オペラ『0時30分前』より二重唱と合唱「見上げてください、これが冬の空」
ファウスト:
見上げてください、これが冬の空。
オリオン座はわかりますか?
ほら、三つ星のベルトがある。
すぐ右隣が牡牛座です。
炎の色にひときわ輝くのがアルデバラン、
その周りに集まるのがヒアデス星団。
どうしてこんな独り言を?
私が教えることはもうないというのに。
いや、この声を聞いているのは幼い私、
夜空に光るものは何だろうと思い巡らせる農民の子。
メフィストフェレス:
お前が生まれる前、そして死んだ後も、
太陽は昇って沈み、月は満ちて欠け、
星々は一年で元の位置に戻る——
宇宙は規則正しく終末へと向かう。
ファウスト:
その宇宙にあるもの全て、
私はなんと恐ろしい「永遠」に身を沈めたことか。
本当に二十四年は過ぎ去ろうとしているのか、
ああ、目覚めれば愚かしく思う夢ではないのだろうか?
メフィストフェレス:
お前が生きたことは何も変えはしなかった。
誰もお前の知ったものを引き継ぎはしない。
お前の名だけは残されるにしても、
それはただ、定かならぬ影としてだけ。
ファウスト:
崇高な、そして馬鹿げたこの世界よ!
合唱:
私の人生が無駄なものだったとは見なされたくない。
ファウスト:
信じがたいことではありませんか、ヨハネス君!
田舎の泣き虫の人生に、これほどのことが起こるとは!
ほら、ぎらぎらと輝くあの星をご覧なさい。
あれはシリウス、最も明るい星。
君がこの先歩む道を、あの光が焼き焦がすのです。
合唱:
私は賢人の如く生き、愚か者のように死ぬ。
私の人生は無駄であるべきではない!
ファウスト:
未知なる世界が苦痛以外の全てを奪い、
炎と汚染の中で悶え苦しみ続ける身となろうと、
二十四年間が与えた知識と、思考と、想像だけは、
永遠に私のものであり続ける。
合唱:
知識と、思考と、想像だけは、
何物も人間から奪うことはできない。
メフィストフェレス:
あるいは堕天使からも、
地獄がそれらを奪うことはない。
千の声:クトゥルー神話と詩集 アーカムのローマ人 @toga-tunica
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