七月九日


 


 あゆちゃんは太陽だ。太陽のように眩しい。彼女ひとりがそこに居るだけで、なんてことない街並みや人が、周り全てを囲んで明るくなる。照らされる。それから、ぼくもその一部になったような気がして、一気に胸が熱くなる。改めて言葉にするのは少しばかり照れくさいが、本当にそう思うのだ。

 エルマートを覗くと、今日も彼女がいた。レジを離れて、棚に商品を並べている途中だったけれど、ぼくがコンビニの中に入ると、あゆちゃんはすぐに気づいた。自動ドアが開いた時に鳴るチャイムと共に振り向き、束ねた長い髪の毛を大きく揺らした。ちょうど両手に菓子パンを持っていて、床に膝を付いた状態のまま、顔だけをこちらに向けた。「いらっしゃいませ」と声高く響かせて、ぼくを見つめた。そして微笑んだ。あぁ、愛おしい。ぼくだけに見せるあどけない笑顔が、なにより愛おしいのだ。昨日の不服が一瞬で消えてしまうくらい、彼女の笑顔は太陽のように輝いている。しかし、それは、ほんの少し天使のようにも見えて、可能なら、誰の手にも触れられない、ぼくとあゆちゃんの、二人だけの部屋に閉じ込めておきたい、と、そう思わせるのも得意だった。それにだ。そんなふうに考えているのは、きっとぼくだけじゃないはず。ぼく以外のほかのひとも、あゆちゃんに近づきたくて、触れたくて、独り占めをしたいと、そう思っているに違いない。もしほかの誰かがあゆちゃんに近づけば、無論、ぼくだって嫌だけれど、一番不愉快に思うのは彼女本人だ。よく知らない男に付きまとわれたりなんかしたら大変だ。これは、彼女の為にも、ぼくが盾にならなければならない。誰にも触れさせないようにして、彼女の、あゆちゃんの、太陽のような笑顔を守らなければ……。そうだ。いいことを思いついた。もし変な奴が近づいても大丈夫なように、彼女を見張っていれば良いのだ。とは言っても、仕事中は難しいが、仕事が終わった後、ちょうどあゆちゃんが出勤する時間帯に、一番に向かって見張れば、あゆちゃんを守ることが出来る。なんだか、少し気合いが入りすぎているような気もするが、そのぐらい、ぼくは彼女のことを思っているのだ。

 今日は火曜日。明日も平日である為、きっと同じ時間帯に出勤しているはずだ。至って普通だった。普段と変わらない明日が、彼女という太陽を目の前にして、小心者であるぼくの、胸の鼓動を激しくさせた。








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日暈 (ひがさ) 珀 ーすいー @Rin-You

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