第2話 初めての依頼
という訳で俺とルリアはやり直すことにした。俺が引き籠りを止める訳ではないが依頼が来た時に剣士として召喚して貰う事にした。
それと通信が出来るイヤリングを渡された。なんでも穴を開ける必要性はないのだとか。かなり便利な物だからきっと値段は高いんだろうな。きっと。
当たり前だけど俺はイヤリングを耳に付けた。うーん。こんな趣味は初めてだ。なんだか違和感を覚えるな~。はは。鏡を見ても変だな、これは。
「ロイド! 聞こえる? ルリアだけど?」
「聞こえてる。なんだか恥ずかしいな、これ」
「大丈夫でしょ。心の中が反映されてるんだもん」
そうなんだよな。このイヤリングは心の中を通信出来るという優れものなんだよな。口を使わないで話せるなんてなんとも言い難い。
「それよりも……初めての依頼だけど行ける?」
「え? 早くないか? まだ一日目だぞ?」
「確かにあれから一日が経過した。そもそもこの依頼は私からロイドへなの」
なるほど。それなら合点がいく。にしてもルリアが俺に対して依頼だなんてどうしたんだ? 一体。
「俺か。依頼はなんなんだ。言ってくれ」
「それはね。私と一緒に武具屋に行ってほしいの」
「あ。そうか。今の俺に昔の俺の装備は合わないよな」
なるほどな。そう言うことならお安い御用だ。って言っている割には引き籠りだからな。俺は。はは。
「でしょ? だからね? 召喚してもいいよね? するね!」
「え? ちょっと待て! 心の準備という物が――」
「問答無用! えい!」
はぁ!? えいで出来る魔法なのかよ!? って三度目の召喚こそどうか無事でって宙に浮いている!? あは~。これは嫌な予感がするな、絶対に。
渦巻くなにかに覆われ俺は自宅の外へと召喚された。視界が開けてくるとそこは武具屋の前だった。そこの傍らにはルリアがいた。って宙に浮いている!?
「あ。ごめん。まだ慣れてなくて」
いや。たった一日で使えている方が可笑しいと思う。って落ちてるー!?
「ぐへ」
い、痛い。足が捻挫したらどうするんだ。全く。にしても俺たちの村で唯一の武具屋だな。ここは。懐かしい。ここで俺は父さんに剣士になる為の武具を買って貰ったんだ、確か。母さんも微笑ましそうにしてたな。晴れ舞台だもんな。
「あーなんだか本当にごめん。どうやら私の癖みたい。直すまでは許してね。ロイド」
本当に直るのか? 立ち上がりつつもそう思ってしまった。ふぅ。とりあえず仕切り直しをしてほしい。このままだとなんだか悔しい。
俺が無言のままでいるとルリアは俺に対し背を向け武具屋の方を向いた。どうやらそろそろ中に入りたいそうだ、ルリアが。
「ロイド! 入ろ! ここは私の奢りだからね!」
無邪気な振る舞いをルリアは見せた。奢りか。なんとも太っ腹だな。実際は痩せている方だけど。あ。ルリアが入り始めた。
「あ。待ってくれ」
そう言い残し武具屋に入る俺とルリア。なんだか本当に懐かしい。武具の配置は変わっているが匂いは同じだ。あれからここではなにが変わったのだろうか。そうこうしている内にカウンターで立ち止まった。
「へい。いらっしゃい。ってルリアちゃんかい。うん? その隣りにいるのはだれだ?」
あれ? ここは確か老人のガンツさんが看板爺をやっていた筈だけどな。どうしたんだろう? ま、まさか。
「あ。俺はロイドです。あの。ここのガンツさんは亡くなったんですか」
あ。この雰囲気は当たったみたいだ。はは。そうか。もうそんなに経過してたのか。あの男気が忘れられないよ。あ! 一徹ガンツとは俺の事よう! がもう聞けないのか。俺から訊いておきながらなんて様だ。
「ロイドか。ああ。俺の爺さんなら亡くなったよ。数年前にな。今は御覧の通りだ。俺が切り持ってる」
そうか。なら懐かしいも当たり前……か。俺にとってはガンツさんの強さに憧れを抱いていた。実に残念だ。
「とそれよりもだ。お前らの要望はなんだ?」
ああ。無理をしてくれている。引き籠りでも恩返しは出来る筈だ。俺……やる。最後まで依頼をやってのけるよ。
「ここは私が。ガッテツさんにはロイドの武具を取り揃えてほしいの。ここにお金ならある」
カウンターの上にルリアはお金の入った布袋を置いた。かなり入っているようで軽くお釣りがきそうだった。
「ほう。いつの間にこんなに。いいだろう。おい! ロイド! 採寸を測るから俺に付いてきてくれ」
どうやらガッテツさんは防具を取り繕うために俺の採寸を測るようだ。俺は気兼ねなくガッテツさんの後を追った。
「私はここで待ってるから!」
ルリアの声だ。既に俺はルリアを見失っていた。測るだけとはいえ人の気配のないところに行くみたいだ。というか。親が健在だった頃を思い出す。ああ。本当はあの頃に戻りたい。
「んじゃ測るからじっとしていてくれ」
ガッテツさんはそう言うと豪快な見た目とは裏腹にこまめに俺の採寸を測り始めた。これも全て俺の防具のためだ。なんだか。こういうのは緊張気味になる。本当はちょっとは動いてもいい筈なのにな。
「ふむふむ。……よしよし。測り終えたぞ。それじゃあ取り揃えるから元の場所で待っていてくれ」
ガンツさんの息子さんだから凄くいい防具になりそうだな。と言われたからそろそろ戻るか。ルリアを待たせ過ぎは可哀想だしな。という訳で俺は戻っていった。
戻るとルリアは陳列棚の商品を見ていた。まぁ相当に暇な筈。ここは話し掛けるか。かなり久しぶりだな。こうして話し掛けるのは。
「ルリア! 後は防具がくるのを待つだけだ!」
急に話し掛けたからかルリアの背筋は伸びていた。これは驚いたのだろうと俺は思い謝る事にした。
「あ! 悪い! 驚かすつもりはなかったんだ!」
はは。これは相当に驚いたな。こっちを向いては体を痙攣させている。しかもだ。心なしか涙目になっているような気がした。
「謝っても遅い! なによ! いきなり!」
まだ動揺しているようだ。はは。なんだか申し訳ないけどルリアは相変わらずだな。確か昔もこんな感じだったな。懐かしい。でもここは謝っておこう。
「ごめん! 俺が悪かった! このとおりだ!」
素直に俺は頭を下げた。さすがにここまで謝ればルリアも許してくれるだろう。多分だけど。
「はぁ。……分かった。許す。ところで後は待つだけなのよね?」
凄く疲れ切ったような溜息だった。なんだか本当に悪い事をしたな、俺。でもここは気を改めて話を合わせよう。
「だな。どんな防具がくるか楽しみだ」
「おい! ロイドの為に取り揃えてやったぞ!」
急に後ろからド太い声がした。俺は余りの衝撃に思わず驚いた。まさかルリアの二の舞を演じるとはな。はは。
「なんだぁ? ロイド? 男ならもっとドシ! としとけ。ほら」
慌てて振り向いた俺になんだか男気の助言を頂いたところでガッテツさんは防具を渡してきた。ぐぅ。意外に重たい。
「おいおい。大丈夫か。着替える場所はあそこだからな。間違えるなよ」
ガッテツさんはそう言いながら着替える場所を目線で教えてくれた。確かそこは一人が着替えるには十分な広さだった筈だ。中は見えないように布製の幕が張れるようになっている。
「んじゃ俺は着替えてくる。というか。装着するだけか」
防具を見た感じは革製で実に動きやすそうだ。問題は蒸れがやばそうだ。うーん。だけど贅沢は言えないな。そうこう思っていると着替え室に辿り着いた。ちなみにだけどガッテツさんも付いてきた。
「一人じゃ装着が無理な場合があるからな。まぁそういう事だ。無理なら言ってくれ」
なるほど。って相手が女だったらどうするんだろ? 女性だって一人じゃ無理な時があるだろうに。あー余計なお世話だな。今はとにかく一人で着替えてみるか。
いちよう布製の幕で見えないようにした。中は鏡が設置してあり見た目を確認しやすくなっていた。うん。日焼けをしていない俺が鏡の中にいた。
遊びはこれくらいにして着替え始めた。うん? 案外一人でも装着できるぞ。お? おお? これはこれで素晴らしい。
ふぅ。なんとか装着し終えた。うん。鏡を見ても孫にも衣装だなんて言わせない。
「すぅ。はぁ」
うん。深呼吸をしても苦しくない。後はガッテツさんにお礼を言って武器も手に入れるだけだ。武器についてならもう既にほしい物は決まっている。
俺は自身満々に布製の幕を開けさせた。まるでそこは着替え室ではないような雰囲気を持たせていた。はは。実に痛い。
「お? 似合ってるな。よしよし」
「それじゃ後は武器ね」
急にルリアの声がした。どうやら俺が装着している間にこっちにきていたようだ。だけど今回は驚かなかった。
「武器だけどなるべく楯に剣を差し込めるのがいいな」
先手は大事だ。それに俺が使うんだ。俺が出しゃばらないでどうする。
「お? 武器か? それなら……こっちだ」
おお! あるのか! ガッテツさんが案内してくれるらしい。絶対に付いていこう。
へぇ。こんなにもあるんだ。この中で買えそうな奴を探さないとな。ルリアに怒られそうだ。とそれよりもどれどれ――
「お? ロイドが見ているのは手首の上に丸楯を装着して中に剣を差し込む奴だな」
ガッテツさん。見たら分かります。にしても値段がな。どれも高い。んん? 一つだけ格安がある。なんだ? これは?
「ああ。それか。それはな。いわゆる訳あり商品だ。なんでもそこらへんに落ちていたらしい」
「へ? それだけでこの値段?」
「お? 気に入ったか?」
「……決めた! 俺! これにする!」
「お? 即決だな。まぁ確かに悪い買い物ではないな」
「決まった? それじゃお会計をお願いします!」
「あいよ」
こうして俺は武具などを手に入れ剣士としての本格的な活動を始めようとした。全ては依頼主のために。またいつか日の出を見るために。俺は日陰を歩む。
日の出を浴びたくない剣士は外に召喚されても日陰を好む 結城辰也 @kumagorou1gou
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