第48話
私たち4人は、皆、それぞれ、物思いに沈んで、言葉少なだった。
お昼頃と日暮れ後に、食堂車で、ジャガイモ料理を頂いた。
お酒は控えた。
現地時間の深夜遅くに、黄色キ大地ノ国に着いた。
駅を出ると、私たちは、すぐにタクシーに乗って、通り道のあるアパートに向かった。
そして、日付が変わる0雪星時の少し前に、通り道のあるアパートの部屋に着いた。
アパートの部屋は、石油ランプのような照明に照らされて、洞窟のようだった。
滑らかで不定形なデザインの部屋は、来た時には、変に思ったものだが、今では、すっかり、見慣れて、なぜか、心が落ち着いた。
プル、ンケ、ルム、ベズの洞窟のような建築様式に…
そして、通り道は、来た時と同じように、微動だにせず、静かに、開いていた。
私たちは、恐る恐る、通り道の向こうを覗いた。
通り道からは、少し離れて…
彼女は、言った。
「…廊下が見えるわ…
『無限分岐宇宙』の…!!」
日本風の木の廊下と、明るい配色の壁紙が見えた。
ネー、ベルが、言った。
「ドアは開いていますね。
こちらに来た時のままです。」
オーナーさんのお家のキッチンだった部屋のドアが、廊下に開けっぱなしになっているのが見えた。
パヌ、シーさんが、メガネをかけ直しながら、言った。
「…大丈夫そうですね?」
彼女は、カード端末を出しながら、言った。
「オーナーさんに電話しなきゃ!!」
彼女は、カード端末を操作した。
「…はい!!
星美さん?!」
私たちは、カード端末を覗き込んだ。
白いドレスをまとった、笑顔のオーナーさんが、モニターに映った。
背景には、大勢の人たちが、テーブルを囲んでいる様子が見えた。
彼女は、オーナーさんを見つめながら、言った。
「オーナーさん!!
通り道に着きました!!」
オーナーさんは、ニッコリして、言った。
「よかった!!
みんな大丈夫ね?」
彼女は、ニッコリして、言った。
「はい!!
みんな大丈夫です!!」
オーナーさんは、周りを見回しながら、言った。
「こっちは、今、歓迎パーティーをしてくれているところなの。
ちょっと、移動するわね!!」
オーナーさんは、周りにいる人たちに会釈して、パーティー会場らしき部屋を出た。
そして、人気(ひとけ)のない広間の一角に佇んだ。
「ロビーに来たわ。
ここなら大丈夫ね…
…
今日は、灼熱ノ岩流ルル国の首長さんと会って、いろんなお話をしたわ。
…
そしてね、黄色キ大地ノ国から移住して来る人たちも、受け入れてくれることになったわ!!
出来る限り多くの人たちをね!!」
彼女は、飛び上がりそうになりながら、言った。
「やった~!!
スゴイ!!
オーナーさん!!」
オーナーさんは、ニコニコしながら、言った。
「地下都市の出入り口と通気口を守るための防壁と屋根の建設も、すぐ始めるそうよ!!
…
地上のジャガイモなどの農作物と養殖施設の生き物たちも、すぐに、地下都市に移し始めるって!!
…
地上の地熱発電所を守るための防壁と屋根の建設も、すぐ始める予定だって!!
…
気密性の高いマスクとゴーグルも、すぐに、大量生産を始めるって、約束してくれたわ!!」
彼女は、何度も頷きながら、オーナーさんの話に聞き入った。
そして、泪ぐみながら、言った。
「…
よかった…!!
…」
オーナーさんは、決然とした凛々しい表情で、頷きながら、言った。
「世界中の人たちに、頼んで回るわ。
…
みんな、きっと、わかってくれる。
みんなで、奇跡を起こせるわ!!
…
巨大噴火という災いを、幸いに変える奇跡を…!!」
彼女は、もはや、言葉を失って、オーナーさんの言葉に、何度も何度も、深く頷きながら、虹色の瞳から、泪の粒を、ぽろぽろとこぼすばかりだった…
オーナーさんは、目を細めて、モニターに映る彼女の姿を見つめた。
慈しむような、微笑みを浮かべて…
オーナーさんは、顔を上げて、言った。
「…幸星さん。
星美さんを、幸せにしてあげてね。」
私は、言った。
「はい。
頑張ります!!」
オーナーさんは、謎めいた微笑みを浮かべて、言った。
「…もう一声欲しいわね…?」
私は、頭を掻きながら、言った。
「私は、星美を、必ず、宇宙一幸せにします!!」
オーナーさんは、ニッコリして、言った。
「頼んだわよ!!」
私は、タジタジとなりながら、オーナーさんに、訊いた。
「オーナーさん…
巨大噴火が始まると、『無限分岐宇宙』は…?」
オーナーさんは、真っ直ぐな眉を、少し寄せて、答えた。
「…そうね…
…
そのままだと、マグマに飲み込まれちゃうわね。
…」
私は、言った。
「何か、マグマへの対応策を取るとしても、『無限分岐宇宙』は、そのままではいられないと思います。
…おそらく、取り壊す必要があるでしょう…」
オーナーさんは、少し寂しそうな目で、頷いて、言った。
「わかってるわ。
…
どうしようかな…?」
オーナーさんは、頬に指を当てて、少し考え込んだ。
そして、ニッコリして、顔を上げて、言った。
「『無限分岐宇宙』のことは、おふたりに任せるわ!!
…
必要なら、遠慮なく取り壊して!!」
私は、頷いて、言った。
「わかりました。
…
マグマの熱を、無害化する方法があるはずです。
例えば、地熱発電所のような施設を造って、マグマの熱から、電力と温水を作ることが出来れば…」
オーナーさんは、目を丸くして、言った。
「…なるほど…
マグマの熱をただ捨てるんじゃなくて、利用するのね?
エネルギー源として…」
私は、言った。
「流れる高温のマグマから、直接、地熱エネルギーを取り出すテクノロジーは、まだ無いと思います。
地球にも、プル、ンケ、ルム、ベズにも…」
ネー、ベルは、頷いて、言った。
「確かに、そのようなテクノロジーは、まだありません。
この星にも…
…
しかし、原理的には、なんの問題も無いでしょう。
地球の皆さんが、その気になれば、必ず、開発出来るはずです。」
オーナーさんは、頬を少し紅くして、興奮ぎみに、言った。
「…驚いた…!!
災いを幸いに変える奇跡を、地球でも起こせるのね?!」
私は、頷いて、言った。
「ただ、時間が問題です。
巨大噴火が始まる前に、テクノロジーを開発して、地熱発電の施設を建設しなければなりませんから…」
ネー、ベルが言った。
「おっしゃる通りです。
あとは、時間だけが問題です。
…
噴火に間に合わなければ、東京の街に、マグマが溢れるでしょう…」
オーナーさんは、真剣な表情になって、訊いた。
「…マスターは、どうするの?」
ネー、ベルは、背筋を伸ばして、答えた。
「私は、この星に残ろうと思いました。
しかし、たった今、気が変わりました。
…
地球のことが心配です。
私は、地球に参ります。」
オーナーさんは、ニッコリして、頷きながら、言った。
「わかったわ。
…
あなたの好きなようになさい。
…
パヌ、シーさんは、どうするの?」
パヌ、シーさんは、ネー、ベルをチラッと見て、少し声を震わせながら、答えた。
「…
私も、地球に参ります。」
オーナーさんは、ニコニコしながら、頷いて、言った。
「わかったわ!!
みんな、地球で頑張って!!
私は、この星で頑張るから!!
…
必ず、この星のみんなを守るから…!!
…
約束するから…!!
…
みんなは、地球のみんなを守ってあげてね!!
絶対よ!!」
私たち4人は、頷いた。
誰も、もう、言葉は出なかった。
私は、何か言うべきだと思ったが、なぜか、心が震えて、どうにもならなくなった…
言葉の代わりのように、泪が、私の目からこぼれた。
オーナーさんは、ニコニコしながら、言った。
「さあ、みんな、行くのよ!!」
パヌ、シーさんが、ネー、ベルの手を掴んで、引っ張った。
ネー、ベルは、驚いたようだったが、逆らわずに、パヌ、シーさんと一緒に、通り道に飛び込んだ。
私は、彼女の手を握った。
彼女も、私の手を握った。
私と彼女は、見つめ合った。
私たちは、一緒に、飛び込んだ。
私たちが守るべき宇宙に…
彼女は、虹色の瞳をキラキラさせて、オーナーさんを見つめながら、言った。
「オーナーさんは、宇宙一幸せな、星の花嫁さんね!!」
星の花嫁たち @wakihiroki
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