第4話

「啓介、おはよー」

「おはよ」

 朝、学校に着くなり啓介は優斗に声をかけられる。

「昨日言ってたメッセージのやつさ。返事したら、来なくなったわ」

「え……」

「人違いだって気付いたんかな。アイコン、俺だったけど……って、啓介、顔色悪くない?」

「実は……俺もそいつから、メッセージ着て」

「マジかよ」

「アイコン、俺になってたんだ」

 啓介はスマホを取り出しメッセージ画面を開くと、rinkoのホーム画面で、アイコンが自分であることを優斗に見せた。

「ホントだ。啓介に変わってる」

「ああ……」

「じゃあ、しばらくしたらまた別のやつに変わるかもしんねぇな」

 あまり深く考えすぎない方がいい。

 そう優斗のように割り切れないのは、このrinkoが過去の自分と重なるからだ。

 IDがバレていること、勝手に写真を撮られているということ。腑に堕ちない点はいくつかある。

 啓介は無理やり現実から目を背け、考えることを放棄した。


 授業中にも、rinkoからのメッセージはいくつか届く。

『今、なにしてる?』

『ねぇ。教えて』

 なぜ、自分と同じ文章を送るのだろう。

 彰のスマホを持っている人間の仕業かもしれない。メッセージの履歴を確認し、同じ内容でからかうことの出来る相手。

 そもそも、彰のスマホを確認出来る人など限られている。

 そういえば、彰には兄がいると聞いたことがあった。すべては彰の兄が仕組んだことではないだろうか。誰かを彰と同じ目に合わせて、気を晴らしたいのか。

 いっそ自分のIDを消してしまえば、こんな嫌な思いをしなくて済む。

 そう思い啓介はメッセージアプリを開くが、ある衝動にかられた。

 まだ『生きている』のか。

 やめた方がいいことかもしれない。それでも確かめずにはいられない。

 彰のIDを手打ちで入力し、啓介は『あ』とだけメッセージを送信する。

 すぐさま、メッセージの隣に『既読』の文字が浮かぶ。

「っ……」

 啓介は、慌ててアプリ画面を閉じ、スマホを伏せた。

 生きてる。

 もちろん『彰が』ではない。『彰のスマホが』だ。

 誰かが彰のスマホを手にし、メッセージアプリを開いている。

 もしくは、削除された彰のIDを利用しているやつがいる。

 彰自身がIDを削除する暇はあっただろうか。

 マナーモードにしておいたスマホのランプが点灯し、メッセージの受信を示す。

 啓介は恐る恐る画面を確認した。

『啓介?』

 彰から……いや、彰のIDからのメッセージだ。

 まずい。

 咄嗟にそう判断し、啓介はアプリのアンインストールを検討する。

 IDを削除したとして、いいように悪用されはしないだろうか。考えだしたらキリがない。

 啓介は、着信に惑わされないようスにマホを鞄の中へとしまった。


 昼休みも、啓介はスマホを鞄に入れたまま。優斗ともその話題には触れずにいた。

 もやもやした感情を抱えたまま帰路につく。

 部屋で1人になると、啓介はやっと鞄からスマホを取り出した。

 

 意外にも、彰のIDからのメッセージはなにもない。

 代わりにrinkoから、なんでもないことのように『いま何してる?』なんてメッセージが1つだけ届いていた。

 彰のIDは誰のものなのだろう。そしてrinkoは一体、誰なのだろう。

 耐えきれず、啓介はまたメッセージを打ち込む。

『お前は誰だ』

 rinkoに宛て、メッセージを送信する。

 すぐさま既読になり、返信が届く。

『ずっと見てるよ。隣で』

 以前、啓介が考えた文面が返ってくる。つい、啓介は自分の隣へと目を向けた。

 もちろん、そこにはなにもない。

 また、メッセージの着信音が鳴り響く。

 スマホに目を向けると、受信した画像が開かれ、啓介の顔が映し出された。

 慌てて、スマホの設定画面を開く。

 考えている余地はない。このアプリは消すに限る。

 消して解決することではなくても、このまま見ていたら気が狂いそうだ。

 なにもかも終えるように、啓介はすぐさまアプリをアンインストールした。

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