第8話 悪気は全く
鯉子です。
例の派手な結婚式を吉祥寺でした、2人のお話の続きを。
金曜の夜は毎週違う男とこの井の頭公園の池の近くにB子はやってきます。そして決まってあるベンチに座り、泣いて見せたり笑って見せたりして、最後にこう言います。
「実はねこのベンチ、おばあ様からのプレゼントなの」
ベンチには小さな銅製のプレートが付いていて、そこには
〝愛する孫B子へ。誰より幸せな女性になってください。祖母より愛を込めて〟
「それなのに私はこんなに不幸な結婚をして、おばあ様に顔向けできないわ。私が殴られているって知ったらおばあさまなんていうかしら」
「君はなにも悪くないよ。もし離婚するなら、僕はなんでもするから言ってね」
「ありがとう、でも貴方には奥様が」
「君が決めたら僕も決めるから。本当だよ」
とかなんとか、とにかくだいたい毎回こんな調子でした。
一方、夫のB男の方も、よくこの公園に現れました。彼は決まって火曜日の夜。いつも同じ女の子と一緒です。
「本当に奥さんと別れるの?結婚したばかりじゃない」
「とはいえ付き合い長いからもうそんな気になれなくてさ。すでに夫婦とはいえない関係だよあいつとは。俺が欲しいのはお前だけ」
「またまたー。あんな盛大にパーティしたくせに」
「だから今すぐってわけにはいかないけど、必ず離婚はするからさ。それまで愛人でいてよ」
こういう腐った関係でも、人間界では、割れ鍋に綴じ蓋、とでもいうのでしょうか?
結局この2人、なんと18年も仮面夫婦を続け、表面的には理想の夫婦を演じ、吉祥寺であたかも幸せそうに暮らしていましたが、B男が五十を手前にして、まだ懲りずに壮絶なダブル不倫からの愛人を妊娠させる事件を起こし、ついに家庭崩壊。
B男は、愛人の夫からももちろんB子からも多額の慰謝料を請求されてセレブ生活から撃沈。B子はそれまでの不倫がバレることもなく、慰謝料を手に15歳も歳下の男性と再婚したそうです。
ある意味、シアワセな女性、かもしれませんね。
鯉子には、刺激が強すぎる、2人の半生でした。
追憶のまち、吉祥寺 らららろろろ @maggyharry
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。追憶のまち、吉祥寺の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます