マクロネンサーの犯罪立証マクロ

ちびまるフォイ

人間らしさ

「は~~学校まで歩くのめんどくさいなぁ。

 ずっと寝ていられたらいいのに。

 助けて! マクロネンサ~~!!」


「どうもマクロネンサーです。お呼びでしょうか」


「学校まで歩く動作をマクロにできないかな?」


「もちろんできますとも!」


マクロネンサーは依頼者の背中にボタンを取り付けた。


「この背中のボタンを押すとマクロが実行されます。

 そうなれば足と体が自動的に動いて

 あなたを学校へと導いてくれますよ」


「やったぁ! それじゃ頭はずっと寝てていいんだね!」


「もちろんです。人々の暮らしを便利にするのが

 私マクロネンサーのお仕事ですから」


マクロネンサーの登場で市民の生活はぐっと楽になった。


マクロネンサーの手で作られた「マクロ」と呼ばれるボタンを押すと

同じような動作やルーティーンを自動的に実行してくれる。


マクロは学校でも頻繁に使われるようになった。


「コラ山田! お前、マクロを使ってノート取っているだろう!」


「そうです。マクロネンサーにお金を出して作ってもらいました」


「うちの学校はマクロ使用禁止だ!」


「どうしてですか! 手作業だと時間が足りないし

 人によってノートの差が出ちゃうじゃないですか!」


「とにかく禁止なんだ! つべこべいうな!」


「そういう先生だって、背中にマクロあるじゃないですか!

 そのマクロはいったいなんなんですか!」


「こっ、これは授業マクロだ!

 生徒にいつも同じ水準の授業を指導できるように

 授業を自動化したマクロを作ってもらったんだ」


「先生だって使っているじゃないですか!」

「教師はいいんだ!」「ずるい!!」


その後、マクロ禁止に不服の生徒が集まってデモを起こしたことで

マクロはどの地域や施設内でも使用が可能となった。


「このために、デモ用マクロ作れって依頼だったのか……」


マクロネンサーにはデモの前の段階でマクロ構築の依頼があった。

デモのために作られたマクロを使った人たちは、

自動的にマクロで準備された場所に集まり、一定周期で反対と叫ぶようになっていた。


マクロが一般の生活にも浸透するほど、

マクロネンサーに依頼される仕事のバリエーションは増えていった。


「……というわけで、美容室のカットをマクロにしてほしいんです」


「はぁ」


「客映えするかと思ってカッコイイ店員を入れたものの、

 想像以上に不器用なので髪をカットするマクロで自動化したいんです」


「やりましょう!」


マクロネンサーは美容室の細やかな動きをマクロで再現した。

次にやってきたのは和服姿の男だった。


「拙者、将棋を志している者だが。

 こしらえてもらいたいマクロがある候」


「はあ」


「将棋をさす自動化マクロを作って欲しいので候」


「それ大会的に大丈夫なんですか」


「問題ないので候。なにせ相手はすでにマクロ使っているので候」


その後、テレビで中継された将棋の頂上決戦は歴史上最速で勝負がついた。

お互いにマクロを駆使して自動化するため、考える時間を省略できた。

将棋解説する人が困ってしまうほどだった。


「今の手は……なんでしょうか。えーーっと、あ、もう次の手!?」


もはやマクロを使わない生活はあまりに不便で遅すぎる。


箸を動かすのもマクロ。

トイレでお尻を拭く作業もマクロ。


なにもかもマクロによる自動化が進んでいったある日のこと。

マクロネンサーのところへ警察がやってきた。


「貴様がマクロネンサーだな。ちょっと署まで来てもらおう」


「え!? 私がですか!? なにも悪いことしてませんよ!?」


マクロネンサーは取調室のマジックミラー部屋へと通された。


「ここで何を? 取り調べ用のマクロを作るんですか?」


「ちがう、鏡の向こう側を見てみろ」


鏡をはさんだ向こう側の部屋では今まさに取り調べの真っ最中。

容疑者は腹をたてるように叫んでいた。


「だから! 俺は悪いことなんてしてねぇ!

 ただ、マクロが勝手に俺を操作して盗ませたんだ!」


「それじゃお前はそんなつもりはなかったんだな?」


「当然だ! 全部マクロが悪いんだ!!」


「では見てもらおうか」


容疑者は別室に移されて眠らされた。

今度はその部屋にマクロネンサーが通される。


「それで、今度は私に一体何をさせるつもりですか」


「この男のマクロを解析し、本当に犯罪マクロが作られているか確認しろ」


「いやそんな依頼、この男から受けていませんよ」


「お前がこの男と共犯という可能性もあるだろう!」


「わかりましたよ」


マクロネンサーはマクロ解析を行った。

マクロにどんな作業が刻まれているか確認するも、

犯罪に使われるような魔改造はされていない。


「……この男のマクロ、これはただの"挨拶マクロ"です。

 ちまたに出回っているマクロで、犯罪を起こすものじゃないですよ」


「本当なんだな!?」


「ええ、ほらここの記述を見てください。

 挨拶マクロについてのコメントが残っているでしょう?」


「……あやしいな」

「え? なにがですか?」


「実はお前がなんの罪もない市民を

 マクロで操作して犯罪利用しているんじゃないか!?」


「そんなことするわけないでしょう!?」


「容疑者の顔を見ろ! あんなに必死に訴えているのに

 お前と来たら涼しい顔で"コメントが残ってる"だぞ!

 どう考えてもお前が黒幕じゃないか!」


「どう考えても、はあなたの主観でしょう!」


「ばかやろう! 俺は何十年警察やってると思ってるんだ!

 犯人とそうでない人間なんてのは嗅覚レベルでわかるんだ!!」


「ちゃんとした理由を教えて下さいよ!」


「犯罪マクロを作れる可能性を否定しないのが何よりの証拠だ!!」


「そんな無茶な!!」


いつしか容疑者の起こした罪は

「そもそもそんなマクロを作った人が悪い」にシフトしていった。


今度はマクロネンサーが取調室に入りさんざん質問という名の恐喝を行われる。


「俺はお前がこの部屋に入ってきた段階でわかった。

 お前は自分の手を汚さずに人を操作する、悪だってな」


「なんの根拠もないじゃないですか。

 私は犯罪のマクロなんて作っていません!」


「しかし、犯罪利用できる可能性はあるんだろ」


「あなたは爆弾の構造を知る人間すべてが

 猟奇的な爆弾魔だとでもいいたいんですか!?」


「爆弾の話はしていない!」

「知ってますよ!!」


「お前はマクロネンサーという立場を利用して、

 ホントはからっぽのマクロを作って金だけ取ったりしたんじゃないか」


「なんでそんな悪い医者みたいなことを……」


「だが残念だったな。俺たち警察の人間はマクロを使わない。

 いくら違法なマクロを作ったとしても、

 この目がマクロでごまかされることなどない!!」


「こんなのむちゃくちゃすぎる! 裁判だ!!」


マクロネンサーは必死に意義を申して立てて裁判へともつれ込んだ。


マクロを構築できるといっても所詮は一般市民のマクロネンサー。

対して警察はあらゆる表や裏の情報を調整できるプロ。


マクロの解説資料程度しか用意できなかったマクロネンサーに対して、

警察はいかにマクロネンサーが危険な人物であるかを辞書ほどのボリュームで提出していた。


「裁判長! 以上のことからマクロネンサーは非常に危険な存在です!!」


「ううむ。そうかもしれないな」


「コイツの趣味はオンラインゲーム!

 それも銃でバンバン人を殺すゲームですよ!

 そんな奴が人を操れるマクロを作るなんて危険すぎる!」


「たしかに」


「今、ここでコイツの罪を認めなければ

 どんな犯罪もマクロで操作すれば無罪になります!

 悪の親玉を見過ごすことなんてできない!!」


「そうだな!!! マクロは悪しき文化だ!!」


警察と裁判長は阿吽の呼吸で裁判を進めていく。

もはやマクロネンサーの意見を差し挟む余地などなかった・


「それでは判決を言い渡す!!」


裁判所にいる全員が息をのんだ。


「マクロネンサーは無罪とする!!」


判決に一番驚いていたのは警察の人だった。

誰よりも早く意義を申し立てた。


「無罪!? 正気ですか!?

 どうして無罪なんですか!

 コイツは極悪犯罪者予備軍なんですよ!?」


警察の詰問に裁判長は困った顔をしていた。



「知らないよ。だって、常に公平で中立な

 判決マクロが無罪って出たんだもん。しょうがないじゃん」

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