した新太が途中開きの扉を開ける。
「どうしたの?」
「後、お前の名前は、今日からコハクにしたからな」
それだけ言い残して今度こそ扉を閉める。
これでやっと、ひとりでゆっくりと過ごせる時間が確保できた。
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