case1 手品の種はビタースイートの味がした
raging sea
流れてくる風に、潮の、プランクトンの死骸が混ざってきた。セバスと一が港町に近づいている予兆だった。ローテンブルクは大陸と大陸を繋ぐ、いわば関所のような場所であった。つまり、経済の回りどころであり、経済が回るということは人民の活気もまた然りというところだろう。煉瓦造りの街並みではその活気にあやかろうと多くのパフォーマーが集まっていた。街についた一とセバスチャンは、そのパフォーマーを見物する観光客の一人として街の中にまぎれていた。
「悲しみの♪日が灯る空で♪」
ギターを片手に歌を歌っている黒肌の少女のハスキーな声は、観衆の耳を釘付けにしていた。
「たいしたもんだねぇwwwwwwwwwwwww」
その中でも目立っていたというのか、それとも浮いているというのか、一際彼の目を引いたのは腹話術師であった。
「そんなこんなでね、ここの客ったらケチだから1ダラーもくれやしないんだよ。」
「あんたの芸がつまらないからでしょうが!!」
腹話術師の男がボケて、人形がツッコむという形式のようだ。日銭を稼ぐことの出来ないことを自虐として、ネタにしているらしかった、それは大道芸人として珍しいことではないのだが、一が気になったのはその点ではなかった。
「明らかに人形の声と術者の声が違わないか?」
セバスチャンは彼に同意しつつも、無駄な思索であり、自分たちには無関係であると考え流れを意図的に切った。
「さぞかし腕利きなのでしょう。女性の人形に合わせた声を作れるのですよ、おそらく。」
「ケッ、さいですか」
なんとなく話をふったもののつれなくされるとそれはそれで苛つくという、一の子供らしい反応であった。
「城から銭はかっぱらってきた、これは勇者としての軍資金だったらしいな。」
手が早いとはこのことを言うのだろう、勇者としての資格を破棄したくせに軍資金は自分の手元にたぐり寄せるようにひったくったのだ。
もはやセバスチャンはツッコむのは面倒臭そうに、いやもしかしたら1号ではなくなったからもうどうでもよくなったかのように言った。
「では、この港から出港する船に乗れますね。」
この街からは王城のある大陸である東大陸から南大陸に移動できる船があるようだった。その運賃の相場を遥かに凌ぐ額を持っており、港に行けば南大陸へ行くことが可能なはずだった。
「南大陸には古代遺跡がたくさんあるらしい、お宝ザクザクかもなwwwwwwww」
彼はその実お宝自体に興味があるわけではなかった、遺跡を発掘し宝を見つけるという過程自体に物語を見出していた。
「では、港に急ぎましょうか。」
セバスは城の追手がここまで来てるのではないかと、一抹の不安を抱えていたため、のんきに観光をしている一を港へ促した。
「へいへい」
「「休航!!??」」
いざ、船旅へと気分が回っていた彼らは、後ろからストレートでげんこつを食らったような酔いの感覚に襲われた。
「ああ、今は海の魔物が活発なんだ。あと2日は待ってくれんかね。」
もちろん受付の者にとってこの説明は数あるうちの一つであった。そのため、機械的に流れるような発語だった。
「仕方がありませんね」
セバスは脳を切り替えた、どのようにして追手から逃れるかという一点であった。
「はー、どうしたもんかねぇ。」
彼はたんに暇な時間が増えたといった単純な考えしかなかった。彼らが各々の思考を始めながら港を出たところだった。
「あんたら、街で見ない顔だな。」
いきなりチンピラの常套句のような発言にめんを喰らいつつも、発言者の顔をみると。
「あんた、さっき腹話術してた人じゃないか?」
一がそう返すと嬉しそうに言った。
「おお!!見てたんなら話が早い。」
彼は袋の中をガサゴソと漁り、契約書のようなものを提示し、言った。
「秘密の依頼だ!受けてほしい!!」
拝啓、ライ麦畑より。 青春中毒 @kinotora5392
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