白い粉

増田朋美

白い粉

白い粉

ある日、杉ちゃんと蘭が、買い物のためにスーパーマーケットに行った時のことであった。序に、杉ちゃんが、そばを作るために、そば粉を買いたいと発言したため、スーパーマーケットから少し離れたところにある粉屋へ向かった。そこはパンとかクッキーなどを作るための粉を専門的に売っている、昔からある老舗の粉屋だった。

粉屋は、スーパーマーケットから、車いすで行くと、15分くらいの所にある。普通に歩ける人であれば、10分もかからない距離であるが、車いすではそれくらいかかってしまうのであった。店の名前を水田といい、結構大規模な店で、いろんな種類の粉や、お菓子の材料が、ところ狭しと置かれている店である。

杉ちゃんたちが、粉屋の入り口を開けて、

「こんにちは、聞きたいんだけど、そば粉ありますか?」

と、いいながら中に入ると、店にはすでに先客がいた。蘭の同級生だった、阿部慎一君である。

「あ、あれ、阿部君じゃないか。」

蘭は思わず声を上げた。

「どうもこんにちは、伊能君がこの店に来るとは珍しいね。」

と、阿部君はにこやかに話す。

「い、いやあ、この杉ちゃんの付き添いで来たんだよ。ちょっと買いたいものがあるって、杉ちゃんが言うから。」

と蘭は説明した。阿部君は、まだ驚いているようであったが、杉ちゃんに対してこんにちはとあいさつした。

「今日は、パンの材料でも買いに来たのかい?」

と、蘭が聞くと、

「ああ、ちょっと粉を用意しておこうと思ってね。今月も、パン教室に生徒さんは来るからね。」

と、阿部君は答えた。

「そうかあ。お前さんはいい仕事してるよな。食べ物を作ることを教授するって、素敵なことだと思うよ。これからも頑張ってやって。」

と、杉ちゃんもにこやかに阿部君に言うのだった。どうもこの二人、相性がいいというか、やっぱり食べ物を作るのが好きな人物同士なのか、馬が合ってうらやましいなと蘭は思う。

「えーと、阿部さんね、ライムギ粉を五キロ購入でよろしかったですね。」

店の店主が、そういういうことを言った。はい、お願いしますと阿部君は言う。

「杉ちゃんは、そば粉ですね、何キロくらい必要ですか?」

「ああ、とりあえず一貫あればいい。」

と杉ちゃんが言うと、すぐに阿部君が、一貫は今の単位に直すと、四キロなんですよ、と通訳してくれた。店主さんはわかりましたと言って、それぞれが注文した粉を用意してくれた。この店は珍しく、スイカなどのプリペイドカードが使えるので、杉ちゃんもお金の計算はしなくて済むのである。それだけ、障害のある人に、優しい店なのだろう。

「どうもありがとうな。おかげでそば粉が買えてうれしかったよ。また買いに来るから、その時はよろしく。」

と、杉ちゃんは、粉の入った袋を受け取って、にこやかに笑った。阿部君もライムギ粉を受け取った。

「はい、この店は特に定休日も設けていませんから、いつでも来てくださいね。」

店の店主さんもにこやかに言っている。蘭は、なんだか阿部君と杉ちゃんが仲良くしているのを見て、一寸やきもちを焼いてしまう気もしたが、それは口には出さなかった。

「どうもありがとうございました。粉が足りなくなりましたら、買いに来ますので。」

と、三人はそれぞれの持ち物をもって粉屋を後にする。そのあと蘭と杉ちゃんは、いつものタクシーに乗って、阿部君は電車でそれぞれの持ち場へ帰っていった。

蘭が杉ちゃんと別れて、自宅へ帰ると、アリスが待っていた。

「お帰り蘭。今日はバカに遅かったわね。スーパーマーケットは、そんなに混雑していたかしらね?」

と、アリスが聞くと、

「ああ、杉ちゃんが、そば粉を買いたいというので、水田という粉屋さんに寄ってきたんだ。遅くなってごめん。」

と、蘭は急いで答える。

「水田さんまで行ったの?」

とアリスが聞き返した。そうだけど?と蘭は答える。

「あそう。あの店、変な客いなかった?」

アリスが、また聞いた。

「変な客?」

蘭が聞き返すと、

「そうよ。この店に来て食中毒になったとか、そうやってゆすりをかけてくる客。」

と、アリスは答えた。

「へえ、そんな客がいたなんて知らなかったよ。とてもそんな客が来そうな店ではなかったけどね。」

蘭は、わざととぼけた顔をした。

「あそこの店主さん、すごくいい人だから、ゆすりをかけられて、応じてしまわないか、心配してるのよ。娘さんだって、体調良くないっていうし。まあ、あたしたち他人が心配するわけでもないんだけどね。でも、粉屋さんとして、有名な所だから、あたしは、一寸気になっちゃうのよね。」

「そうなのか。それにしても、ゆすりとはね。何か抗議する方法もなかったのだろうか。」

アリスがそう説明すると、蘭は、ため息をついた。

「まあね。あたしたちが心配することでもないけどね。」

と、アリスは、そういうことを言った。蘭も、さて、下絵を描かなきゃと、仕事場に戻っていった。この時は、今日行った粉屋が大事件を起こすなんて、考えてもいなかったのであった。

翌日。朝起きた蘭は、車いすで食堂に行った。すでにアリスは起きていて、パジャマ姿のまま、朝ご飯を食べていた。

「お前なあ、いい年して、女なんだからさあ、パジャマ姿のままでご飯を食べるのはやめた方がいいじゃないの?」

と、蘭がそういうと、

「何を言ってるの。朝ぐらい、ゆっくりさせてよ。」

と、アリスは、コーヒーをがぶ飲みした。

「ゆっくりさせてよってさ、お前さ、いくらなんでも人の前でパジャマ姿のままご飯を食べるってのは、一寸、恥ずかしさがないというか、そうなっちゃうんじゃないの?」

と、蘭が、あきれた顔をして、アリスにそういうと、

「ちょっと静かにして!」

と、アリスが、蘭に言った。蘭が黙ると、テレビの音が、大きく鳴り響いた。画面には、昨日行った粉屋の水田さんの映像が映し出されている。

「水田さんだ、、、。」

と、蘭は、驚いてテレビの画面を見つめた。

「本日、富士市内で、製粉店を経営していた女が、覚醒剤の密輸をしたとして逮捕されました。女は、扱っている小麦粉に混ぜて覚醒剤を密輸していたようです、、、。」

テレビはそんなことを言っている。もしかしたら、ゆすられたと言っていたのは、それをネタに脅されていたのだろうか。蘭は、そんなことが頭をよぎった。いずれにしても粉屋さんだから、白い粉を大量に扱っているのは本当だろう。それに別の白い粉を交えていたのか。

蘭は、呆然としている間、アリスは、どんどん朝ご飯を食べて、食器を片付けてしまった。まったく、女というのは、変なところでだらしなくて、変なところでしっかりしているもんだなと、蘭はため息をつく。

蘭が、朝ご飯を食べるのも忘れて、テレビを見ていると、玄関のインターフォンがピンポーンとなった。

「おーい蘭。一寸話を聞いてもいいかなあ?」

華岡かあ。一体なんでこんな時に現れるんだと思ったが、まあこのニュースをやっているのである意味仕方ないと思った。

「いいよ、入れ。」

と、蘭が言うと、華岡は、おうと言って、中に入る。なぜか一緒に杉ちゃんがいて、今から作戦会議をするような雰囲気になっていた。

「今日のニュースで見たと思うんだが、まったく最近のマスコミは、反応が早くて困るんだ。水田冬美を逮捕したというのは確かなんだが、もう報道されてしまった。」

と、華岡は、そういいながら蘭の許可もないのに、椅子に座った。

「そうか、あの、粉屋のおばさんは水田冬美か。」

と、杉ちゃんがそういう。

「で、蘭、お前に聞きたいんだが、お前、昨日粉屋水田に行ったんだよな。」

と、華岡は聞いた。

「ああ、そうだよ。僕も行ったし、あの蘭の大親友の阿部君という男も一緒だった。それは僕がしっかり聞いている。」

蘭の代わりに杉ちゃんが答える。

「蘭の大親友の阿部君という人物も一緒だったのか。その阿部君というのはどんな人物なんだ?」

と、華岡は聞いた。蘭は華岡が、阿部君のことを疑っているのかと思ったが、

「えーと、本名阿部慎一。富士市内で、パン教室をやっている。パンを食べられない人のために、ライムギのパンを専門的に教えている。」

と、杉ちゃんが、すぐに説明した。

「パンを食べられない人?パンが嫌いだという人は、いないと思うのだが?そんな人はよほどの菜食主義者とか、宗教的なこととかそういう事かな?」

華岡が聞くと、

「だからあ、水穂さんみたいな人は、今の世の中、いっぱいいるだろう?そういう人は、パンが好きだろうが嫌いだろうが、パンを食べれないじゃないか。そういう人には、小麦の少ない、ライムギのパンが貴重だよ。」

と、杉ちゃんは答えた。

「杉ちゃんよく答えを言えるな。そんな風に。まあ、阿部君のしていることはそういう事だ。そんな阿部君が、犯罪なんか手伝えると思う?華岡、そういうことは、もうちょっとしっかり捜査した方がいいんじゃないか。」

と、蘭は、やっとそういうことが言えた。杉ちゃんに、重要なことを言われてしまって、自分の出番がなくなってしまうような気がする。

「も、もちろんそうするさ。しかし、小麦を食べられない人のためのパンがあるというのは、俺もびっくりしたよ。」

ということは、華岡たち、やっぱり阿部君を疑っていたのか。

「まあ、そういうわけで、善良な阿部君が、犯罪に手を染めることはない。それに華岡さんは、パンのことを知らなさすぎだよ。アリバイがどうのとか、そういう事なら、昨日阿部君は、僕たちにもあっているし、その時とても犯罪を手伝っているような顔じゃなかった。もうちょっと、誰かを疑うときは、慎重にやる方がいいよ。」

と、杉ちゃんは、華岡の肩をたたいた。

「まあ、俺だって、そういうことは思ってないよ。俺はただ、知りたいことがあって、杉ちゃんや、ほかの人に聞いているんだから。確かに、ライムギでパンを作るということは、俺は知らなかったけどさ。」

「でも、どういうことだ?今回の事件に、阿部君がかかわっているって、お前、どこでそう思ったんだよ。」

と、蘭は、華岡に聞いた。

「いやあなあ。俺はただ、聞いただけのことだが、阿部慎一が、水田冬美をよく訪ねていたのは確かだし、それに水田は阿部に何か相談事をしていたのも確かなんだ。それは、ほかの客に聞き込みをして、はっきりしている。」

と、華岡は、えへんと咳払いをする。

「そうなんだね。でも、それだけで、阿部君が、水田さんの犯行にかかわったとするのは困りますね。」

杉ちゃんは、それを払いのけた。

「そうだよなあ。確かに俺は、もうちょっと、考えなければならないな。俺は軽薄だったかもしれない。もうちょっと、真剣にやろう。」

と、華岡は頭をかじる。同時に華岡のスマートフォンがなった。

「はいはい、俺だ。あ、そうか、そうだったな。よし、すぐに戻るよ。おう、待ってくれ。」

多分、部下の刑事から、捜査会議が始まるからと言って、すぐに戻ってこいという内容だろう。華岡のスマートフォンにかかってくる電話は大体そうだから。

「すぐ行くから待っててな。」

と華岡はそういって、スマートフォンの電話アプリを閉じた。そして、悪いが、署に急用ができて、と、

いって、そそくさと蘭の家を出ていく。蘭は、そんな華岡の出ていく姿を、やれやれという顔で見送った。

「しかし、阿部君が、覚醒剤の密輸にかかわったとは、、、。」

蘭は、頭を抱えて、縮こまるような動作をする。

「バーカ。お前さんまで華岡さんのいうことを信じちゃダメだろ。そうじゃなくて、全面的に信じてやることが、一番大切なんじゃないのか?」

と、杉ちゃんが言うと、そうだねえと蘭は一言つぶやいた。

「まあ、警察なんてよ。疑うのが正当な心構えだと、教えられているようなもんだからさ。ああいう風に誰でも疑ってかかるわけよ。でも僕たちは、そうじゃないんだから、お前さんが落ち込んじゃダメだい。」

と、杉ちゃんは言っている。蘭は、そうだけど、、、と小さな声で言った。最近の警察は、意外に正確なところもあるけれど、本当はどうなのか、わからないところもあるので。

「そうだよな。杉ちゃんの言う通りだよな。」

と、蘭は、ちょっとため息をついた。

その翌日。また朝食を食べながら、蘭が、見たくないテレビに目をやると、

「次のニュースです。静岡県富士市で、覚醒剤を密輸した女が逮捕された事件で、女は、富士市内に住む、製パン教室を経営している男性に、娘の体調などについて、相談していたことが、捜査関係者への取材で分かりました。警察は、この男性が、何らかの事情を知っているとみて、子の男性から事情を聞いています。」

と、アナウンサーの声が聞こえてきたので、いつもなら、活舌の悪いアナウンサーだと批判をしている蘭だったが、この時は、驚いてテレビを見つめる。

「な、なんで阿部君が、、、。」

と、蘭は、がっくりと落ち込んだ。テレビには阿部君の自宅の様子が写っているわけではなく、もう次のニュースが流れていたが、蘭は、しばらくテレビを見つめているしかなかった。それでも阿部君の家は、ひっそりとしているのではないかと思った。蘭は、急いで阿部君の家に、スマートフォンで電話をかけた。そうすると、その番号は現在使われておりませんという間延びした電子音が、蘭んの耳に残った。

蘭は、なんとなくだけど、阿部君の家がどうなっているのか、想像することができた。阿部君の家は、間もなく報道陣で埋め尽くされることになるだろう。そうなっては、いけないと思う。蘭は、それをさせてはならないと思った。

「おーい蘭、買い物行こうぜ。早くしないとスーパーマーケットが混んでしまうぞ。」

と、玄関先で杉ちゃんがそういう事を言っているのが聞こえてきた。

「おい。何があったんだよ。」

ふいに肩をたたかれて、蘭は、はっとした。後ろにいるのは杉ちゃんだ。まったく、こっちの許可もないのに、どうしてこっちに入ってくるんだろうか。杉ちゃんも華岡も、ここを誰の家だと思っているんだろう。

「いやあねえ、杉ちゃん。ほら、阿部君のことで、一寸悩んでてさ。テレビのニュースを見た通り、阿部君疑われているみたいだからさ。」

と、蘭は、吐き出したい旨のうちを言った。

「そうか、僕は何も知らないよ。だって、僕のうちはテレビもないし、新聞も取ってないし、情報は何も入って来ないよ。そのほうが、よっぽど楽。」

と杉ちゃんは言う。

「本当に杉ちゃんは、気楽でいいよな。テレビがないってことは、今の時代、何も自慢できるようなことじゃないんだぞ。」

と、蘭が杉ちゃんにそういうと、

「ほんじゃあ、阿部君が、そうしてないってことを、何とかして証明しなきゃいかんだろう。そうするんだったら、一寸、難しいかもしれないけど、華岡さんに、パンでも食べてもらえ。」

と、杉ちゃんはカラカラと笑った。

「そうか。そうすればいいんだ。華岡のやつ、疑うのが仕事だからな。それを変えるのは、やっぱり阿部君のありのままを見てもらうしかない。」

と、蘭はそういって、華岡のスマートフォンに電話をかけた。電話の内容は、一寸阿部君の家まで来てくれないかというものであった。華岡は、そんなことなんでだよと間延びした声で言っているが、いいから来てくれと蘭は、半ば強引にいって、華岡を同意させてしまった。

「一体、お前は何をするつもりなんだよ。ただ、阿部君が、悪い奴じゃないっていうことを証明するって、それは聞き込みとか、取り調べとか、そういう事で得るもんじゃないのかよ。」

車を運転していた華岡は、そう言っていたが、蘭は、いいから来てくれというだけであった。杉ちゃんが、蘭は、人のために何かしようとすると、周りが見えなくなるんだよ、と笑っていたのが、なんだか鼻についた。

そうこうしているうちに、ライムギの香りが充満している家にたどりついた。特にパン教室と看板を設置しているわけではないのだが、玄関の外までパンのにおいが漏れてきている家である。蘭がインターフォンを押すと、初めは反応がなかった。もう一回、インターフォンを押してもダメだった。こうなったらと思って蘭が玄関ドアをたたきながら、阿部君、僕だよというと、やっとドアが開いた。蘭は、この刑事さんにパンを食べさせてやってくれといった。阿部君は、何が今から行われるのかちょっと戸惑った様子であったが、蘭の真剣な顔つきを見ると、ある覚悟を決めてくれたようで、中に入ってくれといった。

三人が阿部君の家に入ると、ちょうど、オーブンレンジが回っているところであった。阿部君は、こういう立場になってしまったが、気を晴らすには、自分にはそうするしかないといった。確かに、そうだろう。好きなことは、同時に心の癒しでもある。

「阿部さんね、あなた本当に、水田冬美と恋愛関係になったわけではないのですね。」

と、華岡が刑事らしく、そういうことを聞いた。

「いえ、それはありません。確かに、娘さんのことで、相談をされたりしましたが、僕は、今回の事件には何もかかわりはありません。」

と、阿部君は、しっかりと答える。

「じゃあ、今までなんでそういう風にはっきり交さなかったんですか?」

と華岡が聞くと、

「それは、誰だって素人だから、警察に聞かれたら戸惑うよ。」

と杉ちゃんがカラカラと笑った。

同時にオーブンレンジがチーンと音を立ててなる。阿部君は黙って、オーブンレンジを開けて、パンを一つ取り出した。

「ライムギの、田舎パンです。」

と、取り出した丸いパンは、普通の食パンとは違う、焦げ茶色のライムギらしいパンだった。阿部君はそれをパン切り包丁できって、蘭たちの前に置いた。

「どうぞ。」

と、阿部君に言われて、三人ともパンにかぶりついた。それは、バターもジャムも塗らなくても、十分おいしいパンだった。杉ちゃんも蘭も華岡さえも、この独特の味には、圧倒されて、何とも言えなくなってしまった。

「うん、うまいよなあ。なかなかいけてるじゃないか。ほんと、これはうまいぞ。」

「本当だね。」

と、杉ちゃんも蘭も言っている。二人がおいしそうに食べているのを見て、華岡は、勝手に罪人扱いしてしまうのはやめようと思った。だって、二人の人間を動かすのに、うまいパンを作るのは、本当に大変なことであるから。

「そうだよな、うまいパンを作れる奴が、法律違反などするわけないわな。」

と、華岡は、小さくなって、またパンをかじった。

「じゃあ、代わりに、本当の事を話してくれますか。」

もう一度、華岡は、阿部君に聞いてみる。

「ええ、単に娘さんの精神疾患の治療費を稼ぐにはどうしたらいいかっていわれて、それは大変だと励ましただけですよ。それだけのことです。せめて僕以外の人に相談してほしかったですけど、

水田さんはそれはできなかったみたいですね。」

と阿部君は答えた。取り調べ中には、そういう事を堂々と言えなかったのに、好きなパンを前にすると、こんなに変わるのかと、華岡は、いやな顔をするが、杉ちゃんたちはおいしそうにパンを食べている。

「まあ、人間ってこんなものさ。そういう事だよ。」

杉ちゃんが、パンをかじりながらそういうことを言った。




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白い粉 増田朋美 @masubuchi4996

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