喜怒哀楽の ”楽”
「突如大型の台風が発生しました。この台風は通常超大型といわれる大きさを遥かに上回っており、日本全土を覆い被す程のサイズになっております。また、先程から大雨と雷が非常に強く危険なため、ご自宅の外へ出るのは控えたほうがよさそうです。台風は現在……」
風が強い。踏ん張っていないと体が吹き飛ばされそうだ。
「アイラ……」
俺は最低なことをしてしまった。アイラは俺の誕生日を祝おうとしていたのだ。俺ですら忘れたいたってのに、わざわざ苦手な料理までして。
そうだよ。あいつはいつだって一生懸命で、誰よりも自分の感情に素直で、真っ直ぐな奴だ。ちょっとぐらいワガママだって、人様に迷惑をかけったって、いいじゃねえか。
俺はあいつほど輝いている人間を見たことがない。
雨が降っている。カフェに入る前とは勢いも冷たさも桁違いだ。おまけに落雷が続いている。
とにかくアイラを探して……俺の気持ちを伝えなければ。
俺は足に力を籠め、全速力で走り出した。
30分くらい走り続けただろうか。
「いない……」
そりゃそうだ。嵐の中、外にいる方がおかしい。
あたりを見回した。すでにほとんどの店が嵐の影響で店を閉めている。近くのコンビニにもいなかった。
となると。
「やっぱり、あそこか」
俺は微かな記憶を頼りに、ある場所へと向かって走り出した。
台風は尚も勢力を拡大している。
「ぜぇ……はぁ…。つ、着いた。ここか……?」
この公園には思い出がある。
あれはまだ小学生だった頃か。あの時は、アイラが家出したのを俺が引き留めようとしたんだっけ。結局、二人で泣いているのをお互いの親が探しに来たんだったな。
ふと、ドーム状の遊具が目に入った。当然見覚えがある。
「やっぱりここか」
その中でアイラが体育座りをしていた。長い黒髪と服はびしょびしょに濡れている。あの時もここでこうして座っていたのだ。
しゃがんでアイラの方を見る。
「アイラ」
「なによ」
「ごめんな」
「そんなこと言ったって許さないんだから」
アイラはふて腐れたように言った。俯いて目を合わせようとしない。
「あのな、アイラ……」
言え、言ってしまえ。
「俺は、お前が好きなんだ」
「へっ!?」
アイラが勢いよくこちらを見た。
「お前のワガママなところも、自分の感情に素直なところも、俺のために頑張ってくれたことも、全部ひっくるめて! 好きなんだ!」
凍えるほどの寒さのはずだが、なぜか汗をかいてきた。心臓もいつもより多く振動している。今俺、変なこと言ってないよな?
アイラはというと、顔を真っ赤にしたまま瞬きもせずに俺の目をじっと見ていた。しばらくして、アイラの目から雨のような滴が流れ落ちた。
「もうバカ! わたしも悪かったわよ!」
涙を滝のように流しながら、アイラは俺の懐へ勢いよく抱き着いてきた。
「おわっ!」
「きゃっ!」
真後ろへ崩れ落ちた俺とアイラは大きな水たまりに仲良くダイブした。
「いってぇ……」
アイラと目が合う。服も髪もさっきより一段とびっしょりだ。
「「ふふ、はははははははは!!」」
お互いにびしょ濡れになった姿を見て大笑いした。
それから二人で、しばらく笑いあった。
笑い終わった頃にはすでに雨は止んでおり、空には虹がかかっていた。
「シュウジ、私も好きよ」
アイラが恥ずかしそうにそう言った。
「そりゃよかった。あーそういえば、クッキーうまかったぞ」
「あれ食べたの!?地面に落ちてぐちゃぐちゃだったのに」
アイラは立ち上がって俺の方を見た。そのあとにっこりと笑い、
「また作ってやるから、覚悟してなさい!」
自信満々の笑みでそう言った。
「ああ、今度は焦げてないので頼む」
「うるさいわね! もう作ってやんないわよ!」
アイラは公園の外へ駆け出した。
「楽しみにしてるぞ」
雲一つない青空に、二人の笑顔が木霊した。
喜怒哀楽ノセカイ 凶畑 海 @RECOOME
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