俺の後ろの席に座るクーデレ美少女が「私、芽梨衣さん。貴方のことが好きなの」ってずっと囁き掛けてくる件について

惚丸テサラ【旧ぽてさらくん。】

俺の後ろの席に座るクーデレ美少女が「私、芽梨衣さん。貴方のことが好きなの」ってずっと囁き掛けてくる件について





 高校の休み時間、俺は屋上のフェンスに寄り掛かりながら中学からの親友である岡田にとある相談を行なっていた。岡田とはクラスが別で、休み時間になればいつもこの場所で一緒に馬鹿話をしながら昼食をとったりしているのだが、今日だけは少しだけ違う。



「ははは、そんなウソで俺を騙そうとしたってこのオレは騙されねぇからなー?」

「いや、ホントなんだって! 信じてくれよ!」

「いやいや、オレらの学年の三大美少女である芽梨衣めりいさんがお前なんかに『貴方のことが好きなの』とか言うわけねぇだろww」



 照りつける太陽の下、野球部で坊主頭の岡田はへらへらとした様子で口元をへの字に曲げながらそう言う。屋上のフェンスに寄り掛かると、登校の際にコンビニで購入したサンドイッチにかぶりついてもっしゃもっしゃと咀嚼した。


 くっそムカつくなその表情……とか思いつつ、俺はそんな岡田に対し必死に説明する。



「一カ月前は俺も最初は聞き間違いだと思ったよ! 俺みたいな普通で平凡な教室で目立たない存在が、クール美少女な芽梨衣さんから話し掛けられる訳なんてないって! でもさ、それから最低でも一日一回以上『私、芽梨衣さん。貴方のことが好きなの』って後ろから何度も何度もささやかれたらそれってもう絶対確信犯じゃん!? 今までなんとか聞こえないフリしてきたけど、もう俺が訊き間違いとかフリとか出来ないレベルになっちゃってんだよ!?」

「はぁー、ったくよぉ~。いくら青春真っ盛りな高2になったばかりで、しかもオレ同様今まで彼女が出来なかったからって夢見過ぎだって。だって芽梨衣めりいさんだぜ? そりゃ確かに凛としたクールな雰囲気を纏う美少女だけど、これまで告白してきた男子を無表情でバッサバッサと切り捨ててきたあの芽梨衣めりいさんだぜ? そんな彼女が今まで関わりの無かった相良さがらに自分から好きとか言ってくるわけねぇじゃんバーカむぐむぐ」

「くそぅ、他人事だと思ってぇ……っ!」



 俺は苦虫を噛み潰したような表情をしつつも隣にいる岡田を睨み付ける。いつの間にか手に持っていた筈のサンドイッチはもう消えており『HA・HA・HA☆』と笑いながらコイツは両頬を膨らませていた。


 ふんっ、口いっぱいに餌を頬張ったリスみたいな顔しやがってぇ……!


 ―――先程から俺たちの会話の中心にいるのは"灰田はいだ 芽梨衣めりい"。俺らの学年内で『三美神』と呼ばれる三大美少女の内の一人で、金髪ポニテが印象的なクール系美少女だ。加えて彼女の声はとても可愛らしいウィスパーボイス。よく一カ月前から耳元で囁かれるので知っているが、とても落ち着くし心地良い声音だ。


 芽梨衣さんは一年の頃からその整った容姿から男女問わず人気で、どうやら常時気だるげにぼーっとしててミステリアスな所が彼女の可愛さを引き立てる要因の一つになっているらしい。


 なのでよく男子からは放課後や休み時間などひっきりなしに告白されるらしいのだが、彼女は恋愛に興味が無いのか「無理」「興味ない」「消えて?」というのが決まり文句のようで容赦なく断っているようなのだ。


 一方の彼女に告白した勇気ある男子たちはというと、芽梨衣さんと付き合えるかもしれないという夢が儚く散り落ち込んでいるのかと思いきやそうでもないらしい。俺には良く分からないが、彼女の無関心な凍えたような冷たい視線が彼らにとってご褒美なんだとか……(岡田談)?


 今日はまだ囁いてきていないが、そんな校内で有名な美少女な彼女がいったいどうして俺なんかに一カ月前から話し掛けて続けているのかと頭を悩ませていると、隣にいた岡田が不意にある言葉を洩らした。



「―――つーかただ『俺もだよ、ハニー♡』って言えば良いだけじゃね?」

「死ね」

「ストレートど真ん中過ぎじゃね!?」

「じゃあお前なら言えんのか!? そんなこと他の奴らに知られたら『調子乗んな!』って刺されるぞ!?」

「あーはいはい、お前実はいいヤツだから大丈夫大丈夫」

「返事テキトーなのはムカつくけどありがとう!!」



 声を荒げながら岡田にお礼を言うなどの器用なことをしつつ、僕は購買で買ったパンの袋を開けてジャムパンに噛り付いた。そして牛乳を飲む。

 うん、うまい。いちごジャムパンと牛乳最強!!


 菓子パン特有の異常な甘ったるさに頬を緩ませていると、地面にドカッと座った岡田から話し掛けられた。



「いやまぁぶっちゃけさっきのは本気だぞ?」

「……マジで?」

「いけるいける。整った顔立ちの割に無表情で何を考えているか分からない、特定の友人のいない彼女のことだ。きっと芽梨衣さんも話し掛けるに手っ取り早い、前の席のお前に対して勇気を出してふざけて話し掛けてるんだろうよ。ここは彼女の意表をついてびっくりさせちゃいなよYOU☆」

「マジか。……マジで? それだったら俺もそのノリに合わせないと失礼なのか……?」



 もしかして芽梨衣さんは自分もふざけているのだから俺も何かふざけるのを期待していた……? だからこそ何度も何度も話し掛けていたのか……っ。

 くっそ、なんか岡田に気付かされるなんて癪だな……っ!


 "キーンコーンカーンコーン"


 俺はついに判明した芽梨衣さんのサインにわなわな震えていると、ちょうどタイミングよく昼休み終了10分前のチャイムが鳴った。



「ははは、まぁ今言ったことは本当は冗だ―――」

「わかった、もし今日芽梨衣さんが俺にそう聞いて来たら言ってみるわ」

「…………は?」

「じゃ、俺先いくわー! 今度ジュース奢ってやるよー!」



 チャイムが鳴っていた途中、何か岡田が話していたが鐘の音が大きくて良く聞こえなかった。……まぁいっか。俺は気合を入れる為に「よしっ!!」と声を出しつつ教室に戻る為に屋上の入口へ走ったのだった。



「……マジか。オレ適当に言ったのにあいつマジか。はぁ、なんだかんだ言って相良さがらは純粋だからな。……骨は拾ってやるよ」



 ふっと笑みを浮かべながら最後に呟いた岡田の声など、当然ながら聞こえなかった。






(さぁ、いつでもささやいてきて良いんだよ芽梨衣めりいさん……っ! 俺の覚悟はもう出来てる!!)



 そして教室に到着。なんとか昼休みの時間内間に合った俺は自分の席に戻ると、急いで次の授業の準備を始めながらそう心の中で呟く。


 俺の後ろの席には芽梨衣さんがいる。教室内はクラスメイトの声で未だざわざわしているが、意識すると彼女の息遣いがとても良く聞こえた。

 一旦、深呼吸して落ち着く。


 すると突然背後からばしばしと突き刺すような熱い視線を感じた。いつもの彼女が囁き掛けてくる兆候に俺は思わず身構える。



(来るかっ!? 来るのか!?)



 囁いてくるのか、それ以外か。刹那の瞬間、俺の周りがひどく張りつめた緊迫感に包まれる。



 ……………………。


 …………。


 ……。




(―――いや来ないんかいッッッ!!!)



 俺は窓から差す夕暮れの陽射しを浴びながら強くツッコんだ。


 結局そのまま授業が始まりそのまま授業が終わって、もう放課後になってしまった。俺の予想に反して芽梨衣さんはいつまで経っても話し掛けてこなかったのだ。


 ……まぁ、相変わらずじぃーーーっと俺の方へ熱い視線を向けたままだったけど。


 現在はクラスメイトと共に掃除を終えて、自分の机で帰る支度をしている最中さいちゅう。教室内にはクラスメイトがまだちらほらと残っている。



(……うーん、なにを考えているのか分からないミステリアス系な女の子のことだからな。こんな地味で目立たない俺なんかに良く一カ月話し掛けてきたって褒めてあげたいわ)



 俺は内心溜息を吐きながら机の上で教科書をトントンする。今日は俺が所属する園芸部は休みだ。いつもなら花壇の様々な種類の花に水や肥料をやったり、苗植え、その他雑草ぬきなどの手入れを行なうのだが、どうやら今日は業者さんによる学校の設備点検があるらしい。


 はぁ、はやくあの俺専用ガーデニング花壇に肥料をやりてぇ……っ!


 因みに俺は花が大好きだ。色とりどりで綺麗だし、鼻の種類によっては良い香りがするし、なにより見ていて心が落ち着く。


 部員や後輩からは何故か"フラワー相良さがら"とか"仏スマイリー先輩"とか呼ばれているがどうしてだろう。ふざけたあだ名だけど、そんなに花を育ててるときの俺ってやべぇ笑みを浮かべてんのかな……?

 そういえばこの前、同じ園芸部である『三美神』の向日葵ひまわりさんにも『ふふふっ』って笑われたな……。


 と、俺が花のことを思い出していたからだろう。完全に気を緩んでいた瞬間にそれをされた。



「―――私、芽梨衣さん。貴方のことが好きなの」

「……ッ!!??」



 こっそりとした、耳に儚く残る抑揚の少ない可愛らしいウィスパーボイス。


 俺の後ろの席に座る金髪ポニテ美少女、芽梨衣さんが耳元で囁き掛けてきたのだ。本日一回目。そのせいか心なしか吐息の感触が耳にあるように感じる。

 いつもは彼女の気配で気を張っているのだが、完全に不意打ちで囁かれた俺は心臓がバクバクとしていた。



(き、きた……っ! よし、言うぞ……っ!)



 俺がもう話し掛けてきて来ないのだろうと思ったタイミングで囁いてくるとは……。うん、芽梨衣めりいさん上手い。

 確かに岡田の言う通りふざけているのだろうけど、そこには遊び心がある。きっと俺に退屈させまいとしてのことなのだろう。


 その彼女のふざけに応えるべく、俺は勢い良く後ろを振り向いた。



「―――俺もだよ、ハニー♡」

「――――――」



 俺の出来得る限りの全身全霊を込めた笑みをニコッと浮かべながら彼女にこっそりと話し掛ける。


 さぁ、もうこの際『ふっ、冗談』とか『死んで?』とかゴミを見るような蔑む目で見てくれて構わない。びっくりしなくても良い。そもそもは俺が芽梨衣さんの真意に気が付かなかったことが悪いのだから。

 ふっ、俺はこのまま『芽梨衣さんの言葉を本気にしたクズ野郎』の称号と共に海の藻屑に消えるのさ……。



 ―――と、思ったのだが……。



「………………ッ!!??」

「……え?」

「……ッ、あ……、うぅ……っ!!」



 芽梨衣さんは顔を真っ赤にして狼狽うろたえるように視線を泳がせた。一本に纏められたポニーテールは小刻みにゆらゆらと揺れており、彼女の言葉にならない声が洩れている様子は俺の言葉を聞いて恥ずかしがっているように見えた。


 そんな芽梨衣さんを見た俺は固まるしかない。……あれ、思っていた反応と違う? あっれ、俺なにかやっちゃいました?


 俺がどうしようかと頭を悩ませていると、芽梨衣さんは彼女らしからぬ挙動でガタンッ!!と椅子を動かしながら立ち上がるとそのまますたすたと教室を出て行ってしまった。


 クラスメイトからの視線が俺に一斉に集中するが、俺はそれに構わず彼女が去って行った教室の入り口をずっと見続けていたのだった。


 ………………。


 ……え、いったいどういうこと?




 ………………えぇ?





 次の日。正直学校に行くのは芽梨衣さんの件があって気まずかったが、園芸部の花の世話があるので気持ちを切り替えて学校へ向かう。


 教室に入ると、芽梨衣さんはもう既に自分の席に座って本を読んでいた。俺は自分の席に座って授業の準備をしようとすると……、



「おはよ」

「……え、あぁ! お、おはよう……!」

「今日は、良い天気」

「そ、そうだな……!? 花壇の花に水をやる絶好の日だな……!」

「……ん」



 なんと今までのように囁くのではなく、芽梨衣さんにはっきりと話し掛けられた。俺は思わず動揺する。


 滅多に人に話し掛けず、男子に告白されても飾りない言葉で容赦なく切り捨てるあの芽梨衣さんが俺に話し掛けた。

 その突然の出来事に『うっそマジで?』『あの芽梨衣ちゃんが……っ!?』『そこはかとなく香る蒼い春の匂いー』と周囲のクラスメイトが激しく騒ぎ出す。


 俺と芽梨衣さんの朝の会話はそれだけで終わったが、昼休みにも話し掛けられた。



「お弁当、一緒に食べよ。……ん」

「え、もしかして俺に作ってきてくれたのか?」

「もしかして、迷惑だった……?」

「全然! むしろ食べたい!」

「ん。……良かった」



 なんと芽梨衣さんが俺にお弁当を作ってきてくれたらしい。コンビニで買った弁当やスーパーか購買で買った菓子パンを食べることが多い俺にとってそれはとてもありがたいことだった。


 頬をうっすらと染めた芽梨衣さんはほんの僅かに口角を上げる。ご飯と共に卵焼きを食べるととても美味しかった。


 因みに途中で岡田がやって来たが、俺と芽梨衣さんの様子を見ると一瞬だけ目を見張ったものの、サムズアップして隣の教室へ翻して行ってしまった。

 さすが親友。坊主頭だけど空気は読めるな。


 そしてお弁当を全て美味しく食べた後に、俺はあることを訊いてみた。



「なぁ、芽梨衣さん」

「どうして……、その……一カ月前から、俺にあんなこと言ってきたんだ?」

「……っ! それは……」



 俺がそう聞いた途端、芽梨衣さんは昨日のことを思い出したのか顔を真っ赤にした。どうして囁き掛けてこようと思ったのかは分からないが、そうしてきたのは間違いなく事実。


 逡巡した様子を見せたが、やがて彼女はぽつぽつと話し始めた。



「……一目惚れ、だった」

「一目惚れ?」

「ん。きっかけは、貴方が校舎前の花壇の植物のお世話をしてるとき」

「あぁ、園芸部のヤツか……」



 俺らが通う高校の周囲には多くの花壇が存在し、様々な品種の花々が育てられている。高校の門の入り口から玄関まで結構な距離があるのだが、その両端にはずらっと長い花壇がある。


 その花壇の花の手入れから土の管理をするのも俺が所属する園芸部の仕事だ。きっと芽梨衣さんは俺が花の手入れ作業をする場面を見ていたのだろう。



「最初は花なんか見て、世話して、何が面白いのかと思ってた」

「まぁ興味ない人から見れば、確かにそうだよな……」

「でも、一年のときから、貴方はとても楽しそうにしてた。土とか肥料とか、花の苗……重くて、運ぶの大変だろうに。率先して、他の人のも手伝ったりしてて……。私が帰るとき、いつも貴方の楽しそうに頑張る姿が視界に入って……。いつの間にか、その笑顔を見てると、胸が、きゅううって暖かくなった」

「お、おう……」

「二年生になって、席替えして、貴方の後ろの席になって……、私の気持ちを伝える、チャンスだって思ったの……」



 そ、そうだったのか……っ。なんだか恥ずかしいな……。俺や他の部員が汗水たらしながら楽しく作業してたのを一年の時から実は芽梨衣さんが見てたってことだろ……?


 俺は恥ずかしさで、そして目の前の彼女が可愛すぎて顔を覆ってしまいそうになる。


 芽梨衣さんは本を机の中から取り出すと、その本に挟んでいた物を取り出した。



「あと……この押し花の栞」

「あ、それってこのあいだ俺が園芸部で作ったヤツだ……!」

「ん。この『H・S』っていうイニシャル……相良さがら 華磨はなまろ。貴方の。籠の中にあったから、貰った。良い香りがするから、お気に入り」

「そうだったのか。使ってくれてありがとう!」

「……ん」



 彼女はそう言って栞で顔を隠す。……全然隠しきれてないけど。


 でも……うわ、超嬉しい。それって園芸部内の二年生だけ……っていっても俺と向日葵さんだけなんだけど、二人でそれぞれ十枚ずつ枚作った栞なんだよな。

 高校の花壇で育てた、匂いの残りやすいイングリッシュラベンダーを使って押し花の栞にしたんだ。


 作った栞は『自由にお取りください』っていう籠に入れて図書室に置かせて貰ったりしてたんだが……。


 この前試しに気になって見に行ったら『三美神』である向日葵ひまわりさんのだけが全部無くなってて俺だけのが八枚残ってたからなんだか悲しかった。

 だけどまさか芽梨衣さんが俺のを使ってくれてるなんて……っ! すげぇ嬉しい! でもあれ……、だとすればあと一枚は誰が持って行ってくれたんだろ……? まぁいいか!!


 芽梨衣さんが俺の栞を使っていることを知り、思わず口角が上がってしまう。


 すると彼女は未だ顔を赤く染めながら、こてんと首を傾げた。

 


「それで……、どう?」

「え、どうって……?」

「本当なら、昨日貴方からの返事が無かったら、私に興味ないんだなって、諦めてた。その事を知るのが怖くて、躊躇ちゅうちょした」

「そう、だったんだ」



 なるほど、だから囁いてくるタイミングが遅かったのか。


 こんなことを言うのもあれだけど、ぼーっとしててミステリアスな雰囲気を持つ芽梨衣さんもちゃんと女の子らしい部分があるんだな。


 昨日返事して良かった。ありがとう岡田。



「でも、貴方は『俺もだよ、ハニー♡』って、言ってくれた。びっくりしたけど、嬉しかった」

「あ、あぁ……っ」

「だから―――私と、付き合って、ください」



 芽梨衣さんはそう言うと真っ直ぐに俺を見つめてきた。不覚にも俺はその真剣な眼差しにどきりとする。


 俺は昨日岡田に言われて芽梨衣さんにふざけて返事をした訳だが、これは間違いなく彼女の本気の言葉だということがわかる。わかってしまった。


 だからこそ、俺もその気持ちに真剣に答えなければいけないだろう。



「―――ごめん。実は昨日の返事は本気じゃなかったんだ。てっきり、俺のことを揶揄からかっているんだと思って、逆にびっくりさせようと思ってそう言ったんだ」

「……! ……そっ、か」



 俺の言葉を聞いた芽梨衣さんは寂しそうな表情で俯く。きっと昨日の言葉が本気では無かった事実を俺の口から聞いて、彼女はショックを受けてしまったのだろう。


 岡田にそう言われたとしても実行したのは俺自身。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。―――でも、今まで芽梨衣さんの話を聞いてきて、俺の中に心境の変化があった。



「芽梨衣さん、俺はキミのことを何も知らない。だから、もっと教えてくれないか?」

「え…………?」

「俺さ、芽梨衣さんに何度も囁かれたときなんで俺が? 実は揶揄からかってるんじゃないか?って戸惑ったけど……嬉しかったんだ。なんかこう、可愛い子から話し掛けられてる優越感みたいなのがあってさ? あはは、今思うとすげーダサいけど」

「……?」

「あー、つまりっ……、俺も芽梨衣さんのことが次第に気になっていたというか……っ!」



 だから―――、



「だから、まずは友だちから! 芽梨衣さんのことをもっと知っていきたい……! です……っ。……ダメ、かな?」

「――――――」



 なんだか心の中がメチャクチャだ。告白されて嬉しいけど、俺自身情けなくて、カッコ悪くて……思わず声が震えてしまった。


 俺はきっと幻滅しているであろう芽梨衣さんをそっと見つめる。彼女は―――うっすらと口角を上げている?


 芽梨衣さんの様子を不思議に思うのも束の間、芽梨衣さんはゆっくりと口を開いた。



「―――私、芽梨衣さん。貴方のことが好きなの」

「あ、あぁ……、ありがとう……?」

「私、芽梨衣さん。こう見えて、一度好きになったら一途なの」

「そ、そっか……!」

「私、芽梨衣さん。貴方のことを、きっと私に夢中にさせてみせる」



 だから、と芽梨衣さんは言葉を区切ると、ふわっと柔らかい笑みを浮かべた。



「―――これから、よろしくね」



 彼女らしからぬ表情と俺への好意を示す言葉に、教室中がどよめいた。


 今まで目立たずひっそりと過ごしていた俺の平和な高校生活。芽梨衣さんの囁きによりゆっくりと幕が閉じると共に、彼女がきっかけで新たな青春の1ページが刻まれる音が聴こえた気がした。





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