同窓会
「んで、明日香いつ戻ってきたんや?」
「言わへん」私が答える前に、麻衣が答えた。
麻衣は昔から小池と山村とは馬が合わない。
「相変わらずイケスカン女やのう。お前に聞いてんちゃうわ」小池の煽りに
「私と明日香は三浦と拓馬としか口聞かへん。口が腐る」と煽り返す麻衣。
「まぁまぁまぁ。小池も麻衣も。
ええ歳してガキみたいなこと言うんはそれくらいにしとけや。
久しぶりに麻衣にも明日香にも会えて嬉しいわ。お前ら、同窓会も全然顔出さへんし。麻衣は見かける事はあるけど、明日香はほんま会わへんもんな」相変わらず、三浦はその場の空気を変えるのが上手い。
「ごめんね、私、あんまり帰ってこないから。みんなの近況は麻衣から聞いてるよ。ど、同窓会は都合が合わなくて…」なんでだろう。標準語ならすらすら話せるのに、地元の言葉だとしどろもどろ。
「たまには同窓会に合わせて帰って来いよー!昔の友達に会ってあの頃はあーでもないこーでもない言うの楽しいぞ。最近はな、拓馬が斎藤和義を歌うのがお開きの合図やねん。」
三浦が麻衣の隣の席に腰を下ろしながら続ける。
「斎藤和義?」
「ずっと好きだったんだぜーってやつや。お前、あの歌知らんけ?
おい、拓馬。あれは絶対、明日香のこと思って歌っとるやろ」
ニヤニヤしながら拓馬に、自分の向かいの席、つまり私の隣の席に着くよう指で指示する三浦。
彼は昔から、デリカシーという言葉は知らない。真っ直ぐで正直で嘘がない。
人たらしのお調子者だけれど、いい男だ。多分。
どうやら私は墓穴を掘ったらしい。
どうしていいか分からず麻衣を見ると、そこにはもう諦めろとか、開き直ったとか、そう言う顔をした麻衣がいた。
今この場に私の味方は居なくなった事を悟る。
「え、それ拓馬、早紀ちゃん居る前で歌ってるん?」
身を乗り出しながら麻衣が三浦に聞く。
「当たり前やー。
ほんで早紀はな、昔と変わらん渋ーい顔した後、『けど、拓馬と結婚したんは早紀や!明日香なんかさっさと地元捨てた冷たい女やし』って叫んでるで。
カオスカオス!まぁ、その頃には全員酔っ払いのベロッベロやしな。」
「ひえー!こっわ!
だから絶対行かへんねん同窓会なんて。
そもそも麻衣お酒飲まへんし」
三浦と麻衣が盛り上がっている。
「なんかごめん。」バツが悪そうに笑う拓馬に
「想像したらカオスだね。」としか答えられない私。
「うん。俺も歌いたいわけじゃないんやけどな。どんだけ拒否しても歌わされるからな。これがないと終わらへんて言うて。」
「拓馬、そこまでされるの分かってて、なんで同窓会行くの?」
「そりゃまあ…」言いづらそうに目を逸らした後
「欠席連絡しても、拒否しても何しても、奥さんに連れて行かれるからな」
拓馬は、中学時代から彼の事が好きだった早紀ちゃんと結婚して、現在は二児の父だ。
「早紀ちゃんも、ドMだね…としか感想を言えなくてごめん」
と詫びると拓馬が吹き出した。
メガネを外して涙を拭っている。
「そんなに笑うところかな?」
見ると、麻衣も三浦も、小池も山村も苦しそうに笑っている。
「明日香、あんたは地元を捨てた冷たい女かもしれないけど、本当最高だよ」
麻衣がヒーヒー言いながら笑っている。
Bar Andante -episode Ⅰ - 赤阪 杏 @chez_abricot
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