強制協力関係
ギルドの依頼受付から目的地に向けて出発し始めた私達は歩きながら軽い会話をしていく。
「いやー、それにしてもありがとう。実は困ってたんだよね。あの受付嬢にずっと足止めされてて」
礼を述べる彼は後頭部を軽く掻きながらすぐ前をひた歩くが私には聞きたい事があって思わず訊ねる。
「ねぇ、あなたはどうしてこの依頼を受けたの?」
「お金がたくさん貰えるから?」
「そう」
疑問系ではあるもののすぐにそう答えた彼に対して納得する。
「受付所の人がさっき言ってたけどさ、モンスターってそんなに増えてるのか?」
「増えてる。私も依頼受けててとても実感してる」
「そうか、やっぱり手伝っといた方が良かったかな。確かにそれは悪い事したな」
「お金は大切だけど、やっぱり今度からは自分に合うクエストを選んでやるといいよ」
「自分に合う、か。確かにそうだな、わかったよ。次からは気を付ける」
思うところがあったのか少し含みのある言い方だったが途中で気になる事が出来たらしく、こちらに訊ねて来る。
「そーいや、アンタはどうして俺の依頼に付き合ったんだ?」
「無理そうだったから」
「oh……ハッキリ言うね」
素直に感じた事を伝えると彼は項垂れるが誤魔化す様に理由を付け加える。
「でも。なんか、他の人とは違う雰囲気を感じたから」
「そりゃ違うだろう。みんな同じ容姿とか同じ性格とかだったら怖いだろ。人それぞれだよ」
「そこ」
「ん?」
言われた事に気付かずに彼は頭を傾げるので気付かせる為により詳しく話をする。
「そういう風に考えられる所がまた他の人と違う。戦う人であなたみたいに考える人は中々居なかった」
「気の所為だろ。他の人はそういう事を考える余裕がないだけで俺は暇だからな。あと余所者だからな」
はぐらかしているような気がするけども本当の事だと感じているのでそれ以上は言及しない。
「そう、なら気にしないけどあなたのレベルって幾つか教えてくれる?」
「ん?あー、コレか?」
彼が片手でその場でヒラヒラと揺らすカードがこのアフマディーヤやその他の町に於いて重要とされているギルドカードだ。
「そう」
「えーと?0だな」
少しカードを見てからそう宣言したカードを急いで取って確認すると本当にランクが0で血の気が引いていく感覚を覚えさせられてしまう。
「もしかして、冒険者クエスト自体が初めてなの?」
「まあ、そうだな。というか冒険者っていうの自体がまず初めてだな」
「馬鹿なの?」
悪びれも無く、サラッとその様な事を言う彼に対してつい口からそんな言葉が出てしまった。
「うっ、こうも直接的に言われると素直に傷付くな」
項垂れる彼に対して言い過ぎた事を少し反省する。
「ごめんなさい。昔から不器用で」
「いや、別に考えて見たら普通だからいいんだ。寧ろ他の反応を取る方がおかしい」
興味本位がレベルの所しか見てなかったので目の前の彼の名前が気になり、確認してみる。
「あなたの名前は、コーヤであってる?」
「そうだな。そっちは?」
それまでそんなに見る事もなかった彼が私の事に興味を持ってくれた様でこちらも自己紹介をする。
「私はセリア、よろしく」
「ああ、これからよろしく。なあ?そういえばさっき街中で騒がれてたガイアスって人はどんな人だったんだ?」
街で騒がれていたのがたまたま彼の耳にも入ったのだろう。気になるのも当然なのかもしれない。
「ガイアスは、この街で一番強い冒険者で私とライバルのクラスターのリーダー」
「クラスター?それって、組合とか団体とかチームみたいな奴か?」
歩きながら彼の知らない質問に対して次々と答えていく。
「うん。ガイアスのクラスターはレイフォルクラスターって言うんだけどガイアスのクラスターはガイアス中心にしてやってたからこれからの継続は難しいかもしれない」
「じゃあセリアさんのクラスターは?」
私の事も知らないようでどのクラスターに所属しているかを聞いてくるので答える。
「私のクラスターはネシルムクラスター。主にモンスターの素材とかを中心に扱ってるクラスター」
「へー、なるほど。なあ?そのクラスターってのは冒険者になったら必ず入らないといけないものなのか?」
これから入るつもりなのかそれとも入りたくないのか単純な疑問として彼が意見する。
「ううん、別にそんな事はない。でも一人でずっとやっていくのには限界があるから。一応私はそのネシルムクラスターのサブリーダー、組織の中ではNo.3なんだ」
「へー、リーダーじゃないのか?」
予想外だった様で彼は少し目を見開く。
「そういうの、私苦手だから他の人に任せてるの」
「じゃあ、今この街で一番強いのはセリアさん?」
「昔は私より凄い強い人がたくさん居たけど今はもう、全員化け物に殺されて」
昔は私より強い冒険者は何人も居て、彼等を追い続けて強くなってきた頃にその人達が倒される様になってきたのだ。原因は分からないがそれは決して彼等が弱かったわけではない。
足りない力に歯痒い思いをしながら唇を少し軽く噛む。
その様子を見て彼がわざわざ話題を逸らしてくれた様に見えた。
「街だけなのか?国とかは無いのか?」
「クニ?はよく分からないけど、私の知ってる範囲には街しかないよ?」
「そうか他の街にもギルドはあるのか?」
「一応、全ての街にあるけど。変な事を聞くね?普通ここに来るまでには知ってると思うけど」
何かあまり的を得ない問いに疑り深くなって眉間に少し皺が寄る。
「ちょっと俺訳有りだから知らなくて。待て、あれは……モンスターか?」
慌てていたのが途中で意識が変わって彼は警戒心を少し引き上げる。
「冒険者なら普通に倒せるけど普通の人は倒されちゃうから気を付けて」
「分かった」
私からのアドバイスを受けた彼は素早く移動をして背後からモンスターを短剣で急所に刺して仕留める。
「よっ、と!ん?消えた?」
人が死ぬ時に死体が残るのは違ってモンスターが無くなった事に彼は疑問を覚える。
「その様子じゃモンスターを倒したのも初めてなんだね。でも腕は良いね、確かに敵を恐れない事も分かるよ。ほら、魔石が落ちているでしょ?」
指で彼の足元を指すと如何にも珍しい物かのように彼は目を光らせる。
「これが魔石か。それにしても、なんか綺麗だな。少し出来過ぎなくらいだな」
考えた事は無かったが改めて見ると確かに綺麗だと思った。
「モンスターを倒すと大体半分くらいの割合で出てくるの。武器とか防具とかを強化する時に必要になるの」
「ホント、まんまテンプレだな」
「テンプレ?」
彼の話す言葉にはよく分からない単語がある。知らない事を聞き直すと訂正する。
「いや、何でもない。それよりさっさと目的の物を探そうぜ」
しかしそれ以降話をする事も無く、無言で数分歩き続けた時にふと戦闘を歩く彼の背中に何処か面影を感じて気付くと既に口を開いていた。
「最近、強い人に会ったの」
「うん」
「私はその時体力をかなり消耗しててしかもかなり遠くだったからあまりよくは見えなかったけど、見た事もない技を使って私が苦戦した敵を倒してたの」
「へ、へえ?そうなんだー」
前を歩いている為、彼の顔は見えないが思いの外声が上擦っているように聞こえたが気の所為だと感じる。
「だから今はあの人に会う事を願いながら戦ってる」
「そうか」
彼も深くは追求しなかったが歩く速度が少し早くなっていた。
が、次の瞬間。前を歩いていた彼が私の真横を何者かに吹っ飛ばされてものすごい勢いで少し遠くの場所にぶつかる。
彼の事も心配したかったが目の前の敵から目を離す余裕が全くなかった。このモンスターはあの時に戦ってた敵のより強い最上級クラス。
「アレ?このモンスター」
「逃げて!」
目の前の敵に関して飛ばされて運良く生き残っていた彼が何かを呟こうとする前に静止してこの場から離脱する事を指示する。
「このモンスターは私が止める。あなたはその間にこの場を離脱して。私に形振りなんて構まってなくていいから逃げて」
「けど」
「どっちみち、ここで逃げたら街が襲われちゃう。なら今度は、私が守らないと」
「でも、それじゃお前が」
「早く行って!」
「わかった、すぐに仲間を呼んでくる」
何を伝えようとしていたが少しでも彼が助かる可能性を考慮して強めに言う。走り去って行く彼の後ろ姿を見ずにモンスターと相対する。けれども後ろの彼が走る音でその場を去って行くのがよく分かった。
……また、一人になってしまった。
「あんな事言ったけど、やっぱり私も逃げたかった、な。このままじゃ、勝てそうにないや」
分かっている。この敵には今の私は確実に勝てないと。準備は万端だが実力で勝ち目がない。
剣を振り下ろす牛型のモンスターに間一髪で避けるものの反撃の糸口が作れずに中々攻撃を当てる事が出来ずに距離を取られる。
再度突進をされて剣で受け止めるが勢いを殺し切れずに吹き飛ばされて体制を崩す。その直後に敵の薙ぎ払いに胴に鈍い音と痛みを感じて地面に叩き突き上げられる。
「ここまで、だったんだね」
立ち上がる程の気力と勇気は既になかった。死を受け入れる準備をするが、もう目の前の視界は既に涙で霞んでいた。耐えられなかったのだ。
「大丈夫だ、そんな事はさせない」
そんな声が聞こえてくるとふと後ろから何かが飛んで来て目の前のモンスターに突き刺さった。
「安心しろ。俺がいる」
私の見上げた先には、彼がいた。
モンスターに刺さっていたのは一つの大きな大剣で、彼の視線は私を捉えていた。雨が降り、雷が落ちるその中で身を騒付かせる程の光景がそこにはあった。
「悪かった、仲間呼びに行けなかったよ。それと隠し事みたいな事をしちゃってごめんな。俺は薄情な奴だ」
彼の姿は雨に濡れていながらも紛いも無く凛としていて見るもの全てを圧倒していた。その証拠として彼に刺された筈のモンスターは彼をただ見続けてしまっている。
「辛い思いをさせてしまったな。あとでなんか詫びするよ」
「さて、待たせてすまんな。とは言っても俺はお前に罪悪感とかは感じないから、お前も存分に俺を殺しに来てくれ」
モンスターが痛みを叫び続ける中で彼がそう言うと、懐から一本の武器を取り出した。
出した武器は双曲剣だったのだが、彼が取っ手の先を押すと青白い剣が双曲剣の先から現れた。そう、それは自分の体と同じくらいの長さの剣とも言えるかなり大きな長大剣になったのだ。横幅が広くて盾としても使える大きさでメインの武器のようだった。
準備が出来、長大剣を構えると同時に化け物達が彼に突っ込んで来る。
「吼えるなよ、響くだろうが」
腕の技術は高く、双曲剣のモードと長大剣のモードで使い分けて使っていて肝心の相手は手も足も出ない状況だった。
双剣の使い方が異常な程に上手いのもそうなのだが、更に異端な所が長剣のモードとの使い分けである。
普通、武器を使い分けるのならば攻撃の動作をし終えてから変えるのが常識。というか本来ならその用途でしか変えることが出来ないのだが、彼は違った。
一見適当に敵を倒しているのだが、実は倒す瞬間に武器を切り替えている。
双曲剣で攻撃する時のリーチが足りないと切り裂く筈だった動作を切り替えて長大剣でそのまま振り切いたり、長大剣で突き刺す筈だったのが攻撃が当たらなそうと見ると双曲剣で回転斬りをして見せたりと彼は非常に様々な多彩な動作するのだ。
「凄い………」
攻撃途中にやり方を変えるなど思ったとしても身体の反応が間に合わない。出来たとしても、それは回避に繋げる為の行動で攻撃しかしないなんて馬鹿げた選択肢は取ろうとしても取れるものではない。
なので最早あれは反応速度とかではなくて身体に染み付いたモノなのだろう。そう、本当に攻撃の仕方は適当なのだ。ただ最後のトドメを刺す瞬間だけ途轍もなく正確に殺す。
アレがどれだけ異常な光景なのか、それは私自身が一番分かっていた。
「どんな事をすればそこまでになるの」
当然、彼は答えない。聞こえてないのが普通なのだが、しかしどうにも彼には聞こえている気がした。
街でずっと腕を磨いてきて自分より上の実力の人が入れば勝ちたいと今までがむしゃらに戦ってきた。そして、やっと街で頂点に立って自分より強い者を求めて更に戦い続けた。それが人であれ、モンスターであれ、構わなかった。けれども今、私は目の前の彼を見てこう思った。
『こんなには強く成りたくない』と。
何故ならその力を見せ付けている彼は少しだけ悲しそうな顔をしていたからだ。
最後に双曲剣を一つに繋げて合体させると合体させた双曲剣の先から先程とは異なった自身の身体の倍以上の長さの青白い両手剣が成り、彼は剣を中心に構えた。
「さらばだ」
直線に振り下ろす最後の一太刀が目の前の敵を真っ二つにして爆発四散させた。
こちらに歩いて来る彼に先日の記憶と重なってふと頭の中の違和感が消えた。
「コーヤがあの時の」
「そうだな。俺がその時の奴だった」
立ち止まってただこちらを見つめる彼はとても遠くて、冷たくて。
「「あ」」
それども互いの今までの行動を思い出して思わず声が出てしまう。
「じゃ、そう言う事で」
「させない」
距離を取ろうとした彼に対して、もう逃す理由なんてなかった。腰に掴み掛かって彼が逃げるのを阻止する。
「イヤイヤイヤ!待て待て待て!俺はもう帰るから!こんな空間に居れないから!」
「私だって、あんな話をあなたにした」
「やめろ!俺はダメージ大きいから!あんな格好付けて再登場したのにコレだから!」
★
「さて、アフマディーヤに戻るか」
仕切り直しとも言える一言を言って帰ろうと辺りを見渡す。が、そこには荒廃した光景が出来ていた。
「にしても本当に街以外は酷い景色だな。こりゃ常人じゃなくても少し正気を失うぞ」
「でも現れる化け物を倒すのは私達の使命だから」
「そうか。偉いな、あんた達は」
自分たちが居た場所は大地が腐り、空気が汚れていた。けれども自分達は戦い続ける。根本的な原因ではなく目の前の問題を解決するが為に。
道のりは長いだろうし、回復は厳しいだろう。でも、止めることはない。何故なら彼等はそれが生きてく術なのだから。
「私、実はかなり不安だった」
「何がだ?」
彼が聞き直すとその募った思いを伝える。
「昔はみんな私より強くて目指せる目標があって街も賑やかでみんな幸せそうだった。けどいつの間にか私より強い人達が帰って来なくなってて居なくなってて気付いたらも私が何とかしないといけない状況になってて何をすれば良いのか分かんなくなって、何を目指すのが正解なのか戸惑ってた」
「あのさ?別にそんなに強くなくても良くないか?」
ふと、そんな事を言うので疑問を彼に投げ返す。
「どうして?強くないと生き残れないよ」
「あー悪い、言い方が悪かった。俺が言ったのは一人だけの強さで戦うんじゃなくて、手伝ってくれる人はいないのか?って話」
「いるにはいるけど、私がそれを毎回断ってるから」
「そんなにどうしようもなく強さが違くて一緒に出来ないって言うんならしょうがないけど。人は、頼ってもイイと思う。例え強さが足りなくてもその人達を強くさせて一緒に戦えばいい。今のあなたはその人達の目標なんだろ?だったらあなたのようにそれに憧れる奴もきっといる筈だ」
「そっか、ありがとう」
考えて見たらそうだったのかもしれない。私は今まで一人で強くなる事を求め過ぎていて周りの人達と協力する事が少なかったかもしれない。それは街の為にと、誰かの為にと身を粉にした事で努めてきた。しかし辛いのならば、出来ないのであれば頼れば良いと言う彼の発言は人と話してなければ得られなかった事で自然と礼を述べていた。
「どうも」
「これからも活動頑張って?」
「やめろ。まあ、今回はありがとな。色々と教えてくれて。感謝してる」
照れながらも礼を述べる彼に対して慌てて私も言い返す。
「ううん。私の方こそ本当にありがとう。色々と助けてもらって本当に助かった」
「じゃあ、ここでお別れだな。また何処かであったら、そん時はまたよろしくだ」
「待って!」
「どうした?」
用があるのか居なくなろうとする彼を止めると彼はこちらを振り返ってくれた。
「あのね、あなたに協力して欲しい事があるの」
「いや俺今別れようとしてんだけど」
困り顔をする彼は厄介事を逃れようとしているがもう私の中で彼を見逃す気はない。
「なら依頼をしたいの」
「なんだ?」
「私と一緒にチームを組んでくれる?」
「えー、あんまりやりたくないんだけど」
断られた事に衝撃を受けて少し頭が真っ白になるがすぐにどうしたら協力するかの起点を利かせて彼に意地悪をする。
「お願い………じゃないとあなたの事全部バラす」
「分かったよ………最後の完全に脅迫でしたよね?」
少し強引な気はしたかもしれないが、ここから私と彼の冒険譚が始まる。
悲哀の救済者 ヒラナリ @hiranarin
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