第7話 僕の身勝手にしか出来ないこと
彼女の手紙を読み終えたとき、僕の中で怒りと苦しみが交錯していた。自分を利用されて、死なれた怒りと、彼女の命を奪ってしまった苦しみである。これを僕はどう受け止めていけばいいのか、僕には正解など分からない。誰か導き出すことが出来れば僕は喜んで、それに従うだろう。
少しでも、理性的に考えてみよう。まず、彼女が死んでしまったことについて、僕が人と恋愛できないことが悪いのではないだろう、しかし、彼女の想いを踏みにじって自分のために利用した罪は重い。かといって、あの時、彼女を振ってしまっていたら彼女がどういう選択をしたかは分からない、結果的に彼女の寿命を伸ばしたのかもしれない。しかし結果的に、不誠実な思いで、彼女に経験しなくてもいい苦しみを与えた。そして、僕は彼女にナイフを突き立ててしまった。僕はどんな選択をしても、彼女の命を救うことが出来なかったのかもしれない。それが、余計に今でも僕を苦しめているのだ。彼女のせいになどしたくないのに自分の弱さゆえに彼女を責めたくなる自分がみっともなくて辛いのである。
そんなことを考えながら、いつの間にか明けていた街へと歩き出した。
家に帰ると、この悲劇を知っていた、勿論知っていたのは彼女の自殺のみであるが、千尋たちが集まってくれていた。彼らは優しい言葉を沢山かけてくれた。でも、不思議なことに、彼らのどんな綺麗な言葉も薄っぺらに聞こえてしまってなんの慰めにもならなかった。
彼女の家族とは会っていない。彼女が僕の存在を知らせていなかったのだ。何かあったときに僕にたどり着かないようにしてくれていたのかもしれない。でも、僕は彼女の家族から、理不尽だろうとなんだろうと一発ぶたれた方が楽な気がした。そんな身勝手な考えがよぎってさらに自己嫌悪に陥った。
そんな陰鬱な気持ちのまま僕は、また講義、サークル、バイトのサイクルに戻った。周りの優しい人たちに心配もされたけど、日常を形だけでも取り戻さないと僕の生活は苦しみに破壊されていただろう。そうして、時間だけが中身のないまま進み続けた。そして、あれから今、2回目の春を迎えた。
今、考えてみると僕と彼女は互いに利用しあっているだけで信愛の情すらあったのかも怪しい。僕は恋を知ろうとするために、彼女は心の穴を埋めるためにお互いを利用していた。空虚な恋人ごっこをロールプレイングしているに過ぎなかった。だから、どちらだけが悪いということでもないのかもしれない。本当はそうなのかもしれない、そう思えば僕は少しだけ慰められる。楽になれるのかもしれない。そう思うことが出来れば苦しみは少しばかり減ったのかもしれない。
でも、僕の正義感の端くれがそれを許さなかった。やっぱり彼女と向き合いたいのだ。自己満足だと分かっていても、彼女と向き合ってきたものと向き合いたいのだ。せめて、生きていくならなんだろうと逃げないという形だけでもの何かを彼女に示したかった。
彼女が愛した広範に広がった歪んだ自由に殺されてしまったアイドルの彼、彼の死に明確な意味付けなんて出来ないだろう。そんな自由に彼女は囚われ、苦しみんでいた。同じように、(そういってしまうと彼女には申し訳ないのだが)僕は彼女の死の意味付けに僕は囚われ、苦しみ続けるだろう。それが彼女への償いなどというのは独善的な解釈なのかもしれない。しかし、そんな風に考えていないと、僕の精神はおかしくなってしまいそうになる。勝手だけれど僕を殺さないためにそれだけは許して欲しい。それに対するどんな批判だって受け入れよう。だから、せめて彼女の分まで懸命に生きて苦しむという綺麗事にもならない戯れ言をいわせて欲しいのだ。悪魔のような自由の奴隷として一生仕えさせて欲しい。罪人が焼かれて消えてしまうまで。残酷で正当な結末を僕が迎えるまで。
夜と紅の夜明け 馬籠セイ @Hamabou
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