第4話 寺≠掃除
朝4時起床。
神薙玄冶は寝ぼけ顔を水で洗い、キッチリと目を覚ます。
「ふぁぁぁ〜」
頭をかきながら、廊下を歩いて少女を起こしにいく。
客人とはいえ、手伝いをさせると言ったからには、寺の仕事は早めに慣れておいた方がいい。
ここできついと感じるなら、もしかすると実家にすぐに帰るかもしれない。その程度の覚悟(あまえ)で家出(?)したならさっさと戻った方がいいだろう。
戸を軽くノックして開けると、ちぃは座禅をしている様な格好をしていた。
(これは⋯⋯⋯⋯美しい⋯⋯)
外人なので座禅なんてものは無縁だと思っていたが、型が既に完成されており、むしろ神々しさすら感じていた。
「おはようございます」
気づいた彼女がこちらに振り向き、一礼をする。
「おはよう。それにしても座禅ができるってことは寺などは結構すきなのか?」
「ザゼンってなんですか?」
「今さっき目を瞑って座っていただろう?」
「あ! そうなんですね。私達の世界(くに)では精神統一なんです。身体の魔力(マナ)を巡らせて整えていく」
「まな? 氣みたいなものか」
「はい! それで合っているとおもいます」
「そうか、ちぃちゃんは偉いな」
頭をポンポンと撫でると、嬉しそうな顔をする。
「それで、何か用事だったのですか?」
「おお、そうだった。寺の手伝いは朝早くから掃除して始まるんだ。だから寝ていたら起こそうかと」
「そうでしたか。格好は昨日渡して頂いた衣のままでよろしいですか?」
「あぁ、それは作務衣(さむえ)といって、日々の雑用などに使うものだからな。ただ⋯⋯」
背が低いので子供用のを渡したのだが⋯⋯。
(胸が⋯⋯)
溢れてる⋯⋯。
「ちょっと待ってろ」
急いで大人用のを持ってきて、それを羽織らすと、手足部分を折り畳み仮縫いの代わりにホッチキスで留める。
「なんですか。そのパチンってなるやつ! 初めて見ました!」
「ん? ホッチキスの事か? こんなのはどこでもあるだろう?」
どうやら興味津々の目を見る限り、知らなかったらしい。
(あの格好で⋯⋯ホッチキスとか知らないとか⋯⋯もしかして、流行りの異世界転生⋯⋯いや転移物か?)
知り合いの子供がそういうのがすきらしく何か言ってたのを思い出す。
「とりあえず、掃除からはじめようか」
「はい!」
庭園に出る。
正直、このボロい寺は無駄に広い。周りは森で場所は山の上。階段一つでも1時間はかかるのに、寺自体は普通の大きさなのに対して、庭園の方は植物園かのような広さである。
「まずは、落ちている葉っぱを箒ではいて集めるんだ。集めた後は袋に詰めて、あそこの隅にある倉庫に入れておく」
「分かりました! これで集めて袋の中に入れるんですね!」
「おう。今日はここだけでいい。後の掃除は⋯⋯」
ちぃが竹箒を勢い良く回すと、周りの樹木がざわめく。
「⋯⋯⋯⋯お、おい」
ちぃを中心に地面に風の渦ができると、回し続けている竹箒をギュルンと動かして天高く抱えて回す。
かなりの広範囲の落ち葉が、ちぃの元に集まりそのまま舞い上がると、隅にある倉庫の布袋に向かい剣を振るかのように竹箒を回転させながら動かす。
(これ⋯⋯魔封波じゃね?)
DBで見たシーンとそっくりのような感じで、布袋に落ち葉が次々と入っていく。結果、合計5袋はパンパンとなり、庭園の地面はすっかり綺麗になっていた。
「どうですか! 綺麗にできましたか!」
目をキラキラさせながら何かを求めている少女(ちぃ)。
「あぁ、すごいな。こんな技初めてだよ」
そういって、また頭を撫ででやると『えへへ⋯⋯』と、素直に喜んでいた。
布袋に入っている落ち葉を小さなビニール袋に詰める。
「??」
ちぃが疑問に思いつつも、庭園の通路に歩いていく玄冶についていく。
「さて、この通路を見てどう思う?」
「綺麗です! 石の彫刻も周りの木も」
「そうだな。だが、ここはあえてこうするんだ」
そういうと、袋から落ち葉を掴み通路に投げる。
「ええええ?! わざわざ汚しちゃうんですか!」
「いや、よく見てみろ。今度はどう思う?」
「どうって⋯⋯。あれ? これって」
よく見ると先程は『綺麗』に掃除されているのだが、軽く落ち葉が散る事により『自然のような美しさ』に変わっていた。
「だろう? これを日本では『風情がある』という」
「すごいです。すごいです! 少しだけ実家の大森林思い出しちゃいました!」
掃除の作業があまりに早く終わったので、次は寺の拭き掃除を始める。
「雑巾をつかって、綺麗に拭いていくのだが、木の流れを無視して拭かないようにな」
「分かりました!」
分かりやすい廊下ちぃに任せて、掃除のしにくい廊下の掃除をしていると、何やらゴギッバキィ! と、響く音が鳴り響く。
「あ〜⋯⋯もしかして床が抜けたか⋯⋯」
ちぃの体重では抜ける事はないと思ってたが、やはりボロさが目立つのでこういう事は珍しくはない。
「壊してビックリしているかもしれないからいくか⋯⋯」
素直で良い子なので、壊した事に泣いているかもしれない。そう思った玄冶はちぃのいる場所に向かう。
歩いている最中、また反対側から音が鳴る。
「この家⋯⋯倒壊しそうだな⋯⋯」
なんだか先程から足場も先程からグラグラしているし⋯⋯ 。
いよいよ寿命かねぇ⋯⋯と思いつつ、ちぃの場所に行ったがいない。
「ちぃ?」
「すみませんー! こっちにいますー」
どうやら入れが元いた場所にいるらしい。壊した事を謝ろうとしたのかもしれない。が、よく見ると廊下に穴は空いておらず⋯⋯それになんだか綺麗になっているような⋯⋯?
元の場所に戻る途中も相変わらず、ヤバそうな音と地面の揺れが起こっている。
「うーん。あとで業者に電話してみるか⋯⋯」
などと思いつつ、元の場所に戻るが、ちぃの姿はなかった。
「あれ? どこいったんだ?」
辺りをキョロキョロみるがいない。ふぅ〜っと上を向いた時に、屋根に登っていく小さな足が見えた。
「んん??」
慌てて裸足のまま外に駆け出して、屋根上を見ると雑巾掛けをしていた。
「危ないから降りてこい!」
「大丈夫ですー! 元の綺麗な姿に戻すんですよね! 完全蘇生(リヴァイヴ)!」
次の瞬間に家がまるで生きているかにように蠢く、一瞬の間に朽ちた木、穴の空いた壁、雨漏りする天井が綺麗になった。
いや⋯⋯これは新品以上ではないだろうか? 木の息吹を感じれる寺⋯⋯いや神殿? まるで神が住むような雰囲気を感じさせる。
いや⋯⋯それ以前に⋯⋯今のはなんだ? たしかリヴァイヴとか言ってたが⋯⋯まさか⋯⋯魔法⋯⋯?
ポカンと呆気にとられている俺をよそに、ちぃは朝日をバックに後光のように輝かせて、女神かのような微笑みでこちらに手を振っていた。
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