第6話 彼女からの手紙

彼女の手紙は次のようなものだった。

「この手紙を読んでいるとき、あなたはどんな気持ちでいますか?私はこの世にいないから確かめようがありませんね。でも、確実に言えることは、あなたはとても驚いているということでしょう。

私がこのように忌むべき死に方を選択したのは、丁度一年前に私の大切な人が同じような方法で亡くなってしまったからです。私はある男性アイドルグループを応援していました。そのなかでも、優しそうな顔をしたメンバー、彼に恋をしてしまったのです。彼を好きになってからは毎日が信じられないくらい明るくなりました。楽しみを見いだせなかった毎日に色が付いていくような感覚でした。私の人生は彼に救われたと言っても過言ではありません。

しかし、ある日を境に彼は元気をなくしていきました。それは、彼がある人気の俳優に仲の良さゆえに少し失礼な発言をしてしまってからです。その俳優のファンは彼のSNSに罵詈雑言を書き込みました。身の程を知れとか、その他にも口に出すのもはばかるような言葉も沢山ありました。もちろん、多くのその俳優のファンは仲の良さゆえの発言で、俳優の側にも詫びを彼がいれて問題は終わっていることも知っていました。しかし、それは表向きのことだと納得しない一部のファンは彼に悪意を向け続けました。もう、何がなんだか分からない地獄のような状況でした。

相当追い込まれていたのでしょう、 彼はそれに耐えかねて、自らの手で自らを殺めることを選びました。彼は踏み切りに飛び込んで死にました。しかし、形は自殺でも私にとってこれは殺人でした。そのニュースを見たとき私は耳を疑いました。彼が心ない言葉に晒されていることも、それで追い込まれていることも知っていました。でも、彼が死んでしまうなんてことは想像出来なかったのです。世界中のどこに恋する相手の死を想像できる人がいるというのでしょう。私はそれから髪を切り、喪に服すという意味で黒い服を着るようになりました。意味のないことと知っていながらもそんなことでしか私の心を保つことは出来ませんでした。私はあの日からうまく笑えたことがありません。

それからは受験勉強も目標のペースでは進めることが出来ませんでしたが、今の大学に合格をもらい落ち込んでいる私を知っていた両親は第一志望ではなかったけど良く頑張ったと誉めてくれました。しかし、いつまで経っても私の心に空いた穴は塞がりそうにありませんでした。やけくそになってがらにもないピアスをあけましたが、痛みと空虚が広がるだけでした。

君と出会ったのは、新しく何かしてみようと始めたバイト先でした。君は私が好きだった彼にそっくりでした。そして、彼を失った穴を埋めるために、君と付き合いたいと告白し上手くいきました。君は、人間にましてや恋になど興味がないような感じだったので、告白を受けてくれたときには驚きました。でも、その後、君が私への愛情など持っていないことに気がつくと酷く落ち込みました。君が私に乱暴なことをしたりしていれば、他人の空似だと納得できたのかもしれませんが、私に手を出してこない、君の優しさが余計に私を苦しめました。君の家で君が結局、キスしなかった時、私はどうしたらよいのか分からなくなってしまいました。こんなこと、勝手だし、都合良く解釈してることも分かってる。でも、私には君しかいなかったのに君は優しいくせに私を愛していなかった。

生きる希望を失った私は彼と同じ方法で死ぬことを決めました。白い着れな服を着て最後は旅立とうと決めました。勝手でごめんね。許してなんて、言わないけど、私の気持ちを知ってだけいて欲しかった。

勝手でごめんね。ごめん、ごめん、

サヨナラ」


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