第6話(完)

 その日から、優斗はrinkoとして、彰のメッセージアプリ内のフレンドへとメッセージを送り様子を探った。

 メッセージを送り、実際に本人を確認し、煽っては見るもののなかなか捕まらない。ただの迷惑メール扱いだ。

 自分がしていることは無意味なのだろうかと、諦めかけたそのとき。

 目の前にいる人物……啓介だけ除外していたことに気付く。

「……啓介って、スマホ持ってたっけ」

「少し前にガラケーから変えた」

「ふぅん……。メッセージアプリ入れてる?」

「入れてるよ。keisuke116で取ってる」

「じゃあ登録しとく」


 啓介は、優斗の計画にまんまと引っ掛かった。

 他の者と違い、あからさまに反応がおかしい。

 rinkoは啓介だ。

 そう確信した優斗は、ここぞとばかりに啓介を追い込む。啓介が彰をそうしたように。

『ずっと見てるよ。隣で』

 昼食時、バレないよう撮った啓介の画像を送り付ける。

 タチの悪い嫌がらせをしている自覚はあった。

 それでも、先に彰を追い込んだのは啓介の方。

「まだだ。お前が彰にしたことは……」

 そう次のメッセージを送ろうとするが、送信エラーになってしまう。

「……くそっ。啓介のやつ、消しやがった」

 自分のスマホで啓介に電話をかける。

 何度かコール音が鳴り、少し待たされ、やっと啓介が電話に出る。

『もしもし』

 酷く憔悴した声だが、自業自得だと優斗は心の中で笑う。

「いまから会える?」

『いや……今日はちょっと』

「彰のことで、話したいんだけど」

『…………』

 後ろめたいなにかがあるのだろう。

「rinkoのことでって言った方がいい?」

『なにか、知ってるのか?』

「それを話すから、学校に来てよ」

 優斗は携帯を切り、学校へと向かう。

 啓介の家まで行ってもよかったが、家を知るほどの仲ではない。

 

 校門で待つこと15分。

 優斗の下へ啓介が来る。ひどく青ざめた顔で。

「優斗、なに……」

「お前が追い込んだんだろ。彰のこと」

「お……追い込むつもりなんてなかったんだ」

「もうわかってんだよ。俺、彰のスマホ持ってるから。rinkoがお前だってこともわかってる」

「でも……ちょっとした冗談で……」

「お前、冗談で『死ね』とか送るの?」

「は……死ねって?」

「とぼける気かよ」

 違うと首を振る啓介に、優斗の怒りは頂点へと達する。

「死ね死ねって、画面埋め尽くすほど送るとか、狂ってる」

「そんなの送ってない」

「ちょっとした冗談って言ったくせに。冗談でやったんだろ」

「でも俺は送ってない! ホントに……! そんなことまでは!」

 いまだシラを切り続ける啓介に、優斗は証拠を突きつけた。

「ここに残ってんだよ」

 優斗は、死ねという文字で埋め尽くされたメッセージ画面を表示させる。

「これでも違うって言い張る気か?」

「違う……」

 啓介は、事態が呑み込めないでいた。

 自分が送った以上の内容が送りつけられている。

 寝ぼけて知らないうちに送っただろうか。

 そんなはずはない。

 ゆっくり画面をずらし、いくつもの『死ね』を見送る。

 最後には、彰の画像。

「ひっ……」

「趣味悪すぎるよ、啓介。なにこれ。加工アプリ?」

 まるで窒息でもしたかのように、青ざめた彰の顔。

 彰の死因はなんだっただろうか。

 心臓がバクバクと音をたて、啓介は過呼吸のような状態に陥る。

「はぁっ……あっ……うっ」

「お、おい。大丈夫か?」

 異常な啓介の様子を見て、さすがの優斗も、少しだけ怒りを忘れる。

 そのとき、啓介が手にしていたスマホが、メッセージ受信の音を奏でた。

 2人はスマホ画面に目を向ける。

「……啓介、アプリ消したんじゃねぇの?」

 優斗の問いに啓介は頷く。

 それでも消したはずのアプリが起動され、画面が表示される。

――死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね――――――

 ありえない数の『死ね』が画面を覆い尽くす。

「な……あ……優斗が、俺に仕返ししてたんじゃ……」

「し、してたけど、これは送ってない。いま一緒にいるだろ!」

「でも……」

 また、メッセージ受信の音が響く。

 誰だか判別できないけれど、人の顔のようなものが、ぐしゃぐしゃになって映し出された。

 啓介は吐き気に見まわれ、口を押さえる。

 そのとき、キキィーーー!! と、けたたましいブレーキ音が耳についた。

 目の前にトラックが迫る。

 咄嗟に2人は目を瞑った。

 瞑ることしか出来ない2人をよそに、トラックは突っ込んでくる。

 ゆっくりと目を開いた優斗の隣には、トラックの下敷きになった啓介。

 誰だか判別できないほどにぐしゃぐしゃになった顔は、さきほどスマホの画面で見たものだ。


 恐る恐る優斗は自分のスマホを確認する。

『今、なにしてる?』

『rinko』からのメッセージ。

『ずっと見てるよ。隣で』

 ホーム画面には、優斗の白黒写真。

 いつ自分の画像に戻ったのだろう。

『rinko』のIDを取っていたタブレットを確認するが、自分が設定した啓介の画像のまま。送信履歴も、自分が送った啓介の画像で止まっている。

「誰……なんだよ……」

 

 手にしていたスマホが、また1つメッセージ受信の音を奏でた。

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隣合わせの負の連鎖 律斗 @litto

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