神様なんですか!?

ぱぴぽ

第1章 天界にて

第1話 天界の主

俺は神の玉座に腰掛け、自分の世界の様子を見下ろしていた。

どいつもこいつもやりたい放題やっている。魔法も剣も科学も何もかもだ。


それに対して俺は、いや、俺様は何をやっているんだ?


父親からこの世界の支配者である神の座を譲り受けたはいいものの、心配性な奴の采配により、俺の仕事は全くない。

ほぼすべての仕事が細かく天使どもに割り振り済みである。

天使へ力を貸してはいるため、威厳を保つ事はできているのだが……。


いや、何たるお節介。

暇人ここに爆誕である。


おかげさまで影ではニート神といわれる始末である。

本当に威厳を保てているのかはなはだ疑問である。


「どうかなさいましたか、アリグリット様……?」


不安げにこちらを見ているのは先代の頃から神の側近を務めている上級天使、ミハエルだ。

こいつは俺が幼いころからの付き合いなので距離が近い。


「ああ、少し考え事をな……む?」


待てよ、全知全能の俺はどんな能力を与えていた?

あ、思い付いたぞ。


俺の様子に嫌な予感でもしたのかミハエルの顔が強ばるのが見える。


「アリグリット様……?」



神や天使はそれを信仰する人々が思っているより万能ではない。

そして無感情でもない。

だが、天界の者は表情を偽る事だけは得意だ。

そのトップである俺が表情を表に出すことが珍しいのは側近であるミハエルに対しても例外ではない。


だからこそミハエルの何かが嫌な予感を捉えたのだろう。

今までの俺のやらかしが培った予知能力だな。可哀想に。

だが、その予感が間違いだったことを示してやろう。


「そう怯えた顔をするな。お前ともあろうものが表情丸出しとはな……大したことではない」


「ではどのような……」


「俺は暇で仕方ないからいつも下界を見てる……というのは知っているな?」


「ええ。それなりの頑張りにはそれなりに報いてやらねばな、と仰っていましたね」


「ああ……だが、下のものはいつもこいつも魔王だーとかゲームに閉じこめられただーとか科学がすごい発展しただーとか充実した生活を送ってるみたいじゃないか」


「いや、もちろんそれに文句があるわけじゃない。俺の世界の民だ。結構なことだ」


何を言いたいのだろうという顔をしてるミハエルにだがな、と声量をあげる。


「それに対して俺はどうだ。何をするでもなくただただ上から見ているだけだ」


「父上のせいで少し手を加えたくても勝手に権限を使うとあとが面倒になる。他人のやってるゲームを見ることほどつらまらないことは無い」


「い、いや、しかし当人にとっては災難なのでは……」


「そんなのはどうでもいい。分かるか、ミハエルよ。俺はこんなところでくすぶっていていい人材じゃないんだよ!」


高ぶった感情のまま玉座の前にある机を叩く。

こんなところでただぼーっと時を過ごしていていいわけが無い。

世界の損と言っても過言ではない。

堕天使の方がまだ活動的であろう。


「いや! アリグリット様はこの世界を治める神なのですから燻ってなどいません。望んでなれるものでもないですし……」


小声でブツブツと文句を言うミハエル。

お前は神の側近という恵まれた立場では無いか。

誇るべきなのだが。


「まあいい。そこでひらめいたわけだ」


「ど、どのようなことを……」


ミハエルの警戒レベルが頂点に達したのを感じる。

そこまで怯えることではないのだがな。


「父上のせいで俺はあまり自由に権限を行使できない。そして仕事も最終チェックのような地味なものばかり」


「つまりな、よく言われているニート神っていうのもあながち間違いじゃない。実際ほとんど仕事してないしな」


「神としてほとんど機能してないんだよ、この世界ではな」


俺は神だが本来与えられてる仕事の殆どはほかの天使たちに振り分けられている。

それ故に天使たちからは影でニート、天界警備員などと勝手なあだ名がつけられている。


そんなニートな神である俺は情けないことに自分の世界に対してあまり干渉ができない。

できないことは無いが、世界への干渉には反動があるため面倒なのだ。


「どうせ自由に動けないのなら、他の世界で他の神が作った運命ってものに抗ってみるのも面白いんじゃないかなって思ったわけだ」


どうせ暇なら腐るほどあるし、と小さく不敵に笑う。


「転生、ということですか?」


聞こえてるからな、お前が心の中でつまり他の世界の神に迷惑をかけるってわけですね、分かります、と呟いているのは。

それも気にならない程度にはご機嫌なので無視してやるが。


「いや、転生したら神の座が乗っ取られてしまうだろう。存在が消えて別のモノになるのが転生だから……」


「俺は魂移しだな」


そう言ってから指を鳴らす。


するとホワイトボードが出現する。


俺はそこの前に立ち、ミハエルくんにも分かりやすいようにまとめてやる。

そして叩く。バンッ。


「俺はここを離れる。その間は俺の座を乗っ取らないであろう信頼できる人物を置いておく。例えばミハエル。お前とかだな。ここを離れた俺はほぼ特権なしの状態でどこかの世界の人間の体に魂移しをしてもらう」


魂移しとは神が現地で視察したい時などに使われる手法で、少し体を拝借して、そこに自分の魂を滑り込ませるというものだ。

つまり、抜け殻になった体だけ残るというわけだ。

……ちなみに、神隠しとかはこのせいで起こってる。


「そこからは俺の休暇だ。誰にも手出しはさせない。一応こっちとの交信は出来るようにしておくが、万が一の時でも繋げるなよ」


我ながら完璧な計画である。

この代になって使ったことも無い魂移しの存在をよく覚えていたと自分を褒めたい。


「ふむふむ……お言葉ですが、私はウルグレット様にアリグリット様への服従の呪いを掛けられています。なので離れたくても、ウザくても、殺したくても手出しは出来ないし、離れられないのです。故にアリグリット様が別世界へ行くのでしたら私も自動的にセットです」


ちっ、俺の事を溺愛していたとはいえ、そこまで強固な呪いをかけているとは。

よくアリグリットに信頼できる部下ができるまでは死ねん! とは言っていたが、信頼できる部下じゃなくて縛りつけられる部下になってるとはすこしミハエルに同情してしまう。


そんな可哀想なミハエルのためにも俺は小さな声でつぶやく。


「くそじじい」


若干ミハエルに睨まれている辺り、本当に父上に心酔していたのだなと益々可哀想になる。

まあ、この発言が他の天使どもだったらミハエルも黙ってはいなかっただろうがな。

どうでもいい事だ。


「まあ、そういうことなら仕方がない。お前も近くの農民Aの体でも借りて俺の生活を見てるといい」


ここを留守にする前提で話を進めていく。

さて、準備を始めなくてはな。


「御冗談を。そもそも誰を代理に置くつもりなのですか。私もいないというのに」


ふむ、確かにそれは考えていなかったな。ミハエルを置いていけないとなれば別の代理を探さねばならない。


しかし、信用ならない代理を立てるのは断じて許されない。

神というものは本来なら指一本で世界を潰せる存在だからだ。


「……それなら選挙というのはどうだろうか」


「選挙、ですか……?」


ミハエルは訝しげな目をしている。

権限があまりないとはいえ俺の独裁で回るこの天界では聞きなれない言葉だ。理解出来ずとも仕方あるまい。


「三階級の天使どもを集め、代理の選挙をするのだ。つまり、代理を皆で選出するというわけだな」


「なっ、それは、下級天使に姿をお見せになるということですか!?」


ミハエルは嫌な予感的中、という顔をしている。

まあ無理もない。



天界には天使が三種類いる。


羽だけの下級天使。

白い羽と輪っかの中級天使。

色々な色の羽をもった上級天使だ。

因みにミハエルは上級天使で、透き通った美しい水色の羽を持っている。


そしてそのなかでも神への謁見が許されるのは原則上級天使のみ。



この常識に照らし合わせるとミハエルの反応が正しいのだ。

中級天使はともかく下級天使にも顔を見せるなど前代未聞にも程があるからだ。


だが俺がそんなことを気にする必要などあるまい。

神は法だ。


「そんな驚くことは無いだろう? とにかく主催者の居ないイベントなど成り立たんからな。さあ、そうと決まればさっさと準備を始めよ」


そう言って俺はミハエルを追い出した。





気づいたときには部屋を追い出され、謁見の間に飛ばされていた。


ああ、準備をしろということですね。


やれやれ、とため息をついていると、同じく強制的に招集されたらしき上級天使達がやってくる。


「にしてもお前はいつも大変だな。今回は選挙だって?」


同僚の上級天使であるガブリエルは投票用紙を作り出しながら労いの言葉をかけてくる。


「はは……お手数かけるよ……」


もはやため息も出ない。

慣れである。


「あのお方はニートの癖に……ニートなのに活動的なんですよねぇ」


同じく上級天使のサリエルは羽が抜けてしまうよ、と苦笑しながら選挙箱を設置する。


「ってミハエル、本当に羽が禿げてるぞ!」


ガブリエルは目を丸くして羽が減っているところを指す。


私だって気づいているし気にしているところだ。


私はため息混じりに答える。


「それは、アリグリット様にも言われたよ。誰のせいか分かっているのかねぇ」


私は減りつつある羽を撫でつつ、着々と準備の進む会場を見回す。


雑談をしつつも進捗の確認は欠かさない。これがアリグリット様の側近だ。


「ふふっ、笑っちゃいけませんね。しかし三階級で選挙を行うというのに何故会場準備に上級天使しか招集が掛からなかったのでしょう」


サリエルもせかせかと準備に勤しむ上級天使達を見回しながら首を傾げる。


「謁見の間の仕事は普段から上級天使の仕事だよ。下級天使とかにやらせたらアリグリット様と接触してしまうおそれがあるだろう?」


「ああ……そこまで徹底していたのに、その暗黙の了解をぶち壊す辺り、さすがだな」


ガブリエルは拡声の魔法具を設置する。

あ、あ、と音量、魔力の出力の確認もバッチリだ。


「あとは天使たちを招集するだけかな……ああ、もちろん強制転移じゃないけどね」


天界中の天使たちに召集命令を出し、上級天使達にも担当部署の天使たちの監督を命じていく。


ああ、本当に無茶ぶりに慣れたな、と思いながら。




ガブリエル、サリエルの二人はやっぱりアリグリット様の無茶に付き合えるのはコイツしかいないと痛感したのであった。

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神様なんですか!? ぱぴぽ @nosonoso1321

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