第3話
『サイバーフロンティア』
所謂フルダイブ型VRゲームと言われるジャンルにおいて、革新的なタイトルである『サイバーフロンティア』は、ゲーマーのみならず巷間に多大な影響を与えた。良い意味でも。悪い意味でも。
このサイバーフロンティアが登場したのは、まだフルダイブ型VRゲーム機が高額で、気軽に買えるようになる以前のことだ。
対応するゲームも高額だった。開発に莫大な金額がかかる事を考えれば当然のことなのだが、それを加味しても高い買い物であり、本体にインストールされている体験版の様なゲームで我慢する人も多数いた。
サイバーフロンティアは基本プレイ無料。その発表はまさに衝撃だった。
さらにやり込み要素も多数あり、値段の高い他のゲームは一時的に全く売れなくなるほどだった。
内容はシンプルで、舞台は遠い未来の太陽系外の惑星。そこで調査をしながら基地を発展させる、というもので、プレイのかなりの部分は現地の生物の調査・捕獲・排除。要はアクションゲームである。
対象の生物は、恐竜の様な巨大なものが多く、そんなものを相手に生身のままで戦えるわけもなく、サイバーフロンティアの名前の通り機械化した体で対抗するド迫力のバトルが実体験しているかのようにプレイできる。
グラフィックは驚くほど精細で操作も軽快。出来る事も多く、初めは絶賛の嵐だった。
だが、徐々に不満な点が増える。
シナリオが短く、物語を楽しむプレイヤーには不向きなこと。
アクション難度が高めで、得意でないプレイヤーは詰まりやすいこと。
戦闘時間が長めで作業プレイになりやすく、長時間集中しなければならないこと。
そして、課金アイテムがバカ高いこと。
課金アイテムに関しては、他機種の無料ゲームにある同種のものと比較しても費用対効果はかなり高めで、お金に余裕があるのならかなりお得な品なのだが、現実に支払うとなるとほとんどのプレイヤーは躊躇する設定金額になっていた。
ほとんどの課金アイテムが一万円を超え、一部のアイテムは二万円以上のものまである。
さすがに基本プレイ無料とは言えこの金額設定は異常といえる。アイテムひとつで十時間以上の時間を短縮できるとしても。
開発者の主張としては、 「時間はあるがお金の無いプレイヤーとお金はあるが時間の無いプレイヤーで、ゲーム進行にあまり差が出ない様な処置」 とのことだった。
しかし話題が大きくなりすぎて、公正取引委員会の指導があったくらいだった。
こういった悪い方の話題が広まった所に、基本プレイ無料ゲームが相次いで発表され、サイバーフロンティアは一部の高難度ゲームが好きなプレイヤーが残るだけになっていった。
それでも、サイバーフロンティアのおかげでハードの普及率が大幅に上がった事は事実であり、開発費が高くなっても無料ゲームを作ったことは大きな功績である。
尚志が 『サイバーフロンティア』 に出会ったのは、いくつかの幸運が重なってハードを手に入れて間もなくのことだ。
就職が決まらず、アルバイトを続けることになった尚志にとっては、タダで遊べるゲームは打って付けだった。
取り敢えずやってみるだけのつもりで始めた『サイバーフロンティア』だが、尚志にとっては最高のゲームになった。
アクションゲーム好きで、時間があり、やり込み要素にのめり込めるものがあった。
お金はないが、もともと課金アイテムを使うプレイを好まない尚志には、課金アイテム関連の問題は関係無い。
むしろじっくりと時間をかけて強くするのが好きな尚志にとっては、時間を短縮する課金アイテムは、たとえ支払うお金があっても手に入れたいとは思わないだろう。
実際のところ、尚志がゲームを始めたのは、サービス開始からふたつき程してからのことだ。
サイバーフロンティアの世間的な評価がある程度固定され、サービス開始早々にプレイした連中からは止める者も出始める頃で、また、一部では有料アイテムを使いまくる顰蹙を買うプレイヤーが出始めた頃でもあった。
尚志のプレイスタイルとは当然の如くかみ合わず、オンラインゲームであるにもかかわらず、尚志はほぼほぼソロプレイであった。
尚志よりも後から参加して来たプレイヤーにシナリオ進行や装備の品質などで追い抜かれても、尚志は自分のペースでのプレイを変えなかった。
それは、尚志の子供の頃に病気がちで体が小さく、成人した今も身長・体重共に平均に届かず細身の自分にコンプレックスを感じていることが原因だ。
ゲーム内限定とはいえ機械化した強く大きな体で自由に動き回り、自分の何倍も大きな敵をなぎ倒す快感。
現実にはできないことを出来る様にするのがゲームの醍醐味だとしても、尚志が求めて止まなかったものがここにはあった。
だからこそ失うことへの不安と恐怖が、時間をかけるプレイに現れている。少しでも長くいられるように。
そして、今━━━。
やめた覚えの無いゲーム『サイバーフロンティア』、「ここは地球ではない」という言葉。
ここから考えられるのは、何らかの理由でゲームを終了できなくなっている可能性がある、という事だろうか。
本来、プレイヤーの安全を確保するために、脳波に異常があればゲームを強制終了する機能が働くはず。
寝落ちする、声を掛けられる、電源ケーブルが抜ける等々、様々な可能性を想定しているはずの安全装置ではあるが、強制終了せずに外部からヘルメット状の機械をはずす事例が二例報告されていた。
通常ならばプレイ状態とは著しく異なる脳波を確認した場合は、ゲームを中断するようになっている。
報告にあった二例共に停止するべき条件を満たしていながらも安全装置が正常に機能しなかったことになる。
幸いにも被害の報告は無く、安全性の向上の為にも原因の究明が課題である。
それらの例のように、尚志もプレイ中に何らかのトラブルにより現実に復帰できなくなってしまったのか?
先程紹介された五人は、見た記憶はないし、名前も聞いたことが無い。今いる場所にも心当たりが無い。
もし仮にトラブルに巻き込まれたとして、その間に大規模なアップデートでもあったのだろうか?
そう考えると幾つかの気になる疑問が解ける。
知らない場所にもかかわらず、不安を感じない事。むしろ良く馴染んだ所にいる気持ちになるくらいだ。
ここはゲーム内でのメンテナンスルームの様な雰囲気でとても落ち着く。むしろアップデート後のメンテナンスルームではないのか?
また、さっき顔合わせした中にも何故かとても親近感を感じる人が何人かいた。見た記憶も無いのに、だ。
これもアップデートで増えたNPCではないのか?
そもそもサイバーフロンティアではプレイヤーとNPCを区別する為にアイコンが表示されるのがデフォルトではあるのだが、ゲームへの没入感を高める為に非表示にすることもできる。
尚志も非表示設定にしていたことを思い出していた。
どちらが相手でも質問すれば教えてくれる可能性が高いだろうから、尚志は深く考えず言葉にした。
「いつアップデートしたの?」
「「アップデート?」」
説明を始めたばかりの二人は、尚志の予期せぬ質問に顔を見合わせて少しの間固まっていた。
サイバーフロンティア 不和久 友 @yshhrknm
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