第一章

第4話 復讐の始まり

 自分の足が地に着いたことがわかった俺はゆっくりと目を開けた。すると目の前には俺のことを散々いたぶってくれたあの忌まわしい神の石像がそこにあった。

 その石像を見ていると無性にイライラしてくる。


「もうこの糞ジジイはいない。」


 拳を握りしめ、目の前にある石像を全力で殴りつける。スキルも何も使っていない攻撃だが、あっさりと石像はバラバラになり足元に破片が転がる。あっさりと壊れるのもそのはずで、スキルは奪われたが俺のステータスは一切奪われていないからな。魔王を打ち倒した時のステータスがそのままだから石像程度破壊するのはわけない。


 そして石像を破壊した後出口を探していると、嫌に覚えがある場所にたどり着いた。


「ここは……あの見えない壁に阻まれた場所だな。」


 あの忌々しい壁に阻まれて俺は地獄のような苦しみを味わった。

 胸の奥から憎悪の気持ちが湧き上がってくる中、あの壁があった場所に手を伸ばすともうそこには見えない壁はなくなっていた。まるで果たすべき役割を終えたように消え去ってしまっていた。


「それとも神が死んだから消えたのか……まぁ良い。ここから出れるならそれで構わない。」


 そしてあの見えない壁があった場所をくぐり、ついに俺は最果ての神殿を出ることができた。


「俺があの世界で苦しめられている間、こっちではどれぐらい時間が経ってるんだ?」


 あたりを見渡してみるがこの神殿に劣化などは見受けられないからどれぐらいの時間が経過しているのか全く分からない。まぁ、この神殿の近くにある聖都マルデアに行って誰かに話を聞いてみるか。


「さて、聖都マルデアにはあの司祭もいるはずだ。」


 俺を陥れたあの憎き司祭がな……。俺が味わったあの地獄の苦しみをアイツにも味合わせてやる。必ず、必ずな。後、転生者がそこにいれば尚いい。失った俺のスキルを取り戻せるいい機会だ。

 だがここで一つ問題がある。確かに転生者がいるのは都合がいい。しかしその転生者が持っているスキルによる。例えば俺が持っていたスキルの中でダントツに強い時間を操る系のスキルなどを持っている転生者の場合、いくら俺がステータスで優っていようが勝つことはほぼ不可能。


 


 生憎俺はもう勇者でもなんでもない。ただのだ。どんな方法を使おうがやつらから自分のスキルを取り戻すことができればいい。


「さぁ、行くか。」


 俺は神殿を出て東……聖都マルデアがあった方へと歩みを進めた。その歩みは同時にこれから始まる凄惨で残酷な復讐の道の第一歩でもあった。





 聖都マルデアへと向かい歩みを進めて数時間ほどでようやく見慣れた街が向こうのほうに見えてきた。大きな教会が何件も立ち並び、街を覆う白い壁からその屋根が飛び出て見えている。


「街並みは変わっていないな。」


 変わらない街並みに少し安心しながら歩いているとあっという間に街の入り口に着いた。そしてそこを守る門兵に俺は話しかける。


「すまない、今は西暦何年だったか?ド忘れしてしまってな。」


「ん?あ、あぁ今か?今は西970。」


 門兵の言葉に俺は驚きを隠しきれなかった。ポーカーフェイスを貫いていたとは思うがもしかすると顔にも出ていたかもしれない。

 西暦970年だと!?俺があの神殿にとらわれたのが西暦825年だ。ということは俺は神に100年以上も囚われていたということか!!

 チィッ……あれから100年以上も経っているってことはあの司祭ももう生きてはいないだろう。復讐対象が一人減ってしまったな。少し腹立たしいが仕方がない。時の流れは残酷だな。復讐すらも許してはくれないか。

 だがまぁ良い。今は100年経った街の姿を少し眺めてみるとするか。それと同時に転生者についての情報を集めればいい。


「すまない、助かった。」


 門兵に礼を告げ、俺は街の中へと足を踏み入れる。そうして歩きながら街並みや人を眺めていて何点か気が付いたことがある。まず一つ街並みはほとんど変わってはいないこと。二つ目に貴族風のなりをした人間が必ずと言っていいほど亜人の奴隷を連れている。


 亜人とは獣人やエルフ、そして限りなく人に近い魔族のことを言う。魔王が健在の時は人が亜人の奴隷を連れて歩くことなんてまずなかったのだが……これも魔王が死んだ影響か?

 100年前とは変わった人の生活様式に少し驚いていると、通りの奥から大きな声が聞こえた。


「聖王バーレン様がいらっしゃったぞ!!皆の者道を開けて跪け!!」


 その声が響くと辺りにいた人間がみな通りの中央に向かって跪き始める。俺も怪しまれないように周りの人の後に続くように跪いた。


 確か100年前の聖王はメルディアという女性だったはずだが、今の聖王はバーレンというのか。一度顔を拝んでおくか。

 そして目の前を通りがかった聖王の顔を見るために少し視線を上げた俺に戦慄が走った。なぜなら……なぜなら俺の間の前を通った聖王バーレンの正体は俺のことを陥れたあの司祭だったからだ。どうして100年経った今でも以前の姿のまま生きているのか不思議でならないが、まぁいい。


 復讐対象が死んでいなかったことに心底安堵しながらも、体の底から憎悪の炎が激しく燃え上がってくるのを感じる。だが、機は今じゃない。今はせいぜいその聖王の地位を謳歌しているがいい。すぐに地獄に叩き落してやるからな。自然に自分の歪んで吊り上がるのを俺は抑えることができなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

全てを持つ者が全てを奪われ堕ちるまで しゃむしぇる @shamsheru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ