第3話 最後の時
どれぐらいの時間が過ぎた?
一日?一月?それとも一年?
時計という時間を示す針の無い空虚の世界で俺は
最初の方こそスキルを抜き取られるというまるで、生きたまま心臓をえぐり出されるような痛みに悶えていたが……今ではそれすらも慣れてしまった。
そしてまた神の前に転生者が現れる……俺に残った最後のスキルを受けとるために。
嫌というほど聞かされた神の決まり文句のあとにいつものように俺の胸に神の手が沈む。
「…………」
「ほっほっ、お主の役目もこれで最後じゃ。」
神は俺にそう告げると俺の中に残っていた最後のスキルを豪快に抜き取った。
その瞬間、体の中が空っぽになったような不思議な感覚が俺を襲う。そして目の前には見飽きたウィンドウ画面が表示される。
残スキル0……と。
呆然とその画面を眺める俺を置いて最後の転生者はここから消えていった。それを見送った神がにんまりと笑いながらこちらへと歩いてくる。
「ほっほっほっ、よくぞ務めを果たしたのぉ~。どれ、約束通り今その鎖を解いてやろう。」
パチンと神が指を鳴らすと今までずっと俺のことを押さえつけていた鎖が粒子になって消え、拘束を失った俺は立ち上がることができず神の足元に転がった。
「務めを果たした褒美におぬしの最後の言葉を儂が聞き入れてやろう。ほれ、好きな遺言を遺せ。」
わざとらしく耳の後ろに手を当て、俺の顔の前で神は言う。そんな神に俺は遺言の代わりに一つ……質問をすることにした。
「……遺っ……言の代わりにッ……はぁっはぁっ!!お前が使っていたアレの名前を教えてくれ。」
「ほぅ?なるほどなるほど……死に土産は自分が苦痛を味わった神の御技の名前が知りたいと?」
荒く息を吐き出しながらも俺は神の目を見て一つコクリと頷いた。
すると神は俺のスキルを奪い取ったあの手を俺の顔の前に差し出し、含み笑いを浮かべながらその名前を言った。
「くっふふくくく……これは
最後突然胸に違和感を覚えた神は言葉の語尾が疑問型になりながらも、ゆっくりと自信の胸に視線を送った。
するとそこには目の前に転がっているルーシーの右手が深く……深く沈んでいる。そしてそれに気が付くと同時に今までルーシーが散々味わってきたあの痛みが神を襲った。
「ぐっぎゃあああああっ!!は、はなせぇッ!!この咎人め……がッ!?」
悲鳴を上げながら神は胸に埋まった俺の手を掴み何とか引き抜こうとするが、俺の手が形のある何かを掴むと何かを悟ったようにピタリと抵抗をやめた。
「ゴッド……ハンド……ふぅ、ゴッドハンドねぇ……。使った相手に地獄の苦しみを与えるのが神の御手なのか?」
今の俺の目の前に映る画面には残スキル1とだけ書いてある。さっきまで0だったのが、1に変わっていた。
それもそのはずで、実を言うところ神にあるスキルを奪われる前にこのゴッドハンドという技の原理は突き止めていた。しかし、ついさっきまでスキル名がわからずにいたため、これをスキルとして使うことができなかった。つまり、スキルとしてカウントされていなかったのだ。
そして名前の無い技だったものが今名前を得てスキルへと進化した結果がこれだ。
「さて神サマ、お前のスキルは……これだけか?」
「ひっ!?ぎゃあああああっ!!あ゛ぁ゛ぁぁぁぁ~~~ッ」
ぐるぐると体のなかを掻き回すように手を動かすと神は面白いほど暴れ狂い、悲鳴を上げ、泣き叫んだ。
しかし俺の腕は神を逃がさない。
「痛いか?苦しいか?俺はそれを100回味わってるんだ。もっと味わえよ……なァ?神サマ?」
俺は今までの仕返し……とばかりに神の体の中をかき混ぜ、時には形のあるものを強く握り、神に同じ苦しみを味わい尽くしてもらった。
そして神の喉が張り裂け最早悲鳴すらも上げなくなったのを確認し、俺は神の体から三つのスキルを抜き取った。
「神って言うわりにはスキルはたった三つだけ……か。」
神が所有していたスキルはゴッドハンド、バインド、そして転生。この三つだけだった。
100のスキルを所持していた俺より遥かに少ない。
「これを吸収するってどうやるんだ?」
握りつぶせば吸収されるか?など考えを巡らせているとピロンと、再び俺の目の前にウィンドウが現れそこに答えが書いてあった。
「……なるほど、こいつを胸に埋め込めばいいんだな。」
丸い球体状のスキルを胸に近付けると、スッ……とそれは胸の中へと沈んでいき再び俺の目の前のウィンドウに残スキル2と表示される。
ゴッドハンド以外の二つを吸収し、最後残ったゴッドハンドを吸収しようとするとウィンドウ画面が切り替わった。
「……?スキルの統合?」
目の前の画面にはゴッドハンドを統合しますか?とだけ書かれている。
どうせ二つ同じものを持っていても仕方がない。統合してもいいだろう。と頭のなかで念じると持っていたゴッドハンドのスキルが吸収され、スキルの名前が変わった。
「堕神の禁じ手……こっちのほうがよっぽど似合ってる。」
そしてスキルを統合したことによって新しいことができるようになったようだ。
それをここに転がってる神に早速試してみようと思う。
「……今からお前を殺す。もう二度と俺のように地獄を味わう人間を生み出さないために……な。」
俺は再び神の中に手を入れ、今度はさっきまでは掴むことができなかったドクンドクンと脈打つ心臓のようなものを掴み……そしてそれを一気に引き抜く。
するとそれを引き抜かれた神は足の先から徐々に光の粒子となって宙へと消えていった。
未だに脈打つそれを眺めているとまた違った画面が表示される。
【神殺しを達成した為堕天の準備が整いました。このまま堕天しますか?】
「堕天?どういう意味かわからんが……地上に戻れるのか?」
そう問いかけると「はい。」と画面には表示された。
ならば迷う必要はない。
手にした神の心臓らしきものを握り潰し、俺は選択した。
「堕天する。俺を地上に戻せ。」
そう答えると俺の体は今度は光の粒子ではなくどす黒い霧状になり霧散していく、その最中俺は誓った。
俺を騙したあの神官も……何も知らずに俺のスキルを奪い取っていった転生者どもにも俺がここで味わった地獄の苦しみを味わわせてやる。必ず……必ずな。
体の全てが黒い霧となって霧散した時……俺の意識は途切れた。
そして誰もいなくなった空間にピロン……とひとりでにウィンドウ画面が表示される。
【堕神ルーシーが天界から地上世界へ堕天しました。】
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