日の出を浴びたくない剣士は外に召喚されても日陰を好む

結城辰也

第一章

第1話 昔の自分を取り戻せ!

 ふぅ。家の中はやはり落ち着く。まるで夢の世界にいるようだ。俺は家の中で半永久的に引き籠り続けるつもりだ。


 だれかが来ても居留守は平然と使う。たとえ相手が幼馴染のルリアであってもだ。もうこの生活からは抜け出せない。


 そう言えば最近は来ないな。うーん。気になるが知った事ではないな。こんなにもぐうたら生活が身に染みとはな。


 休息も束の間。


 急に玄関を叩く音がした。あーここは面倒だし居留守を使おうかな~。あはは。悪いけど今は独りがいい。


 玄関を叩く音は段々と過激さを増していった。な、なんなんだ? これは……だれの仕業なんだ?


「ロイドー! 私だよ!」


 あ。噂をすればなんとやらか。この声は間違いなくルリアだ。だけど俺はもう決めたんだ。幼馴染のルリアでも居留守は使うってね。


 うん? 急に静かになったな。諦めて帰ったかな。うーん。ちょっとは確認しに行くか、出ないと思うけど。


 ソファの上で掛け布団なしに仰向けで寝ていた俺はそう思いつつ床に両足をやった。その勢いのまま立ち上がると歩を進ませた。


 すると――


 急に俺の体が宙に浮き渦巻くなにかに覆われ次第に視界が晴れるとなぜか外にいた。余りの急な出来事に困惑しつつ前を見つめ直すとそこにはなんとルリアがいた。


 ルリアはどうだと言わんばかりの表情で俺を見つめていた。


 まさか! これが……召喚術なのか? そう言えばルリアが最後に来た時にそんなことを言っていたっけな。確か。


 ってちょっと待て! 今の俺は宙に浮いている! どうやって地上に下り立つんだ? ってフワフワ感が消えた!? 気付いた時には俺は地面に落ちていた。


「ぐはぁ」


 頼むから外に召喚するなら俺をもっと丁寧に扱ってくれ! ルリア! と言いたいが余りの痛さに俺は無言だった。


「あはは! ごめん! ごめん! まだ慣れてなくて」


 果たして笑い事なのだろうか。それにしてもこんな事までして俺になんの用なんだ。一体。とそれよりも――


「イテテ。あのなぁ! ルリア! 余り無理はさせないでくれ!」


 たく。俺の一時が台無しだ。ああ。せっかくの夢心地が本当に消えていく。この恨みを晴らすべきか。晴らさぬべきか。立ち上がりつつも愚痴を零す俺。


「そんなに怒らなくても」


 あ。つい言い過ぎた。うーん。まさか本当に召喚術を学んでくるとはな~。


「えへへ。ロイド? 私は遂に召喚士になったんだ!」


 ああ。そうとしか言いようがない。そもそも俺は引き籠りたい症候群の人間なんだ。もうほっといてくれよ。


「ルリア。俺を外にだそうだなんて無理だ。俺は独りがいいって言ったよな?」


 確かルリアに対して最後の訪問時に言った筈だ。もう無理なんだってね。なのにルリアは本気で召喚士になったのか。はた迷惑な話だな。全く。


「そんなこと……言わないでよ! 私はもう一度でもロイドの剣士姿を見たくて」


 俺は昔だけどそれなりに腕の立つ剣士だった。だけど……親が二人とも他界してから俺は家に引き籠るようになった。もう……だれも喜んでくれないと思っていたが。


「と、とにかく! 俺は無理だ。他を当たってくれよな」


 そう言いながら俺は自宅が近くと言うかルリアの後ろにあったので入り直すことにした。ふぅ。やれやれとんだ茶番だったな。そう思いながらルリアの横を通る。


「そ、そんな――」


 きっと昔の俺なら手を組んでいた。だけど……今の俺ではもう無理なんだ。だれかの為に生き甲斐を見つけるなんてそんな簡単には無理だ。代替わりなんて出来やしない。だってそうだろう? 親はもう二度と蘇らないのだから。


「私! 絶対に諦めないから! 昔のロイドに戻るまで!」


 もう……好きにしてくれ。はは。こんな事は口が裂けても言えないな。でも……面白い。俺をどこまで戻せるって? この俺の背中を見てもなにも思わないのか、ルリアは。


 俺はそう思いつつ自宅の玄関を開け中に入っていった。これで全てが終わると思っていたがまさかな。まただ。また俺は宙に浮いていた。く。またか。しつこい! またしても俺の前にルリアの姿が――


「諦めないって言ったよね?」


 真顔だった。どうして? ルリアはそこまで俺に突っかかってくるんだ? 分からない。にしてもまたか。また宙に浮いた状態か。はぁ。ってうお!?


「ぐは」


 おいおい。勘弁してくれ。また地面に衝突したぞ。これじゃいくつ命があっても切りがない。はぁ。


「ロイド。私じゃ駄目なのかな?」


 しばらく見ない内にルリアの心境が変わっていったのが今の一言で分かった。だけど本当に無理なんだ。俺にとっての親は二人だけなんだ。どうしてそれを分かってくれないんだ。ルリアは。


「人は……空しい生き物だ。どんなに頑張っても親代わりなんて無理なんだ」


 そうだろう? 孤独を抱えて人は死んでゆく。それが人じゃないのか。俺はもう……昔とは決別したんだ。俺だって……だれかに褒めて貰いたいよ。成長したなって。でも! 一番の愛情が……親じゃないならなんなんだよ。一体。


「そんな事……ない。甘えても……いいんだよ? 私……頑張るからさ」


 あ……。そうか。気付くのが遅かった。俺は独りに慣れた余りに独り善がりになっていたのか。そうか。俺には大親友がいたのか。もっと頼るべき相手がいたんだな。それに気付かず俺はなんて酷い事を――


「俺……もう一度……剣士をしてみようかな」


 仰向けのまま俺は言ってしまった。まさかこんなにも心変わりをするなんて思いもしなかった。これが……大親友の力なのか。


「うん!」


 あ。なんて複雑な表情なんだ、泣きながら笑みを浮かべるなんて。俺なんて泣くしか出来てないのに。なんだろうな。涙は冷たいが人はこんなにも温かいのか。


 これは俺が昔を取り戻し召喚士ルリアと共に人々の依頼をこなしていく物語だ。


「ロイド。外に出ようね? これからも」


「あ。いや。引き籠らないとは言っていない」


「え? 嘘?」


「だけど……依頼が来たら俺を呼んでくれ。常に動けるようにしとくから」


「うん!」

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