相心流棒術の思い出。(十二)

『天心流兵法』と『柳生流』――


 まさかこんなところで繋がるとは!


 いやま、この『天心流兵法』の素性はこの時点では不明でしたし、もっといえば、この記事を書いてる時点でもなお不明です。

『徳島の剣道』にも『書上』(注1)の記事があり、それを読むと開祖を「井鳥巨雲」としていますが……この記載はどうしてかここにしかなく、それに『武芸流派大事典』によると、この井鳥は『天真流』の開祖となっています。

 記事を書かれた方が『天真流』だからそう書いたのか、それとも、徳島に伝わる『天心流兵法』の資料を所持なされているのか――

 どちらもありえることですが、先述した通りに、この『天心流兵法』については今以て未詳です。該当記事(注2)でも、『川田の一本』の異名を持つ高名な相撲取りである、住友治五郎右衛門がこの流派の使い手だったことと、何人かの弟子の名前が書かれていただけでした。

 それだけなら、本当に「ただの偶然もここまで続くことあるんだなあ」で済んだのですが、その弟子たちの名前が、『柳生流』の関係者と重なること、住友の子が『柳生流』の『木村郷右衛門』の弟子になってから、柳生に言って免許をもって帰ったとなると話は変わってきます。


 何せ『書上』にかかれていた『天真流』の『河端瀧右衛門』が、『柳生神影流』と『相心流』の伝系にあった「川端」に連なる者である――そういう可能性が真剣味をおびてきたからです。

 

 ほとんど思いつきのようなものでしたが、本当にそんなことが資料から見えそうになってくると、興奮するものです。


 改めて『天心流兵法』の記事を読んで住友の弟子を確認すると、「原士 伊沢新八」と「武岡実之次」とありました。

 この二人の内、「原士 伊沢新八」については『市場町史』(注3)に『天心流』の記事を見つけた時、師範として「伊沢八郎」という名前が書き添えてありました。亨保年間の記録だそうで、「原士 伊沢新八」が住友治五右衛門のいつ頃の弟子かは解りませんが、なんらかの親戚関係があるのではないかと思います。

 そしてもう一人の「武岡実之次」ですが、伊沢が「原士」であるのならば、彼もまた「原士」の可能性があるのでは?

 というか、「原士」の「武岡」は、『書上』にある「河端瀧右衛門(原士武岡権太左衛門家来)」ではないのか――

 

 ここで『徳島の剣道』の『柳生流』の特集号に戻り、住友治五右衛門の息子の住友嘉七郎の系譜を追っていきますと、彼の弟子に「木曾次」「伊勢次」の名前があり、それぞれが「武岡実之」の弟と次男と解説が書き添えてありました。


 ここまで読んで、確信しました。


 住友家が『柳生流』に鞍替えしたのに倣うように、その弟子筋の者たちもまた、『柳生流』を習うようになったと。


 そして、河端=川端の仮説が真であるかどうかはさておいて、武岡家の家来の者たちもまた、『天心流』から『柳生流』になったのではないか――


 


(つづく)





注1

『徳島の剣道』 13号 『寛政元年(一七八九年)幕府の武芸調査に対する蜂須賀藩の報告書(剣術)について』


 相心流棒術の思い出。(三)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054907730269/episodes/16817330667973196759

 で引用されている、『阿波武道の広がり』とは別にあったが、記事を書かれた坂本裕二氏はこちらにも協力者として名前が見える。

 内容はほぼ同じであるが、一部の記載に独自のものがある。


注2

『徳島の剣道』7号  「天心流兵法 住友治五右衛門吉正」

https://tokuken.sub.jp/tokuken7.pdf


注3

 相心流棒術の思い出。(七)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054907730269/episodes/16817330668276512398

 こちらで当時の師範の名前とか書いたつもりだったけど、確認すると書いてなかった…あとで修正しときます。

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