第27話 二人きりの夕食♡

 「ユウスケくんが私を選んでくれるなんて嬉しいなあ~?」

 にやにやしながらデザートのシャーベットを口に運ぶのは、さくらだ。

 二人は、平日に割り当てられた暫定一位との夕食を他の人たちとは違う時間帯に食堂で楽しむことになっていた。

 もちろんこの間はほかに監視の目もあるため、ユウスケはあくまでも自然にさくらといちゃつかなければならない、ということになる。

 …そもそも女子と話すこと自体慣れていないのに、どうやって自然なイチャイチャを演出すればいいんだ…ユウスケは途方に暮れていた。

 「ほら、ユウスケくんも食べなよ。もしかして、お姉さんに食べさせてもらいたい?」

 暫定一位に選ばれただけあってか、今日のさくらはこれまでにないくらい上機嫌なうえに積極的である。女子との食事というものにそもそも慣れていないユウスケはいちいちどきどきしながらさくらと会話を交わしていたのだった。

 「もう、からかうのはやめてくださいよ。」

 顔が赤くなっていくのを感じながらユウスケはさくらに抗議する。この後さくらに協力してもらうべくいろいろと考えていたのに、そういうものがすべて頭から吹っ飛んでいきそうだった。

 「からかってなんてないよ!ただ、せっかく選んでもらえたんだし、もっと仲を深めたいな?と思ってるだけだよー。」

 「それがからかってる、っていうんです!」

 ユウスケの言葉になおもさくらはニコニコするばかりである。

 「ほら、早く食べないと溶けちゃうよ?」

 さくらはユウスケの前に置かれたガラス容器に入ったシャーベットを指さした。ゆず味のそのシャーベットはとてもおいしかったのだが、積極的なさくらにペースを崩されまくっているユウスケはなかなか食が進まない。

 「もうー、食べないなら私がもらっちゃうんだからね。」

 さくらはひょいと持っていたスプーンでユウスケの食べかけのシャーベットをさらっていく。

 …こんなんで間接キスになるかも、なんて考えるなんて俺はなんて馬鹿野郎なんだ!

 ユウスケは自分で自分に引きながらちらりとさくらを見上げた。きっと余裕で間接キスだなんて一ミリも思っていないのだろうと考えていたのだが、さくらの耳も赤くなっていることに気が付いたユウスケは、全身がくすぐったいような不思議な感覚に襲われた。

 年上でしっかりしていて、あんなに余裕そうなくせに耳を赤くするなんて反則じゃないか!?

 ユウスケの脳裏には、『自分の気持ちに素直になることもお忘れなく』という早乙女のセリフがリフレインしていた。

 もし俺が、自分の気持ちに素直になるならばさくらを好きになっていくのだろうか…。

 目の前のさくらをもう一度見つめてみる。

 おそらく、このような機会がなければこんなかわいい女子大生と出会うことはなかっただろう。

 茶色く艶のある巻き髪、白くややピンクがかった肌、大きく丸い瞳。もし高校の時に同じクラスに居れば、円花に負けず劣らずの人気であったに違いない…つまりは、ユウスケとは住む世界の違う女の子、ということである。

 ただ、そんな女の子がどうして自分なんかにこんなに良くしてくれるんだ…?

 ユウスケとしては、そうした疑問を抱かざるを得なかった。さくらは、確実に初めからユウスケに好意的に接してくれていた。だからこそユウスケもさくらに対しては安心することができていたし、信頼もし始めているし、惹かれ始めてもいた。

 円花がこの選別に参加した目的は、亡き父のためこの制度をぶち壊したいからだと彼女は言っていた。とんでもない理由だが、筋は通っているしそれが嘘だとは思えない口ぶりであり態度だった。

 みみもまた、あの母親とのやり取りを聞けば参加理由については疑問はない。

 ユウスケも桃華のことが無ければここにいたかどうか定かではない。

 では、さくらは?

 かわいらしく、さらにはかなりお金持ちのお嬢様であるような彼女は、なぜわざわざこの選別に参加したのか?裏はないのか?

 ユウスケは一気に湧いてきた疑問に、疑心暗鬼になってしまう。

 そんなユウスケの様子に気が付いたのか、さくらは不思議そうに首を傾けて此方をのぞき込んできた。

 「ユウスケくん…?どうかした?」

 ぜひ、真相を確かめなければ。

 そう考えたユウスケは、深く考えず、真相を確かめたいという思いだけでこう言ってしまった。

 「この後、俺の部屋に来てくれない?」

 部屋に来てもらおうと考えたのはもちろん監視の目などが気にならないであろうという考えからだったのだが、そう言った直後のさくらの顔を確認し、ユウスケは自らの言葉のチョイスがまずかったことに気が付いた。

 「えっ…う、うん。」

 頬を赤く染めたさくらは、上ずった声でそう答えたのだった。

 …言い方も場所も完全にミスってしまった…。

 ユウスケは、バクバクとうるさい心臓を鎮めたい気持ちでいっぱいだった。

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