第5話 現実・異≠世界

 掃除を始めて、一時間も掛からずに掃除が終わる。本来なら3時間ぐらいはかかるのらしい。


 そして本堂で正座をしているちぃ。


 向かい側に玄冶も凛として正座をしている。


「ちぃ。少し聞きたいことがあるんだがいいか?」


「はい! なんでもどうぞ!」


「⋯⋯⋯⋯お前はもしかして⋯⋯この世界の住人ではないのか⋯⋯?」


「はい! そうですよ!」


 頭を片手で支える玄冶。


「もしかして魔術⋯⋯? 魔法だったか? そういうのも使えたりするのか?」


「はい! なんでも使えます!」


 両手で頭を抱え込む。


「そ⋯⋯そうか⋯⋯。なにか悪い。てっきり迷子や家出や記憶喪失の類だったから、安心するまでは寺で過ごさせようとしたのだが⋯⋯迷惑だったか? 何か目的があったとか?」


「い、いえ。そんな事はないですよ。巨大なイノシシを狩ってる最中に自分の罠にかかったらここに落ちていたんです」


「自分の罠に? ブハッ! 悪い。そういうドジっ子な部分もあるんだな」


 ドジっ子言わないでください〜っとポコポコ叩かれる。


「巨大イノシシとはいえロープとかの罠なのか?」


「いえ! 落とし穴ですよ。ただその穴が大きすぎてしまったんです」


「へぇ、結構大きく掘ったんだな。どれぐらい大きかったんだ?」


「えぇっと、この世界でいえば、日本からアメリカまでですかね?」


「⋯⋯⋯⋯」

(それ落とし穴じゃなく奈落の底だろ⋯⋯)ただ、それを発言する事はない。

「⋯⋯そ・そうか。ちなみにそんなに大きい穴はどうやって掘ったんだ?」


「全力パンチです! ただ普通のパンチでも良さそうでした!」


 ついていけん⋯⋯。スケールというか基準がそもそも違いすぎる。あぁ、けどだから竹箒降ったぐらいで風が巻き上がったのか⋯⋯。


「⋯⋯ちなみに、人間に先程ポカポカ叩かれていたが、加減できているってことか?」


「いえ、それは私の手に【衝撃完全吸収(エアー)】をかけて、さらにゲンヤにも【完全防御(フルボディ)】かけました! そうでもしないと、即死してると思います!」


 ニコニコしているちぃをよそに、爆弾どころか核以上の物を保有していると実感した玄冶。


 衝撃吸収がないまま、ポカポカ叩くと、直線で数百キロは飛んでいくらしい。

 完全防御がないまま、ポコポコ叩くと、内部がミキサーでかき混ぜた様にドロドロとなり皮以外が水に変化するとの事。


 スクッと立ち上がる玄冶。


「ちぃ、そこで精神統一していなさい」


「はい! 修行ですね! がんばります」


 そして俺はある人物に電話をかけることにした。




「で? 俺をなんでいきなし呼んだんだ? ってか仕事中なんだけど?」


 警察の格好をした男が入ってくる。


 この男の名前は秋雨(あきさめ)愁(しゅう)、幼馴染みの一人で腐れ縁である。


「悪いが、正直相談する相手がいねぇんだ」


 本堂の方に案内するが、愁は辺りをキョロキョロして観察する。


「ってか、寺を改築したのか? そんな申請も話も出ていなかった気がするが⋯⋯」


 前来た時は、どこを歩いてもギシギシとなり、いまにも踏み抜けそうだったはず。


「あ〜⋯⋯それも含めて説明したいが、まずはみてくれ」


 本堂の戸を開ける。


「ちぃ。すこし⋯⋯はな⋯⋯し」


 その言葉をいうまえに全身が硬直する。


 ちぃの周りに、本堂の広さにギリギリ入る巨大な狼がこちら睨んでいる。


 ⋯⋯正確には愁を。


「⋯⋯あからさまに俺にヘイト集まってね?」


 愁がよくわからない言葉をいっているが、その怯え切った表情は初めて見るな⋯⋯。


「ゲンヤ離れて! それコッカコウムインとかいう先兵だよね! いますぐココさんに排除させます!」


 狼が音もなく消えた瞬間、玄冶が大声で『こいつは友達だ!!』と叫ぶ。


「⋯⋯はぁ⋯⋯はぁはぁ」


 狼の牙が愁に当たる寸前で、止まっていた。


「え? そうだったのですね! ごめんなさい! てっきり私のせいでゲンヤが怒られると思ったから」


 ココさんを呼び戻し、頭を撫でるとすぅ〜っと消えていく。


「げ⋯⋯玄冶⋯⋯」


「な⋯⋯なんだ?」


「たのむから⋯⋯事前に説明してよんでくれ⋯⋯お⋯⋯おれ死んでもおかしくなかったよな⋯⋯よな!」


「⋯⋯すまん⋯⋯」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あ〜なるほどな。お前が言うにはこの子は異世界から迷子になってきたと。確かにお前はこれ系に興味が無かったからな〜」


「あぁ、信じてくれるか?」


「信じるも何も、いま俺⋯⋯死にかけただろ⋯⋯証拠を出せと言うまえに証拠をだされて恐怖しかねぇよ。まぁそれにしても⋯⋯」


 ちぃをジッと観察する。


「ゲンヤ⋯⋯この子は色んな意味で危ないな⋯⋯」


 この可愛さでこの胸。更にはエルフだという。世のロリコンから巨乳好きからしてみれば、信者ができそうだ。


「あぁ⋯⋯そうだろう? どうしたらいいと思う?」


「選択肢は限られてはいるな。例えば⋯⋯」


 1:政府関係にいって保護してもらう。ただ、この場合は全世界に知られる事もなるし、この子が了承しようが、研究機関で徹底的に調べられたりするだろうな。


 2:この家で匿う。個人的に匿うがおすすめだな。実際彼女の力があれば世界征服なんて1時間掛からないんじゃないか?


「えっと、君は記憶操作みたいな事はできるの?」


「記憶操作ですか?」


「うん。記憶の刷り込みをしたり一部だけ消したりとか」


「できますよ! ただ、あまり同じ人にすると壊れたり精神混濁みたいになります」


「いや、そこまで操作を必要としてないよ。ただ、政府機関に怪しまれた時や職務質問されたときとかぐらいかな」


「それなら、すこし目を合わしたらできますね」


「じゃあ、やっぱり帰る目処が立つまではここで保護してあげるといい。玄冶としても嬉しいだろ? こんな可愛らしい子と一緒に住めるんだし」


 少し動揺している玄冶に少し嬉しくなるちぃ。


「ふむ⋯⋯やっぱり相談してよかった。今日は助かった」


「っていうか、俺より輝夜(あいつ)の子供を呼べよ。俺より更に詳しいぞ?」


「それこそ、いいことになりそうにないな⋯⋯。ユーチューバだっけ? 配信とかにめちゃくちゃ利用しそうなんだが⋯⋯」


「あ〜かもな。ただ、この街にいる限りは時間の問題だと思うぞ? 大変な事になるまえに説明ぐらいはしておけよ」


「はぁ〜、分かった。まぁもう少し落ち着いたら話をしに行くわ」


 輝夜(かぐや)も幼馴染みの一人であり、今は学校の理事長をしている。子供の名前は桜。親の頭を引き継いでいるのか配信などで既にお金をかせいでおり、アニメやゲーム類がかなりの好物なのである。


「そういや玄冶。少し気になっていたが⋯⋯お前この子の下着とか用意してるのか?」


「⋯⋯え?」


「⋯⋯おまえ⋯⋯そいいうところなんだよな⋯⋯こんなに小さな子でまだまだ成長期なんだから、もう少し繊細に扱ってあげろよ」


「あぁ、ちぃは16歳だぞ?」


「⋯⋯え? まじで」


 ちぃは胸をはりながらエヘンと返事をする。


「おまえ⋯現行犯で逮捕していいか?」


 その後、愁から説教をされた。


 さすがに16歳の女の子をノーブラ、ノーパンでいさせ、裏山けしからん状態を味わっていたからだそう⋯⋯。

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