恋とバトルは宇宙の彼方から
@ponkichiT
第1話 夢の出会い
・・・夢を見た。
月明りに照らされた少女を見上げる俺。
少女の顔は月の影に隠れて見えない。
少女の長い髪と変わったドレスが風に揺れる。
右手に持つ少女の背丈よりも長い槍。
そして左手を俺に向けて、消えていきそうな繊細かつ綺麗な声で確かにこう言った。
『わたしの眼になれ』
・・・・・
・・・
目が覚めるとそこに映り込んできたのは見慣れた自分の部屋の天井だった。
背中の固い感触と息苦しい感覚でベッドから落ちた状態ということにすぐ気が付いた。
「おーい、くう兄、すげえ音してたけど大丈夫か?もう朝飯できてるみたいだから早く着替えて来いよ」
ドアの向こうから聞こえてくる弟の声を聞きながら、自分の部屋の日付付きデジタル目覚まし時計を確認する。
「5月・・・8日・・・7時・・・
うむ、、認めたくないけど登校日だ・・・」
まだ半分寝ている状態ながら制服に着替えている時に昨晩見た夢を思い出す。
「(夜中までラノベ原作のファンタジーアニメ見まくったからなあ、変な夢見ちまったよ・・・)」
「・・・あれ?どんな夢だっけ??まぁいいか」
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俺が母親がいるダイニングで朝飯を食べていると弟の姿が無い事に気づいた。
台所で洗い物をしている母親に尋ねる。
「あいつ、もう学校行ったのか?早いねえ」
「先生に頼まれ事があって早い目に学校行くってさ。弟は先生に頼られて早い登校、兄は夜中まで
ゴソゴソとして今こうして、寝癖を付けながらまだご飯食べてる・・・かあちゃん悲しいよお。」
ヨヨヨヨっと大げさに泣き崩れるふりをして朝一の説教をかましてくる母親。
「悪い意味で先生に呼ばれてない兄もちょっと誉めてもいいんですよ・・・母上・・・」
「さっさと行ってこーい!!!」
母親の圧を感じ半ば逃げるような形で「いってきまーーす!」と言い残し家を出た。
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俺の名前は池ノ上空也いけのうえくうや。小野寺高校2年生。
たった5人しかいない写真部員だ。
この上なく平凡を愛するごくごく普通の男子高校生である。
クラスメイトからは(卑屈っぽい)やら(人生に冷めてる男)やら色々と好き勝手に言われる。
そして大抵、好き勝手に言われる際には(弟と違って)と言う厄介な枕詞が付いてくる。
弟の名前は池ノ上海かい。1つ違いで同じく小野寺高校1年生だ。
弟は非常に出来がいい。
成績優秀で、イケメンで、運動もできる。テニス部のエースでもあり、男女問わずモテモテのリア充だ。
時折覗かせる八重歯がキュートだと女生徒から評判だ。犬歯と言え、犬歯と。
中学の頃から『池ノ上くん、これ弟さんに渡して・・・』っとラブレターを顔を真っ赤にした女子生徒から何十回も媒体役で告白を受けている。
『ポストにでも投函しとけ!』
っと言えるほどの度胸も女性に対する免疫もない俺は素直に愛の郵便局員という惨めな奉仕を毎回していた。
全く似ていないと言われる俺達だが、ただ一つ似ているのは・・・
「おーい!空也~!おはよー!」
後ろから聞こえてくるのはクラスメイトであり幼馴染で友人の村上雄太。
お調子者の雄太は数少ない俺の友人だ。貴重な写真部員でもある。
「おはよう。しかし、やっぱりお前だけだな。後ろ姿だけで我が尊弟と間違わないのは。」
俺と弟の、だた一つ似ているのは『後ろ姿』だけである。
背や後ろから見た髪型、体格が似ている為、よく間違われるのだ。
「まぁな!海と比べてお前は邪念というか負のエネルギーが出てるからな、それを受信したら余裕で看破だぜ」
「・・・是非そのアンテナをへし折らさせてくれ」
「お前は分かってないんだよ、この辛さ。後ろから呼ばれて振り向いたら『あ、間違えましたー』と言われるのはまだマシな方で。酷い時は見知らぬ女子生徒がわざわざ前に出て確認してくる。そしてドキドキワクワクな赤面が俺を見た瞬間にみるみる冷めていって露骨に残念そうに肩を落としたり、『ちっ』と舌打ちされたりな。・・・不意打ちで僅かに残っている俺の繊細な尊厳を容赦なく削りにかかってくるんだぞ。」
「もういい!もういいよ!兄さんは頑張った!忘れよう!いや、忘れてくれ!くぅっ」
二人して泣きながら登校した。
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学校の下駄箱にたどり着くなり雄太が思い出したかのように言った。
「あ、しまった。俺風紀委員会に呼ばれてるんだった。わりぃ、先に行くわ」
「また何かやらかしたのか?いってら」
そそくさと上履きを履いて走り去っていく雄太を横目に自分の上履きを履いていると、不意に明るい声で話しかけられた。
「おっはよ~池ノ上君。連休明けて眠いね。」
「おはよう、中条」
彼女は中条澄なかじょうすみ。茶髪のセミロングで髪留めピンをいつも付けているクラスメイトの女子だ。
見た目は少しギャルっぽくも見えるが、実際は結構オタクっぽいところもあり、誰だろうと隔たりなく接するタイプの人間なのでクラスでも人気が高い。
また明るい女子だけど少し抜けているところがあり、そこがまた小動物のような愛玩動物のようなイメージがある。うーん、、ハムスター系?
こんな彼女だが、実は3人目の写真部員でもある。実に不思議である。
「連休中さ、池ノ上君に勧めてもらった『アニメ版の兄キング』が面白くて一気見しちゃったー。」
「ああ。面白いけど全くタイトルを知らない人が聞いたら、俺がまるでガチムチ兄貴が好きな人のようにも聞こえてしまうからできれば止めて欲しい。俺の高校生活が更に惨めになってしまう。」
「アハハ!考えすぎ考えすぎー。心配性くんだなーもー。」
ニコニコ笑う中条の横顔を見て思わずドキッとしてしまう。そう俺は高嶺の花だとは分かっているのだが、高校入学時から彼女に恋をしている。
「あ・・・」
中条は先ほどの笑顔が消えた。目線先を追ってみると、そこには弟の海が同級生らしき女子3人と配布物であろうプリントの山を持って歩いていた。
俺は恋をしている。が、同時に叶わない恋であることも理解している。
「弟くん、、だよね?」
中条は海の事が好きだろうから。
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ー放課後ー
「ふぁ・・」
不意にアクビが出てしまう。連休明け・・・というより夜更かし後の授業が堪えた。
一刻も早く帰宅して先日録画した『魔法少女まろまろん』の続きが見たい。見たいのだが、こういう日に限って連休前に部室に忘れてた漫画本の存在を思い出してしまったのだ。
(流石に今日は誰もいないとは思うけどね)
そう思い、部室のドアを開けると先客がいた。
「なんだ、バカ空也じゃない。目線を送って損した。」
「損得勘定がもはや別次元だな。夏奈。」
「てか、しれっとわたしを名前で呼ぶなし!」
「お前が嫌がるからな。嫌がれてもお前になら本望だ。」
この生意気な女子の名前は日向夏奈ひむかいなつな。同級生で隣のクラスの女子だが、こいつと雄太とは腐れ縁の幼馴染。
見た目はすらっと透き通るような黒髪ロング。無駄に発育した胸部に殿部。良いとこ育ちのお嬢様のような顔立ちをしている。
・・・が、しかしめちゃくちゃ性格は悪い。本当に悪い。真正のサディストとも言える。
俺と雄太以外には猫を被りまくりで、近所や学校では清楚系のお嬢様みたいな振る舞いをしていて非常に評判が良い。
昔から悪口を言われるやらイタズラをされる事なんかは日常茶飯事。やり返すと持ち前のウェアキャットスキルで逆に俺が悪者に仕立てられる。俺と雄太は何度辛酸を舐めさせられたことやら。
昔から海LOVEで過保護にしている。まぁ、海はその辺はうまい事、避けているようだ。
残念な事にこいつも写真部員だ。
「で、何で部室にいるんだ?」
「は~、、野暮な事言うな~。この前の入学式の写真を現像しようとしてるんじゃん。どっかの残念な誰かさんが生徒会に写真提供する約束しておいて現像もせずにず~っと放置してるから、わたしに催促が来たんじゃんか。あとこんなのデジカメで撮れよ。」
「その残念な誰かさんはきっと日向さんの卓越した処理能力を見越してたんだろう。むしろ賞賛に値するとは思わないか?」
「減らず口を叩く・・・!」
と夏奈が怒鳴ろうとした時に部室のドアが開いた。
5人目の写真部員。橘たちばなちとせ。
中学生と言っても通じそうな顔立ちをしており、ショート風の髪型が余計に幼さを際立てている。
4月に転校してきた同じクラスメイトなのだが、全く素性が分からない。
というより、この女子と全く会話をしたことがないのだ。
「あら、橘さん。ごきげんよう。」
「うわぁ、秒で性格が・・・ぐおっ!!」
足の甲に激痛が走る。夏奈に思いっきり踏みつけられていたのだ。
(・・・秒で性格変えて秒で攻撃してきやがった。)
「今日は何か部活動されるのですか?」
「・・・いや、ここに置いてあった本を取りに来ただけです。・・・それでは、帰宅します。また。」
「はい、お気をつけて~」
俺が足の痛みにうずくまっている中、さっさと橘は帰っていった。
「で、あんたも現像手伝いなよ。げ!ん!ぞ!う」
「おぉ!そうだな!じゃあ足の腫れと交換っということで!」
「あ、ちょっ・・・!」
俺は光の速さで本来の目的であるブツを手に取ってダッシュで部室から逃げた。
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からがら逃げた俺は玄関先で立ち止まった。
さっきまで晴れていたと思っていたのに、外は土砂降りの雨が降っていたからだ。
「うわ、やべー。傘持ってねえよ・・・ん?あれ?中条じゃん」
「あ、池ノ上君。まいったねーはは。どうやって帰ろうかな~」
「うーん・・・」
考えていると1つ思い出した。
「あっ!部室に予備の傘いくつかあったな!ちょっと持ってくるから待っててくれ」
「え、ありがとー!マジ神ー!」
中条の声を背にまた元居た部室へ足を運んだ。
急に暗くなった為なのか、いつもより廊下が暗く感じる。
人もすっかりといなくなっているので暗さと相まって余計に不気味に感じた。
「なんか気味悪いな・・・」
そう呟きながら部室がある廊下に出ると、部室から走って出ていく人の姿を見かけた。
「あれは・・・海か?夏奈に用でもあったのか?」
俺が部室のドアを開けると、部室内は真っ暗だった。
「おーい夏奈もういないのかー?」
っと一応声をかけて中に入ろうとしたら足に何か固いものが当たって転がっていく。
「・・・なんだ?これ?」
それを手に取って見ると血の気が引いていくのを感じた。
「うっ・・・これ・・・ナイフだ!しかもこれって・・・血っ!!」
思わぬ代物に驚いた俺は足を取られてしまってコケてしまう。
地面は濡れていた。俺は全然気づいていなかったが、自分が立っていた場所は血まみれの場所だった。
まだ若干の温度が残っている血液の感触に頭が混乱しながら、ゆっくりと目線を前に向けると、
そこには変わり果てた夏奈だったモノが寝そべっていた。
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