第4話 部長
朝起きて、海の存在に警戒をしながら顔を洗いに行ったのだが、幸いにもそこに海はいなかった。
その後に母親から昼食代を渡された時に初めて、海が熱を出して安静にしている事を知った。
もしかすると、ではなく確実に先日の雨に濡れた状態で長い時間風呂場でいざこざした時に拗らせたのだろう。
自責の念もあるので、学校へ行く前に海の様子を見に行った。
「海、大丈夫か?入るぞ?」
海の部屋のドアをノックする。
「はーい」
どことなく元気のなさそうな海の了解を得て、俺は海の部屋に入った。
(・・・妹バージョンの海の部屋入るの初めてだな・・・。)
しかしながら、海の部屋の中は乙女な部屋でもなく、散らかってて足の踏み場もないという訳でもなく、少量のぬいぐるみが鎮座しているくらいで、至って普通の部屋だった。
「兄ちゃん、お弁当作れなくてごめんな。」
「いや、俺の責任でもあるから、無理しなくていいぞ。今日はゆっくり休んでな。」
「今日、久々の部活だったのになあ。残念。」
「テニス部は毎日やってるだろ?何で今日なんだ?。」
「はー?テニス部って中学の時じゃん。わたしは写真部!しゃ・し・ん・ぶ!」
(妹版はテニスやってなかったのか。しかもよりにもよって同じ部か・・・)
思わず頭を抱えてしまった。
「まぁ、俺は学校行ってくるから、帰り飲み物と果物買ってきてやるよ。」
「サンキュ~。いってらっしゃ~い。」
-------------------------------------
海に見送られた後、学校へ向かったが、途中気づいた事があった。
「きゃっ!」
突然吹いた風により、同じ登校中の女子生徒のスカートがめくれる。
(ふむ、白・・・。)
お尻&太ももフェチな俺にとっては眼福以外何でもないのだが、俺は動じない。あくまでもクールに。眼に焼き付けるのみである。
先日はバタバタしててあまり気にならなかった事なのだが、やたらとラッキースケベに出くわす事だ。
何故か分からない、しかし出くわす頻度としてはあまりにも多すぎだ。
今、極端にラッキー確変な状態なのかもしれないが、取りあえず橘にこの事も聞いてみよう。
教室に到着するなり、即座に橘を部室まで来るようにと呼んだ。
橘は何も言わず、読んでいた本を閉じて従ってくれた。
部室に入り、椅子に座ると橘が切り出した。
「で、今日は何を発見したのかしら?妹風呂さん?」
「ぶっ!!」
「全く、ゲスにも程があるわ。モラルも品性も貴方は欠けてるのね。」
「いやいや!俺は未然に防いでただろ!どの状態で見えてたのか分からんが!俺は誤解されるような状況にならないようにはしてたぞ!」
「わたしには嫌がって風呂場の入口を抑える妹を無視して、無理矢理乱入しようとしている貴方しか見えなかったわ。」
「なるほど!俺のあの時の目線では風呂場の扉のアクリル板に薄っすらと映った海のシルエットしかなかったからな、見ようによっては俺が外側にいて乱入しようとしているようにも見えるのか。ふむふむ。・・・って
それ逆な!!」
俺は必死に弁明を試みたが、橘に遮られた。
「いいんじゃない?ゲスからミジンコに評価が変ったとしても特に大きい変わりはないわ。で、何を発見したのかしら?」
「うぐ、ぐぬぬ・・・。弁明の機会すらなしか・・・。仕方ない・・・。
部員に海がいたんだよ。前はいなかったのにな。それで確認なんだが、部員って全員で何人なんだ?」
「減っていたり増えてたりする可能性があるって事ね。わたし、貴方、海さん、中条さん、日向さん、村上君、それと・・・部長で合計7人ね。」
最後に言われた部長という単語に反応してしまう。
「ぶ、部長!?誰だそれ?部長不在の部活だったはずだが。」
「
その名前は聞いたことがある。
「金剛寺・・・金剛寺ってあの生徒会長の?」
「そうよ。生徒会の活動と部活を兼業してるから、フルで部活に参加はしないけどね。」
3年生、生徒会長の金剛寺先輩の事はほとんど接点がなかったので全く知らない。
おっとりした感じだが、誰にでも優しく真面目な性格で男女問わず人気があるイメージがあった。
俺は遠目にしか見たことが無かったが、透き通るようなフォルムは非常に記憶に残る。
・・・あと胸がでかい。
「どうかした?胸の事しか考えていないエテ公みたいな顔してるわよ。」
「しししてねー!」
思考を読み取るような発言を受けて甲高い声が思わず出てしまった。
「と、とにかくだ。生徒会長は俺が元いた場所では部員じゃなかった。アレが憑りついているという可能性があるか?」
「可能性は低くないわね。いずれにしても今日の放課後の部活で色々と観察する必要があるわ。」
「そうか、取りあえず俺は見ているだけでいいのか?」
「ええ、朝から女子生徒の下着ばかり見るのが得意な出歯亀さんには朝飯前でしょう?」
「ふぁっ!?」
予想外のサイドからの攻めに変な声が出てしまった。
「さてと、そろそろホームルーム始まるから行きましょう。」
そう言って橘は椅子から立ち上がると、これ見よがしにスカートの裾を掴んで下に引っ張る仕草をしていた。
「露骨なアピールどうも・・・。というか、この前言ってた1時間くらいの周期って本当かよ?ピンポイント過ぎじゃないか?」
「本当よ。ただ貴方のその場その場での感情によって作動するのかもね?」
橘はそう言うと部室から出て行った。何故か少し笑ってたような・・・気がした。
「怖っ!」
-------------------------------------
昼休みになると俺は雄太と食堂へ向かった。
「そっかー、海ちゃん熱で寝込んでるのか。昨日少し冷えてたしな。それで弁当無しなんだな。残念だなっ。」
「いや、ちょっとあいつは・・・そのブラコンが過ぎないか?」
女姉妹がいる友人から聞く兄妹の関係とは明らかに逸脱していると感じており、また心配な面もあった。むろん、自分自身も心配だ。
「今更何言ってるんだよ、ずーっと昔からあんな感じじゃねえか。放任してたのもお前だろ?おばさんやおじさんも諦めてるみたいな感じだしな。」
父親は単身赴任で会ってないから分からないが、母親に関しては海について何も言ってない。雄太の言う通り諦めてるのか。
決して諦めちゃいけないところだろ・・・。
「ま、よかったな!中条はシスコンでもそんな気にしないタイプだしな!」
悪意を含む笑いを発しながら、雄太は公衆の場で俺の秘密を暴露しやがる。
「こ、声でかい!誰かに聞かれたら・・・!」
「気にすんなってー!さっさと告白してしまえよ!いじらしいんだって!」
「んん?」
雄太の言葉を聞いてから初めて気づいた。
(そういえば、中条は男の時の海が好きだったと思うんだが、ここじゃ海は女だ。それなら中条が好きな人はいなくなったのか?同性愛っというオチは無いと信じてるが・・・中条が別の男の事が好きだったりしたらどうしよう!ああああー!)
「やれやれ・・・気にしすぎだって・・・」
頭を抱えてうなだれている俺を横目に雄太は悟ったかのような溜息をついていた。
そうこう話している間に食堂へたどり着いた俺はいつもの鶏唐揚げ定食を頼んだ・・・っと言っても弁当が無かった時のいつもなんだが・・・。
定食を受け取ると雄太がいるテーブルに向かった。
雄太は・・・相変わらずパン2つだけだ。どうせいつもの金欠だろう。
「ところでさ、今日の部活は全員来るのかな?」
席について雄太に尋ねる。
「んー?いつも大体集まってね?」
「生徒会長・・・も来るかな?」
俺がそう言うと不意に俺の隣の席に菓子パンを持った人が座った。
「私がどうかしたのかしらー?」
(あ、いい匂い)
「じゃなくて!会長いつの間に!?」
「あ、部長。ちわっす。」
驚く俺とは反対に普通に挨拶をしている雄太。
「何が『じゃない』のかは分からないけどー、池ノ上君達が見えたから普通に座ったんだけどなー?お邪魔だったかしらー?」
おっとりした口調で首を傾げながら話す会長の姿は、物静かでクールビューティーなイメージを持っていただけにギャップを感じた。
「お邪魔だなんて!全然そんなことないですよ!な!空也!」
鼻を膨らませながら弁明する雄太の姿は、生徒会長の事を慕っている事を物語っていた。
「あ、ああ。」
「よかったわー。後輩に嫌われたのかと思ったわー。」
俺のちぐはぐした返答にニコニコしながら応えてくれた。
「でも会長はちょっと他人行儀すぎるかしらー?部長かー、先輩かー、池ノ上君なら・・・『鈴』って呼び捨てでもいいけどー?」
「ええええっと!すすすみませんでした!先輩!」
突然の『先輩』のカマシに思わずドキっとして噛みながら答えてしまった。
「あら、残念ねー?うふふ。」
「・・・」
変わらぬ口調でニコニコしている先輩に何とも言えない曲者感を感じた。
「今日は部活に来られるのですか?」
「今日はー、生徒会の仕事ないと思うから参加できると思うわー。連休明け最初だしー。」
女性にあまり免疫がない上に初接触でまともに話ができない俺に代わって、雄太が俺の一番知りたかった事を聞いてくれた。
(ナイスだ!雄太!)
っと思ったのも束の間であった。
「あー!会長ここにいたー!」
ちっちゃい女の子がパタパタと駆け寄ってきた。
この子は確か生徒会の子で海と同じクラスの
「放課後に会議するから、お昼一緒に資料チェックするって言ったじゃないですか!もー!」
叱り口調なのだが、愛嬌のある叱り口調だ。本気で怒っている訳ではないと分かる。
「あらー?そうだったわね。ごめんなさいねー。」
知念は先輩の謝罪に安堵のため息を漏らし、視線を俺に落とす
「まーた、この人ですかー。会長もう行きますよ!」
どうやら俺は知念にいい印象は持たれてないようだった。
さしずめ生徒会長の仕事を邪魔する部員みたいな印象だろう。
「あららら、ちょーっと今日の部活は遅れるかもー?じゃあ、また、池ノ上君」
ニコニコしながら知念に手を引っ張られて退場していく先輩だったが、ニコニコはしていたが・・・目が若干怖くて俺は背筋がゾクっとした。
恋とバトルは宇宙の彼方から @ponkichiT
作家にギフトを贈る
ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?
ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。恋とバトルは宇宙の彼方からの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます