敵は弱いに越したことは無い
山口遊子
第1話 敵は弱いに越したことは無い
敵主力部隊が国境線を越えわが国に侵攻を始め、はや1週間。国土の3分の1は既に失陥している。工業力、技術力、国土の大きさ、人口。あらゆる面で侵入した敵国に対しわが国は優位に立っていたはずだ。敵の侵攻が始まるまで軍事力も圧倒的にわが軍が敵国を凌駕している。そう信じられていたし、そう信じていた。
隣国フロイセルが国境線沿いに戦力を集中していることは、その動きが出始めた直後から察知しており、わが国もフロイセルとの国境線へ戦力を移動し防衛力を強化し始めた。フロイセル側の戦力集中が完了したと思われる時点での最終的な戦力評価はわが国8に対しフロイセル1だった。この状況でフロイセルがわが国に対して侵攻を開始すると考えたものはよほどの間抜けか、気の狂ったオプチミストだけだった。
なす
フロイセル軍は現代において考えられないことに生身の人間が武器を持ち兵士として前線で戦っているのだ。こんな敵とどう戦えばいいのだ? 兵器体系にAIなど持たぬ敵軍に対し、巨費を投じ国境線沿いに建設した最新鋭対AI電子戦兵器群など何の役にも立たなかった。
わが国の兵器は全てAIにより制御されており、生身の人間に対し一切の攻撃が出来ない。その制御部分を改変しようと試みるだけで、兵器自体が使用不能となる。生身の人間に対して有効な武器を既存の生産ラインで製造するにはAIの組み込まれていない工作機械を新たに作る必要があり、その工作機械を作るためにはAIの組み込まれていないマザーマシンを新たに作る必要がある。こういった理由で、生身の人間に対し有効な武器を作るには製造
いくら敵の侵攻を遅らせるため進撃路上にバリケードを築き、橋梁を破壊しても、もはや首都陥落は時間の問題だろう。
「閣下、敵はいくら攻撃しても逃げ回るばかりで反撃してこない。まさに、鴨撃ちでしたね」
「わたしも、今回の侵攻作戦がこれほどうまくいくとは思わなかった。総統閣下にこの作戦の指揮を取れと言われた時には正直なところ、わたしの軍歴もこれで終わるのかと観念したものだよ。敵は弱いに越したことは無いな」
「そうですね。しかし、この国の連中、自分たちの兵器から都市の行政まで妙な規制の入ったAIに頼り切り。頭の湧いたような連中でしたが、本当にこんな連中を統治できるんでしょうか?」
「そこらへんは、総統閣下が何とでもするだろう」
「そうですね。それでは、閣下そろそろ参りましょう。間抜けの親玉のアシモフ大統領が降伏文書署名式典会場でお待ちです」
「君、間抜けの親玉などと、思っていてもそんなことをいうものじゃない。まあわたしも同感ではあるがね。ハハハ」
敵は弱いに越したことは無い 山口遊子 @wahaha7
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