第26話 早乙女さんに相談してみよう!(2)

 「好きな子ですか…。」

 好きな子、というワードがなかなかしっくりこないままユウスケは復唱した。

 これまでの人生の中で気になる子ができたことが無いというわけでもなかった。だが、元から両想いになることをあきらめているようなユウスケには、本当に好きになるという感覚がどのようなものなのかは分からなかった。

 「そうですよ。私、シンプルに好きになった方と結婚してはどうかと思いますよ。」

 真剣な顔で早乙女はそう言った。

 「村田様、とても心優しい方ですし、素敵だと思います。きっと、相手の方々も本当にあなたのことを好きになってくれると思うんです。」

 早乙女の意外な言葉に、ユウスケは驚いた。

 「そんな、お世辞でもうれしいです。」

 「お世辞だなんて言わないでください。私は真面目に言っています。」

 少し怒ったように早乙女は反論した。

 「でも、本当に好きな人と一緒になるのなら、こんな制度で限られた人の中から選ぶなんて、おかしいとは思いませんか?」

 ユウスケの言葉に、早乙女ははっとした顔をする。

 「…確かにそれはおっしゃる通りです。わたくしとしても、本心からこの制度を支持することはできません。それでも、お給料をもらっている以上は仕事をしなければならないのが現状ですから…。」

 申し訳なさそうに早乙女はそう話した。

 もしかすると、早乙女をこちら側へ招き入れるのは可能かもしれない…ユウスケはそう考え始めていた。

 「この制度をどうにか変えたい、と俺が思っているとしたらどうしますか…?」

 「えっ。」

 手にしていたコーヒーカップを早乙女は置いてユウスケを見つめる。

 「本気ですか?」

 「本気だと言ったら、どうしますか。」

 「…私は、表立って応援することはできませんが、そう言った方が多いだろうことは分かります。私も…。」

 早乙女は何かを言おうとして、口をつぐんだ。

 「協力してほしいんです。俺、この制度をどうにかなくしたいって本気で考えてます。それは、自分のためだけじゃない、こんな強引な制度が成り立つなんておかしいと思いますし、世界のために。」

 真剣に話すユウスケの目を、早乙女は何も言わずに見つめていた。

 しばらくして、早乙女は意を決したようにこう言った。

 「…分かりました。私のことを納得させることができれば、協力しましょう。」

 そう言った早乙女の顔は、完全に仕事モードのかっこいい顔だった。

 「まずは綿密な計画を立てることが必要だと思います。正直なところ、なぜだかあなたには期待できるというか、期待したい、と思ってしまっているんです。だから、確実な方法で何とかつぶしましょう。」

 「…ありがとうございます。」

 「計画を立てるにはまず敵を知ることが大切です。それだけ、先に伝えておきますね。そして、順位をつける件についてですが。」

 言いにくそうに早乙女は続けた。

 「これまでの過程については私以外の使用人などからもレポートが上がっています。きっちりと監視されている状況です。…長谷川様との一日については、狭い道を通ってどこかに行かれたようで詳細は上がっていませんが。ですから、今現在、一番怪しまれない人を選ぶことをお勧めします。」

 「…言いにくいことをありがとうございます。ではやはり、さくらさんですかね…。」

 「ええ。」

 早乙女は大きくうなずく。

 「湖城様、高梨様、長谷川様という順位付けが今の時点ではとても自然です。自然なやりとりを見せながら、裏で手を引いていくのが近道のはずです。」

 「なるほど。確かにそうですね。では今週はそれでいきましょう。」

 「もちろん、村田様がこの国を変えていくこと、とても期待しています。できることは協力もしていこうと思います。ただ、自分の気持ちに素直になることもお忘れなく。」

 そう笑った早乙女は、意外にも子供っぽく見えて、ユウスケは少しドキッとしてしまったのだった。

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