第5話

 彰が死んだ日。

 優斗は、彰の家を訪れた。というのも家が近所で、嫌でも騒動には気づいた。

「彰は、自殺なんですか」

「そのことについては、もう……」

 両親は、彰の死について追及しないと言った。そこからは後悔しか生まれない。

 それでも優斗は腑に落ちず、悲しみに暮れる両親とは違い難しい顔で佇む彰の兄に目を向ける。

「……お兄さんは、どう考えてますか」

「あいつ、いじめられてたのか?」

「いえ。俺が知る限りでは」

 だったらなぜ。その気持ちは拭えないようだ。

「そういえば、あいつのスマホが見当たらないんだけど」

「スマホ……ですか」

「学校に忘れたかな」

「俺が、見ておきます」

「まあ、いまさらどうにもならないけどな」


 明日でも構わないのかもしれない。それでも、いてもたってもいられず、優斗はすぐさま学校へと戻り、彰の机を確認する。

 中にはスマホ。充電が無いのか電源は入らない。

 このまま彰の兄に渡せば、すぐに解約されてしまうかもしれない。

 優斗は、自分の鞄から携帯の充電器を取り出し、彰のスマホに繋げた。

 しばらく待ち電源を入れると、センターからの着信情報が届く。啓介からの着信だ。

 休みの彰を気遣い電話でもしたのだろう。

 結局のところ、死の理由は分からない。

 ネット上のユーザーと喧嘩でもしたのだろうか。

 さすがにこれ以上、プライベートに介入するのはマナー違反だ。そう思いつつも、優斗はゲーム画面を開く。だが、なにもメッセージは残っていない。

 とはいえ、あのスマホ依存症気味の彰が、学校にスマホを忘れるなんていうのは、わざとでもない限り、ありえない。仮に忘れたとしても取りに戻るだろう。

 優斗は、スマホのメッセージアプリを起動する。

「誰だ、こいつ……」

 最近、彰がメッセージのやり取りをした相手。rinkoの存在に気付く。ホーム画面で確認したアイコンは彰だ。

 彰のIDを知る者。

 彰の姿を撮れる者。

 アドレス帳で彰の交友関係を覗き見る。その中の数人は優斗も知るクラスメートでだ。

 もう一度、rinkoのホーム画面へと飛ぼうとするが、エラーになってしまう。

「なんでいまなんだよ」

 すぐに優斗は気付いた。rinkoがIDを消したのだと。そして、このタイミングでのID削除は、彰の死の理由がrinkoであることを、優斗に確信付けた。

 ホーム画面は確認出来ないが、一度送られたメッセージは残ったまま。

 だったら、追い込むしか他ない。

 rinkoが誰なのか、探るしかない。


 優斗は、彰のスマホを持ち帰ることにした。あの両親たちのこと、しばらくは解約のことなど頭が回らないだろう。

 タブレットにメッセージアプリをダウンロードしrinkoのIDで登録する。

 rinkoになりすましrinkoを暴く。

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