第47話

私たち4人は、午後発の大陸間鉄道に乗った。


みんな、言葉少なだった。


食堂車で、ジャガイモのいろんな料理を頂いて、芋酒を頂いた。

私は、やはり、少し飲んだだけで、十分に酔った。


私は、言った。


「プル、ンケ、ルム、ベズで麹菌を見つけて、お醤油を作って、プル、ンケ、ルム、ベズの食材だけで、お寿司を作って、食べてみたかったけど、出来なかったね…

マンモスとドードーも、見に行けなかったね…

雪の星ブランドのレザーも見に行けなかったね…


『美神』のお話も、まだ読めてないね…

潜水ロボット艇に乗って深海にも行ってみたかったね…

風を受けて進むソリにも乗ってみたかったね…

羊ソリにも乗ってみたかったね…」


彼女は、虹色の瞳を輝かせて、ニッコリしながら、言った。


「しょうがないわよ。

時間が無かったんだもの…

今度来た時に、探しましょ!!

この星の麹菌さんを…!!

マンモスさんとドードーさんも、お弁当作って、見に行きましょ!!

動物園に!!

雪の星ブランドのレザーも見に行きましょ!!

『美神』のお話も、カード端末があれば、読めるはず…

地球でもね!!

潜水ロボット艇さんに、深海の不思議な世界を案内してもらいましょ…!!

風を受けて進むソリにも乗せてもらいましょ!!

羊ソリにも乗せてもらいましょ!!

今度ね!!」


食事が終わると、みんな、シートを倒して、眠った。


現地時間の朝早くに、灼熱ノ岩流ルル国の駅に着いた。


ちょうど、ホームの反対側にも、熱キ水出ル国に向かう列車が着いて、停車した。


列車を降りて、私たちは、オーナーさんを探した。


「みんな~!!」


手を振りながら、オーナーさんが、駆けて来た。


目にも鮮やかな、カラフルなドレスをまとって、白いつば広の帽子を被ったオーナーさんは、サングラスを外して、ニコニコしながら、言った。


「やっと会えたわね~!!

みんな~!!

大好きよ~!!」


彼女は、オーナーさんに抱き付いて、叫んだ。


「…オーナーさん!!」


オーナーさんは、ニコニコしながら、彼女をハグした…

プル、ンケ、ルム、ベズ風に…!!


「星美さん!!」


彼女も、負けじと、オーナーさんをハグした…

情熱的に…!!


私とネー、ベルとパヌ、シーさんは、口をポカンと開けて、抱き合うふたりを見ていた…


彼女は、虹色の瞳を、キラキラさせて、オーナーさんと抱き合いながら、言った。


「オーナーさん!!

この星の人たちと生き物さんたちを、守ってあげてくださいね!!」



私たち5人は、駅のレストランで、食事を摂りながら、いろんな話をした。


窓の外には、白い氷洋が広がっていた。

遠くに、火山と、それを取り囲む黒い溶岩大地と、緑の農耕地が見えた。

火山からは、時折、噴煙と、真っ赤な溶岩が噴き上がった。


彼女とオーナーさんは、地球のこと、プル、ンケ、ルム、ベズのこと、自分の身の上話、相手への質問、出身地や経歴、趣味や特技、持っている免許や資格、家族構成、だいたいの年収や資産、好みのタイプ、好きな食べ物や飲み物やスイーツや美容や健康にいい食べ物や飲み物や最近見つけた美味しいお店、好きなファッションやメイクやヘアスタイルやネイルやアクセサリーやメガネやサングラスや腕時計や靴や帽子やバッグ、わりと続いているトレーニング法、やってみたけど続かなかったスポーツ、手軽に出来るおすすめのストレッチ、いつか行ってみたい国や観光地や行楽地や温泉や史跡や美術館や博物館、行ってみてスゴくよかったおすすめの国や観光地や行楽地や温泉や史跡や美術館や博物館、好きな本や雑誌や映画やドラマやテレビ番組やラジオ番組や舞台やCM、好きな女優や俳優や歌手やミュージシャンやアーティストやタレントやお笑い芸人、好きな歌や音楽、好きなカラオケ、好きなアプリ、好きな車、バイクは好きかどうか、好きな自転車、好きな鉄道、好きな飛行機や船、宇宙旅行がもっと安く出来るようになればいいのに、といったようなことを、楽しそうに話し合っていた…


ネー、ベルとパヌ、シーさんは、ほとんど、聞き役に徹していた。


私は、たまに質問されることに、答えるだけで、精一杯だった…


黄色キ大地ノ国行きの次の列車が、ホームに滑り込んで来ると、私たちは、レストランを出て、ホームに戻った。


レストランを出る前から、彼女の虹色の瞳は、泪で溢れた。


オーナーさんの瞳にも、光るものが見えた。


オーナーさんは、言った。


「…さあ、そろそろ乗らなきゃ!!」


彼女は、話そうと思っていたことがあったはずなのに、何も言えなくなってしまったようだった。


彼女の虹色の瞳から、プル、ンケ、ルム、ベズの朝の陽射しに照らされて、キラキラと輝く大粒の泪が、止めどなくこぼれ落ちた。


オーナーさんは、優しく、彼女を抱き締めた。


…プル、ンケ、ルム、ベズ風のハグではなく、ただ、抱き締めた。


人が、愛するものを抱き締めるやり方で…


私は、話そうと思っていたことを話すべきかどうか、迷った。


…今話さなければ、後悔してしまうかもしれない…


そう思った私は、声を絞り出した。


「…地球でやるべきことが出来たら、また、この星に戻ります。

ふたりで…」


オーナーさんは、泪を浮かべて紅くなった瞳で、私を見つめて、言った。


「待ってるわ…

この星のことは、私に任せて頂戴。

絶対に、みんな、守ってみせる。

おふたりは、地球のみんなを守ってあげて。

頼んだわよ!!」


彼女は、オーナーさんを抱き締めて、虹色の瞳から、泪をぽろぽろとこぼして、泣きじゃくるばかりだった。


パヌ、シーさんも、メガネの奥の瞳から、泪を溢れさせた。


…ネー、ベルも、きっと泣いていたのだろう…

少しうつむき加減になって、肩を震わせていた…


発車のベルが鳴った。


オーナーさんは、優しく、彼女を突き放すと、叫んだ。


「乗って!!」


私は、彼女の手を掴んで、列車に飛び乗った。


ネー、ベルとパヌ、シーさんも、列車に飛び乗った。


オーナーさんは、ニッコリして、頷いた。


オーナーさんのつぶらな瞳から、一粒の泪が、こぼれ落ちた。


列車のドアが閉まった。


そして、黄色キ大地ノ国へと、走り出した。


列車は、みるみるうちに加速して、ホームにひとり残ったオーナーさんは、あっというまに見えなくなった。


彼女は、泣き腫らした虹色の瞳を、泪でいっぱいにして、言った。


「オーナーさんは、この星にお嫁入りした、宇宙一幸せな花嫁さんね!!」

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