第3話 突然できた妹

「はぁ!はぁ!はぁ!」




学校の階段を2段飛ばしで駆け上がる。




『わたしを頼れ・・・』




あの橘の言葉だけを頼りに、息が切れながらこうやって走っている。




バーン!!




周りの目なんか、全く気にせずに教室の扉を勢いよく開ける。




(橘は・・・いた!)




「橘!ちょっと部室までいいか!」




俺はそう叫び、橘に同行を求めた。




周りから『やだーなにあれー』『だいたーん!』っと言われてた気はしたが、聞こえてないふりをして橘の腕を引っ張って教室から部室まで早足で行った。




部室に入るなり、橘を椅子に座らせて今まで体験した事をすべて洗いざらいに話した。




海が弟だった事、校内で夏奈が殺された事、変わってしまった海と橘が戦った事、死にそうな海に触れたら光に包まれて朝に戻った事、橘に頼れと言われた事。弟が妹になった事。




橘はすべて聞き終えた後、「そう」っとだけ、答えて暫く沈黙が流れた。




(いや、実は俺の頭がどうかしてしまって、実際は妹がいたのに何故か夢の弟が本物と思い込んでただけとか?今、橘に頭おかしい人と思われてるんじゃないのか?)




そうグルグルと思考をしていると、橘が口を開いた。




「合点がいったわ。どこから話そうかしらね・・・。オツムが弱そうな貴方に分かりやすく説明をするのが難しいわ。貴方はわたしが戦ってたと言ってたわね、ご察しかもしれないけど、わたしはここの生物ではないわ。それっぽく言うと宇宙人ってとこかしら。」




「へ?」




唐突なカミングアウトに目が点になる。




橘は部室に置いてあった宇宙の図鑑を取り出して説明を続ける。




「地球があるところは太陽系。太陽系みたいなのをたくさん集めて天の川銀河。天の川銀河みたいなのをまたたくさん集めて局部銀河群。局部銀河群みたいなのをまたたくさん集めておとめ座銀河団。おとめ座銀河団みたいなのをまたたくさん集めて局部超銀河団と言うわ。実際はもっと広いんだけど、総称して宇宙って呼ぶじゃない。その宇宙が1つ1つ数え切れないくらいあるの。その宇宙群の中心にコアと呼ばれる機関があるの。わたしはそこから派遣されたわ。コアはすべての宇宙の秩序と循環を司ってる。貴方たち地球の生物も元は全部コアから作られた物よ。宇宙を循環させるための巨大なエネルギー、それを補うために各宇宙へそれぞれ役割を持ってコアによって創造されるわ。生まれて、成長して、消費して、そして死ぬ。そのすべての生体はコアへの大事なエネルギー供給源となるわ。死んだ生物はまたコアの一部になってまた、各宇宙に役割を持って派遣される。まぁ、貴方達の概念から言ったら天国とか地獄みたいなものかしら。ここの宇宙は辺境だから時間という変わった法則があるから、そんな非効率な供給方法なんでしょうね。そしてコアの循環するエネルギーから副産物が出てくる。それがあなたが見た、わたしが見えない奴。名を付けるならマリグナント・クアンタム。悪性の量子ってとこかしら。奴らは各宇宙に悪い影響を与える事が多いわ。この惑星では天災を起こしたり、人間に取り付いて奇行や凶行を起こしたり、貴方の言う弟は完全に憑りつかれたみたいね。だからわたしはあなたの弟ごと殺したんだと思う。奴らを破壊してその破壊したエネルギーをコアに供給するのがわたしの使命。」




「う・・・さっぱりわからん・・・。」




「それでわたしはこの惑星に受肉したんだけど、辺境すぎるせいか、全く奴らの姿が見えなかったのよ。それで仕方なく、この惑星で信仰されている神と言われる存在から神器をいくつか拝借したわ。まぁ、ゴネられた時は神ごと力ずくで持って行ったけど。そのやつらの神器をあなたに与えた、神器の名前は『ウジャト』古代エジプトで信仰された神の目ね。わたしが持っている槍は『スカンダ』」




「神器ってあるかないか分からないものを手に取って使えるものなのか?」




「信仰されるから有るのよ。有るから信仰されるんじゃないわ。話を戻すけど、わたしが槍でぶっ刺したやつは時間を操作してたのよね?」




「ああ、時間が完全に止まってた・・・気がする」




「時間操作と神器を媒体したあなたとわたしの存在それと・・・弟の貴方に対する意思。それらが奇跡を起こしてこの宇宙の時間の改変したと仮定するのが正しいと思うわ。今のわたしの力は受肉した際の1/10程度しか今はないわ。今朝わたしの力は突然6つの神器ごと四散した。わたしはここの時間の法則外の存在だから、結果だけ反映されたのね。そして、貴方の中には『ウジャト』が不完全ながら残っているしわたしとリンクもされている。後、わたしに残っているのはあなたも見た『スカンダ』だけ」




「神様ごと四散したって、それ大丈夫なのか?」




「まぁ、大丈夫じゃない?早ければ1年くらいかしら、神器を元に戻せなかったらバランスが崩れて影響が出ると思うけど・・・。この銀河系の消滅くらいで済むと思うわ。」




何故かとびっきりの笑顔を見せる橘。




「はっ!?何言ってんだ!!それはやばいってレベルじゃないだろ!」




「宇宙ごと消滅するなんて特に珍しくもないし、わたしは避難するから気にしないで」




「誰もおめーの心配してねえええよ!」




「ま、話をまた戻すけど予測だけど、四散したのは神器とわたしの力だけじゃないと考えられるわ。マリグナント・クアンタム、話を聞く限り奴が消滅する前に時間の改変が行われたみたいだから、わたしと同じくコアから来た奴もここの時間の法則外の存在だから四散したはずだわ。そっちをどうにかして倒さないとわたしもコアに帰るにも帰れないし。全く、手間がかかるわ。でもおそらく神器とくっついて四散したはず。だから6つね。」




「どっちにしてもそのマリグなんとかを見つけないと、世界をぶっ壊す神器も回収できないってことか・・・」




「あら!ごめんなさいね。わたし、ここの惑星来たばかりで何て言葉をかけたらいいのかよく分からないけど、『意外にお利口さんじゃないの。ダンゴムシ並みの脳みそのくせに』っと褒めておくわ。」




(絶対わざとだ・・・こいつ、薄々感じていたが、ギャーギャー言う夏奈と違った方向で"超ドS"だ・・・)




「わたしはマリグちゃんを倒すことができる。あなたは世界を守るために神器の回収のお手伝いをする。これってWin-Winじゃないかしらね。」




「いや、巻き込まれた段階で完全にWin-Loseだろ・・・。一割もこっちに得ないぞ・・・」




「さてと・・・。そろそろ教室戻ろうかしら。」




(無視かよ・・・)




橘は立ち上がり、ドアの方へ歩く。




「妹さんとの記憶はその内に馴染むと思うわ、暫くは弟の記憶と混合して混乱するかもしれないけどね。あと、あなたの知人全員確認した方がいいわ。性別とか変わっているかもよ?」




「わかった。確認しておく。」




「さっき『ウジャト』がまだリンクされてるって言ったじゃない?あれ1時間に1回くらいの間隔で勝手にリンクされるみたい。用を足すときは上を見ながらしてもらったらありがたいわ。変なもの見せてきたら1cm刻みで短くなっていくと思いなさい。」




「げっ!!!」




思わず前かがみになり股間を手で隠す。




「あと・・・、妹の着替えを覗くのはどうかと思うわ。下手すると家庭崩壊に繋がるわよ。それじゃあね。」




ピシャっとドアが閉まる。部室に残された俺はただただうなだれていた。


というか泣いていた。




----------------------------


俺は自分のクラスの隣の教室のを覗いていた。隣の教室というのは夏奈のクラスだ。




(夏奈。あの時殺されてしまったから、今一番存在を確認したい。)




「あんたこそこそと何やってんの?」




振り向くとそこにはいつもと変わらない腕組みをしてジーっと眺める夏奈の姿がそこにはあった。




「な、な、な、夏奈!変わりないか??生きてるよな??」




「はぁ?何言ってんの?・・・お加減はよろしいのでしょうか?(ニコ)・・・教室の前でちょろちょろしてたら目障りなのよ。・・・また放課後に部活動でもしましょう(ニコ)」




他生徒が通る瞬間のみ上品になるとこあたり、いつもの夏奈と変わりない!


俺は非常に安堵した。




「よかった・・・。夏奈・・・。」




何か日常的にあるものを失う夢を見て目が覚めた後、夢でよかったーっと思う感覚が押し寄せてくる。




「・・・あんたがわたしの何に心配してるか知らないけど、わ、わたしはいつも通り何も変わりないわよ。」




「ああ、いつも通りだ。」




俺が笑って夏奈に答えると夏奈は慌てて後ろを向きながら言った。




「現像作業・・・。あんた忘れてたでしょ?手伝ってあげるから、放課後やりなさいよね。」




「ああ、必ず行くよ。」




「ふん」




夏奈はそのまま自分の教室に戻っていった。




----------------------------




夏奈と会話した後、教室に戻ると雄太の姿が見えた。




「お、空也おはよ。んー?何かいい事でもあったのか?」




「いや、別に。ところで雄太、最近変わった事なかったか?」




「変わった事?あるよ!」




「まじで?」




「ああ、最近俺が女の子にメールを送ると、次の日に『寝てた』とメッセージくる確率が非常に高い。」




「いつも通りでよかったよ。」




「ええええ!?」




俺はスタスタと自分の席に戻った。




自分の席に座ると、左隣の中条から話しかけられる。




「池ノ上君、クラスの女子数人が話してたけど、橘さんを強引に連れ去ったって言ってたよー」




「え!えっとあれはその・・・そう!コンテスト出品用の写真を選んでてもらってたんだよ!元々そんなに話したことなかったから新しい意見聞けるかなって!」


(まぁ、実際話してみたら超ドSだったという残念な情報ももらえたけど・・・)




「そ、そうなんだ。何か問題でもあったのかと心配したよ。」




安堵の表情を見せる中条に確認の為に聞いてみる。




「中条は最近、何か変わった事なかったか?」




「変わった事?んー?うちの庭に植えた遅咲きのチューリップが咲いた事かな」




(う、可愛い・・・。)


「いつも通りだな。よ、よかったよ。」




顔が赤くなってそうなので、俺はそっぽ向きながら答えた。




----------------------------




昼休み、俺はいつものように雄太と食堂へ行くために立ち上がった。




「雄太、食堂行こうぜ。」




「ん?お前が食堂なんて珍しいな?」




母親は朝ごはんは作るが、昼ご飯の弁当は面倒くさがって作らない。


いつも俺は何を食べてたんだ?


その疑問はすぐに解けた。




「兄ちゃん!お弁当朝忘れて行ったでしょー!」




「か、海っ」




「はい、これ今日のお弁当。」




海は可愛らしい猫がプリントされているランチクロスの弁当を俺に渡してきた。




「これ、お前が作ったの?」




「何言ってるの?いつもわたしが作ってるじゃん?今日の兄ちゃんマジ変だよ?」




(しまった!動揺せず動揺せず!)


「あ、あはは!そ、そうだよな!すまんすまん!いつも美味しい弁当ありがとうなー!」




「分かればよろしい!じゃあ、またね!兄ちゃん!」




そう言って海は廊下で待っていたであろうクラスメイトの女の子とお昼ご飯を食べに行った。




「ほーら、やっぱり海ちゃんの愛妻弁当あるじゃんかー。」




「愛妻弁当って、おまっ」




妬ましく言ってくる雄太に俺はやっぱり動揺を隠しきれなかった。




「ま、いつも通り寂しい俺は食堂で食ってくるよ。」




「お、おう、すまんな」




教室を出ていく雄太を眺めながら、俺は弁当を開封すると


そこにはご飯の上に鶏のそぼろ煮で大きくハートの形を模った弁当アートがあった。




「ぶっ!!!」




慌てて蓋を閉める。




(おいおい、いくらなんでもやりすぎだろう・・・。こりゃ愛妻弁当言われるわ・・・。


っていうか・・・いつもどうやって俺はこういう弁当食べてたんだ・・・?)




----------------------------




俺は隠れながら弁当を食べた後、橘に現状報告をした。




「一応、休み時間を利用して交友関係にある人達全員あたってみたけど、海以外は特に気になる点はなかったよ。」




「そう、改変は当事者である弟・・・今は妹かしら、海ちゃんにしかなかったのね。」




「ところで、どうやってマリグなんとかを探すんだ?」




「正直、今のわたしじゃ感知が中々難しいわ。人間の中に入っているなら尚の事厄介。眼を持ってるあなたなら育ちかけた個体は見える事ができると思うわ。」




「じゃあ、俺が見えたら橘に報告するってことでいいのか?」




「そうね。あと注意してほしいんだけど、奴らは宿り主の負の感情とかで育っていく。ある程度まで育ったら宿り主から引き離すことができるわ。ちなみに育ちきっちゃうと対処法は命を奪って対処するしかなくなるから、せいぜい頑張りなさい。」




「ってことは常に色んな人を注意して観察しなきゃいけないってことかよ。この市だけで何万人いると思ってるんだよ。」




「だからあなたに近くの交友関係の人達の変化を確認してもらったわ。それはなかったみたいだから、少なくともあなたと海ちゃんの顔見知りまでね。赤の他人まで飛んでいたらもっと変化があったはず。」




「そうなのか。ちょっとはマシになるな。」




「半分はわたしの勘だけどね。」




「急なメタ発言やめて・・・。」




「じゃあ、私からあなたに情報。」




「ん?なんだ?」




「あなた、中条さんと話している時、いつも目線がミミズのように泳いでるわよ。挙動不審者そのものね。」




「ぐはっ!そんなこと言わなくていい!」




(視界共有・・・忘れてた。お、俺のプライベートが無残にも侵害されていくのを感じる・・・)




----------------------------


放課後、雄太も捕まえて現像作業を急ピッチで終わらせた。


早く帰れるだろうという計らいだったのだが、何か学校で嫌な事でもあったのか、終始夏奈は機嫌悪かった。


その後、帰宅途中に雨が降ることを忘れてた俺は土砂降りの中、走って帰宅したと同時に風呂に入った。




「ふぅ、、、湯が沸くまではかなりきつかったけど、こうして湯に浸かると冷えてた体の節々が暖まれて本当癒されるねえ。」


(けど、本当に近くにいるのだろうか・・・。橘は途中で勘とか言ってたから不安でしかないんだよなあ)




今日の橘の話を1から全部思い返していると、廊下を走る音が聞こえてくる。




(なんだ?今、物凄く悪寒が・・・。俺の第六感が囁いている。これはまずい状況になると!)




俺の予感は見事に的中して、脱衣所に乱入する者が現れた。海だ。




「あれ?兄ちゃん風呂に入ってるの?」




「あ、ああ、もう出るから、ちょっと向こうで待っててくれ。」




「ふーん」




出ようと浴槽から立ち上がると、風呂場の入口からかすかに映る脱衣所に衣服を脱ぎだしている海のシルエットが映った。




「まてまてまてー!お前は何で脱ぎ始めてるんだ!!」




「脱がなきゃ入れないじゃん!ひっさびさだなー!兄ちゃんと風呂入るの。」




「俺の自由意思は無視か!久々って小学生以来かよ!」




「ん~?半年ぐらい前じゃん?」




(何・・・だと!?結構最近じゃねえか!この世界の俺はどんだけ軽いんだ!?しかも妹に!」




結局、風呂場の入口で行われた一進一退の攻防は同時に入れ替わるという妥協点で決着は付いた。


あとはこの様子が橘に見られていない事をただただ祈るだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る