人物の視点という『世界を切り取る窓』と、その裏切りのファンタジー

 ちょっと変わった高校の先生と、それを見つめるきっとごく普通のいち女子生徒のお話。
 大好きな物語でした。好みにストライクすぎて感想を言葉にするのが難しいのですが、とにかく堅実で落ち着いた物語です。
 きっとわたしたちにも手の届くであろう範囲の現実を、ひとりの女子高校生の視点から静かに活写してみせ、そこにはフィクションらしい突き抜けるような〝特別〟は何もないのに、でも言葉や世界の切り取り方でグイグイ惹きつけてくる。作中で主人公がずっと見つめる対象であるところの先生は、確かにちょっと変わっているのは間違いないのですが、でもその「変わっている」の手触りがあまりに生々しく身近なことに、目の覚めるような心地よさを感じてしまいました。
 特に好きなのは第三話、いきなり牙を剥いてくるところです。第三話冒頭一行で急に無から生えてくる不穏さと、それを抱えさせられたままのあまりにも不安定な道行き。そして案の定というかいやもうなんと言えばいいのか、終盤周辺のこの容赦のないボコボコ具合。重く静かな疾走感というか、あちこち打ち身や擦り傷を負いながら転げ落ちていく物語の快楽。最後の結びなんかは鮮やかすぎてため息も出ないくらいで、ちょっと尋常でない「これ読めてよかったー!」感がありました。
 面白かったです。好きすぎてうまく言えませんが、とにかく鷲掴みにされた作品でした。