特定外来生物・アレチウリの駆除

武州人也

河川敷に繁茂する無言の緑

 東京都調布市

 

 六月某日、私は特定外来生物に指定された植物、アレチウリの駆除ボランティアに参加した。


 場所は、市内の多摩川河川敷。この多摩川は調布市と川崎市多摩区との境界線となっている。駆除を行った場所の西側には両市(に加えて東京都と神奈川県)を結ぶ京王相模原線が走っている。


 その日は曇天であった。私の記憶が正しければ、雨が降っていたかも知れない。ただ、持参した合羽を着た記憶がないので、特に気にも留めないような小雨であったのだろうと思われる。


 駆除に参加していたのは大多数がとある企業の社員で、個人参加は少なかった。ボランティア参加者は、集合場所の自然情報館で職員の方に外来種に関する説明を受けた後、道路を挟んで向かい側の現場で駆除活動を行った。


 この時期のアレチウリは、まだ若い芽である。六月頃に芽吹いたアレチウリは夏の間にツルを伸ばし、秋に結実し種子をばらまく。だから、駆除は年に二回、六月と九月に行われる。芽の時期と結実前に駆除することで、結実と種子の拡散を防ぐのだ。


 いざ河川敷に降りてみると、アレチウリよりも寧ろ他の外来植物の姿が目についた。ヘラオオバコ、オオブタクサ、ヒメジョオン、セイバンモロコシ、アレチハナガサ、ハルシャギク……などなど。特にブタクサ花粉持ちの私にとって、晩夏から秋にかけてのオオブタクサは天敵そのものである。

 アレチウリが目立たないのは当然のことである。まだ時期的には若い芽なのだから。夏の間にツルを伸ばしたアレチウリは数メートルもの長さになり、辺り一面を覆ってしまうことで日光を遮り、他の植物の生育を阻害してしまうという非常に厄介な性質を持っている。

 こうした性質から、彼らは「特定外来生物」というものに指定され、生きたままでの移動や飼養、売買なのが禁止されている。もっとも特に綺麗な花を咲かせるわけでもなく、食用や薬用などの有用な使い道もないため、好んで植栽するような人はまずいないであろうが。

 目立たないとはいっても、探してみるとちらほらと双葉が芽を出しているのが見つかった。それらを根元から引き抜き、ビニール袋に放り込んでいく。その繰り返しだ。

 去年の駆除活動では、すでにツルを長く伸ばした株が見つかり仰天した記憶がある。それこそ「うんとこしょ、どっこいしょ」という掛け声が似合うような引き抜き方でツルを引っ張り抜いたものである。けれども今年は若い芽しか見つからず、そのことで少し安堵した。


 職員の方曰く、アレチウリの種子は河川の流れに乗って拡散しているらしい。アレチウリ自体は一年草であり結実前に株を取り除いてしまえばその年は繁殖できないのだが、河川によって種子が上流から運ばれてきてしまうため、毎年根気強く駆除を行わなければならないのだそうだ。その上、アレチウリの種子は土壌シードバンクを形成する。土壌シードバンクというのは土壌中で発芽能力を保ったまま休眠する種子を呼ぶ言葉だ。つまり、地上に見える株を全て駆除しきっても、以前に落ちた種子が土壌中にあれば、翌年また発芽してしまうということである。

 駆除活動はもうかれこれ十七回続いているそうだ。年二回開催であるからこの年で九年目である。当初はアレチウリ以外にオオキンケイギクというキク科の特定外来生物も駆除していたそうだが、こちらはこの場所ではほぼ発見されておらず防除に成功したそうだ。とはいえやはりオオキンケイギクも何処からか種子が運ばれて発芽してしまうことがあるようで、この年も二株ほど発見されてしまった。職員の方曰く昨年の増水で運ばれてきた可能性があるとのことである。


 毎年毎年駆除を行っても、翌年にはまた芽吹く。「雑草魂」なる言葉は、まさしくアレチウリのためにあるような言葉だ。しかし、その「雑草魂」は、元々日本に存在する植物たちにとっては迷惑極まりない。重ねて記述するが彼らは数メートルものツルを伸ばして他の植物を覆い隠し、日の光を遮ってしまう。だから、継続的な駆除が必要なのだ。


 外来種を全て根絶することは、現実的には不可能である。それでも駆除が続けられているのは、ひとえに彼らを全て根絶やしにするためでなく、これ以上増やさない、拡散させないためである。生態系を完全に元通りにすることなどは願うべくもない。しかし、これ以上生態系が狂ってしまわないように努力しなければならないのだ。

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特定外来生物・アレチウリの駆除 武州人也 @hagachi-hm

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