第28話 二人きりの部屋
もうすぐ、さくらがこの部屋にやってくる…。
このことは、ユウスケにとって大問題だった。もちろんまだこの部屋で暮らし始めてから日が浅いので大して散らかっているというわけではない。
それでも、ユウスケは、部屋のどこかになにかまずいものは落ちていないか、念入りにチェックして回った。床とカーペットの上を何度コロコロを往復させたかどうかも分からない。
臭いのではないかと何度も部屋の空気に向かってルームフレグランススプレー(急遽桃華からレンタルした)を吹きかけもしていた。
「私、少し部屋に戻ってすることがあるから、そしたら行くね。」
食堂を出てさくらは言うと、そそくさと自分の部屋へ戻ってしまった。
いつ来るのだろう、と緊張する時間はもう三十分を過ぎていた。
ちがう、何もやましい気持ちはない。俺はただ、なぜさくらがこの選別に参加したのか?そして、これからこの制度を撤廃するための協力を仰げないか?これを聞きたいだけだ!
ユウスケはそう言い聞かせながらも、さくらがこの部屋に来るという事実に対しての緊張と胸の高鳴りを抑えることはできなかった。
落ち着け、俺、落ち着くんだ…。
脳内円花を呼び出し、「何期待してんの?きっしょ。」と罵倒してもらう。あのユウスケを心の底から嫌いだというような眼を思い出すんだ…。
そうして平常心を保とうとするが、でも、あれは父親のことがあったし一方的にユウスケ自体を嫌いになったというわけでもなかったもんな…。という思考がまた邪魔をし、全く落ち着きを取り戻せないのだった。
コンコン。
控えめなノックが部屋中に響き渡り、ユウスケは冗談抜きで飛び上がった。文字通り、ピョーン、と飛び上がった。
ドアノブに手をかける。
ここを開ければ、さくらが立っている…。
掌の汗をとりあえずズボンで拭い、ユウスケはドアを恐る恐る開けた。
「遅くなってしまってごめんね。」
少し所在なさげにもじもじとしたさくらがそこには立っていたのだった。
今すぐドアを閉めて、そのさくらのかわいさを一度整理したい気持ちにかられたが、何とかその気持ちを押し込め、ユウスケは
「いやっ、こちらこそ…急に呼んでしまってごめんね…。」
と答えた。
「ああ、ソファにとりあえず座って…。何か飲み物とか、いる?」
桃華以外の女子を部屋に入れたことによりユウスケの緊張はマックスに達していた。
さくらからは甘いいい匂いがして、その匂いがユウスケの部屋を少しずつ埋めていくのをユウスケは鼻で感じた。
「あ、うん。じゃあ水もらおうかな。」
いつものふふふ、という笑い方よりも少しぎこちなくさくらは笑った。
ユウスケは冷蔵庫からミネラルウォーター(もちろん未開封のもの)のペットボトルを出すと、ソファの前のローテーブルに置いた。
さくらはありがとう、と言うと水を数口飲み、すっかり黙り込んでしまった。
ここでユウスケに生じた問題は二つある。
まず一つ目は、どこに座るのか問題である。ソファに座るということはさくらの隣に腰を下ろすということ。そんな高度なことはユウスケには不可能だ。だからといってベッドに座れば距離が遠い。声を張り上げて話すのもまた難儀な話だろう。ゲーミングチェアに座るという手もあったが、ソファに対して背を向ける形になるため、話しにくいことこの上ないだろう。
その結果、ユウスケはローテーブルとテレビの間に不自然に突っ立っている形になっていた。
さらに、どう話を切り出すのか問題もまたある。
何で選別に参加したんだい?俺に最初から好意的だった理由とか、ある?なんてストレートに聞けるかボケ、という話なのである。
さらに、さくらも緊張しているのが空気からガンガン伝わってくるから、なおさら切り出しにくい…。
ユウスケはどうすることもできず、とりあえずあいまいな笑顔を顔に張り付けたまま、突っ立つことしかできないのだ。
そもそも、きっかけがあったとはいえこれまで自然にさくら、円花、みみ、桃華、早乙女と話せていたのがユウスケにとってはイレギュラーなのだ。
現在の形の方が、俺にとっては普通で、通常運転だ…。
そんなユウスケにしびれを切らしたのか、さくらはおずおずと話しかけてきた。
「なんで立ってるの…?隣、座っていいのよ。私の部屋でもないのにこんなこと言うの、変かもしれないけれど…。」
隣!!!!ハードル高すぎ!!!!
ユウスケはそう叫びたい気持ちを全力でおさえながら、
「あ、うん。じゃあ…。」
と言ってさくらの横に腰かけることにした。
袖と袖が触れ合わないか、微妙な距離がくすぐったい。そして、甘いにおいがさらに強く感じられた。
逆に顔を合わせなくていい、という点では話は切り出しやすくなったのかもしれない…。ユウスケはそう前向きにとらえることにした。
一介の浪人生だった俺が、前世階級がSSSだったことが分かり生活が一変!《結婚相手は誰を選ぶ??》 かどめぐみ @mogumaru
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