第12話

「私をこんなに可愛くしてくれたのは誰?」

リビングの窓越しにルエナがいる森の方を見ながら私は

一人で考え事をしていた。ルエナの自分に対する

気持ちにどう返事をしようかと。最後に会った時の

ルエナは自分から私が離れてしまったのかと

思い込んでおり手がかかる子供の様に

泣きじゃくっていた。落ち着きを取り戻したルエナに

私は貴方の伝えてくれた気持ちに対する返事は

もちろんする、しっかりと答えたいから時間が

欲しいと伝えた。

「主犯者って言う意味なら、エルムさんだよ。」

「まるで共犯者が居ない様に言わないでってば。」

窓ガラスに映った自分の姿を見ると頭にはサンタの

帽子、首にはリースと赤いケープが取り付けられてる。

「何気に貴方達全員も私と同じ格好しているのね。

もうクリスマス気分なの?」

数日後のメインイベントが余程楽しみなのでしょうね。

フライングをしてしまう程に。それともただ試着を

しているだけなのかもしれないけど。後ろの三人に

好き勝手されるくらい自分は頭を働かせていたのか。

「何たって久しぶりの一人じゃない

クリスマスだからね。」

あの大雪の日の時いつの間にか帰ってきたエルムに私が

気付くか盗み聞きをされていなければ自分は窓ガラスが

夜には鏡にもなるって知る事はなかったでしょう。

くるりと後ろを振り向くと私の尻尾に前足で白綿を

つけようと企んでると思われるリアンと目が合う。

「所でリアン。共犯者は一体何人いるのかしら?」

「一人も居ないって言うのが正解かな?」

全員が主犯者っぽそうだ。少なくともリアンは

現行犯であるけど。こんな軽いちょっかいを

シアン達から受けるなんて、そんなにない。

エルムにでも影響を受けた?

「ここには主犯者しかいないんでしょう?だから

共犯者はいないってシアン…ううん。リアンは

言っているのよね。」

「その通りだね。でもラフィー一人だけが仲間外れって

言うのも、どうかなって思ったから勝手にだけど

僕達とお揃いにさせてもらったよ。」

別に服とかがなくても私達犬には全身に体毛があるから

正直に言うと必要ない。そうであっても人間はどうやら

ペットに着せたがるらしい。

「サイズが私にちょうどぴったりのは驚いたわ。これは

エルムが作ったのかしら?」

「帽子とケープは元々家にあった物だよ。」

その家に一時的とは言え私を住まわせるだなんて

エルムは変わっている。いやこちらとしてはルエナに

ついて、ゆっくりと考える事が出来るから助かるけど。

リアン達の知りあいであるならば誰であっても

友好的な態度を取るのかしら?機会があったら

ルエナにも会わせてみるのもいいかもしれない。ただ

一つ気になる事がある。あれからエルムは決して

私ではない、あの猫を見つけられたのか。まだ私の事を

疑っているのだろうか?


リアンやシアンを身体用洗剤で洗ってあげて

残す所はあとラフィーだけとなった。あともう少しで

一人が余裕を持って入れるくらいの湯舟につかれる。

ラフィーの全身にシャワーをかけて、すすいでやる。

顔の所は息苦しくないように手で軽く鼻を覆いながら

そんなに勢いが強くない水流を浴びせた。脱衣場に

誘導しようとしたらラフィーが

「一度お湯につかってみたいのだけど、いいかしら?」

「あっ、うん。それじゃあ私と一緒に入る事になるね。

それでも構わないかな?」

「逆にこちらが聞きたいわ。エルムの方こそ大丈夫?」

私は頷き二人同時にバスタブへ身体を沈める。一応

ラフィーに気をつかって体育座りをして空きスペースを

作った。

「へぇー…川と全然気持ちよさが違うわ。ふぅ…。」

本当に冬の時に入る、ちょっと温かめの風呂はラフィーの

言う通り気持ちよさが身体に染みてくる。川と

言うって事は森には温泉などはないのだろうか。

山の方まで足を運んでいかないとさすがにないか。

「一人だけのはずだった入浴を邪魔してしまって

ごめんなさいね。せっかくの屋内生活だから色々と

体験してみてもいいかなと思ったの。」

「気にしなくていいよ。たまにリアン達とも

一緒に入る事があるから。」

すると普段の貴女はリアンとの混浴を

楽しんでいるのねとラフィーは笑う。確かに

異性同士ではあるけど種族は違うからなぁ…。

「エルムに言えた事ではないけど貴女には

驚かされたわ。会ったばっかりの私にこうして

住処…じゃなくって、しばらく自分の家に居ていいと

言い出すなんて、お人好しで優しいわね。」

「普通に生きていくためには寝泊まりが出来る場所は

必要だからね。人間の場合だってホームレスには

炊き出しとかの援助なんかがあるんだよ。」

テレビで偶然見ただけなので詳しくは知らない。

缶ゴミ回収で収入を得ている人がいるらしい。

「それを聞くと保健所で安楽死する事になる私達より

長生き出来るホームレスの方が羨ましいわ。」

それを聞いて、ふとガスで処分されたリアン達の

知り合いでもいるのかと考えてしまった。喋ると

言っても野良犬である事には変わらないから私と

リアンが出会えなかった可能性もあっただろう。


入浴を済ませた私は台所に晩御飯を作りに行こうと

していたエルムに声をかけ物置部屋へ入ってもらった。

床には風呂場へ行く前に私が左右に開いた本がある。

リアンの濃い匂いがするあの一冊の本が。書籍の

存在に気付いたエルムはまるで驚いて何処かに

逃げる猫の様に素早い動きで床に

置いてある本のページを閉じた。

「そんなに慌てて隠そうとしなくてもいいわ。

その本の内容と用途と誰の所有物なのかは

もう何となく分かってるから。」

「な、何で知って…。」

「数日前にここでぼーっとしていたらリアンが

この部屋に入ってきて今貴女が持ってる本を棚から

出して私がいる事に気付かないで見始めたからよ。」

まさかリアンの自慰現場に遭遇する事になるとは

思わなかったけど、まあ目に良い物は見れた。ただ

室外と違うからって私の気配を察知しようとしないで

欲求の処理を楽しむのはどうなんでしょうね?

「本の時点で確実に何処だかの店で購入をしたのは

貴女である事は間違いないでしょうけど、…それで?

これを使っているのも貴女なの?良かったら本に

残っている匂いを嗅がせてもらえないかしら。」

「それは諦めてくれないかな?この本の事は

リアン達の知り合いでも…教えられないから。」

「教えられない理由は一体何なのよ?不純な

理由じゃないでしょうね。別に私に話せなくていいわ。

でもさすがにシアンには言えるでしょう?」

首を横にエルムが振る。まだ先に本だけを

見つけなくて良かった。この人間に対して私は

怒りに任せて危害をくわえてたでしょうから。エルムを

口を割らないと言うのなら試しにリアンにでも

聞いてみてもいいかもしれない。

「これはちょっと本当に何にも話せない。でも…うん

不純ではないよ。ちゃんとした事情があるから。」

「一つだけ教えてちょうだい?貴女は私達動物に対して

本の内容みたいな変態願望を抱いていないのよね?」

「願望もないし私にはそんな性癖はないから。」

背後の方から声が聞こえたから後ろを見てみると

開いている部屋のドアの隙間からシアンが見えた。

「二人共一体何があったの?何か

言い合ってなかった?」

「また盗み聞きするなんてシアンも懲りないわね。

ルエナから説教を受けたんじゃないの?」

「何にもないから心配しなくてもいいよ。

今から晩御飯作るから待ってて。」

エルムは廊下へ出ると部屋の中から動こうとしない私に

手招きをしてきた。見つけた物以外にも本があるのか

探そうとしていたけど、これ以上は私に

調べさせないつもりみたいだ。ここは素直にエルムに

従う事にする。

「食事の準備の前に手伝いをお願いしていいですか?」

トイレへ入っていく二人より先にリビングへ行く。森に

比べたら人間の家は狭い。屋外と屋内だから

比較するのは何か間違ってる気がする。居心地が

いいからルエナへの考えが早くまとまらなかったら

自分まで野良犬でなくなる恐れがある。悪魔で私が

ここに居るのは一時的って言うのを忘れてはいけない。

台所からリアンが歩いて来た。口元が若干

濡れているように見えるから水でも

飲んでたんでしょう。狭いから誰かに会うのは楽で

探し出すために匂いを辿る必要はないから助かる。

ただ何処へ行っても誰かしらが居るから家の中では

一人になるのが、ちょっと難しい。じゃあ外に

行けば?って事になる。

「あの恥ずかしがりやだったリアンもすっかり

変わってしまったのね。」

「突然どうしたのかな?ラフィー。」

コンセントが刺さってないこたつと言う物に

入ろうとした所でリアンが私に気付く。

「リアンはエルムにもう何度も自分の大事な所を

見られたり上下に擦られたりしてるんでしょう?」

私が何の事を言っているのか気付くのに

時間がかかったのか数秒してから、

ようやくリアンは口を開いた。

「ご、誤解を招く言い方をしないでくれる!?」

「誤解も何も、まだシアンはエルムと仲良く

トイレの中にいるみたいだから安心していいわよ。」

ペットが人間に下の世話や手伝いをしてもらう必要が

あるなんて大変だろう。エルムが異性のリアンまで

世話するのは動物に興味がある変態だから?

「何で今ここでシアンの名前が出てくるのはよく

分からないけどラフィーが言ってる事って、トイレや

さっき入った風呂の事なんでしょう?」

ええ…と返すと最初っから、そう言えばいいんだよと

私を少し呆れた様子でリアンが見てくる。

シアンに聞かれないように自分は気を

使ったつもりだけどリアン本人は

それが理解出来なかったみたいだ。

「野良犬の頃なら大の大人である自分が一人だけで

出来ていた事をほぼ強制的に世話されてしまうって

どんな赤ちゃんプレイなのよ。」

「赤ちゃんプレイって…。別にエルムさんは僕達の

父親でも母親でもないし悪魔で家族だから。」

多分リアンは赤ちゃんプレイの本当の意味を

分からないで使っているだろうから笑えてくる。

「じゃあ赤ちゃんっぽく一度粉ミルクでも飲んでみる?」

どうやら自分とリアンの会話を私の背後でエルムは

聞いていたらしく台所へと歩いていった。粉ミルクは

多分粉乳の事を言っているのでしょう。

「粉ミルクと言えばやっぱり哺乳瓶だと思うのだけど

さすがにそれはこの家にはないでしょう。だから私は

遠慮するからリアンにだけ飲ませたら、どう?」

「何で僕だけ赤ちゃん扱いされる流れになるのかな?

赤ちゃんプレイって言い出したのはラフィーなんだし。」

私は性別的に言えば飲む側より飲ませる側だと思う。

まだ母乳が出てくる訳ではないけど、近い将来には

そうなっていても変ではない。

「哺乳瓶はない事はないんだけど私が使っていた

お古しかなくてね。それでもいいんだったら

物置部屋から出してきちゃおうか?」

「そんな冗談のためにエルムさんが手間を

かけなくてもいいよ。それより晩御飯の

準備に取りかかって?」

「これであと布おむつとかあったら完璧だね。」

シアンの言う通り確かにベビーグッズでしょうけど

この中にそれを必要とする人や動物はいないから

あったとしても使う事はないに決まっている。ただ

つけるならリアンにつけて欲しいわね。

「リアンは哺乳瓶とおむつに興味ない?たまには

誰かに甘えたくなる事もあるでしょうから私達が

母親役になってもいいわよ。」

「そんなに母親役になりたいならラフィーは今すぐに

考えないといけない事があるんじゃないかな?」

まさかリアンに痛い所をつかれるだなんて。

ルエナとくっつけば、そのうち自然と子供が

出来るでしょうけど実現するかは分からない。過去を

知っているだけにルエナはつがい兼親子の関係を私に

心の中では求めているんじゃないかと思ってしまった。

母性を欲しているだけなら全然構わない。

「将来のために誰かに赤ちゃん役になってもらって

お世話の練習をするって言うのもいいかもね。

ハロウィンの時みたいに罰ゲームとして。」

私達の食事が入っている銀色の容器が人数分乗っている

お盆をエルムはリビングの床へと置いた。

「それはとってもナイスな考えですねエルムさん。

自分にはリスクが全くない、その提案。」

「どうして、そう思うのかしら?エルムでも直に

おむつを着て汚す事も哺乳瓶を口にして飲む事も

リアンと同じで簡単に出来るでしょう。」

「いつまで赤ちゃんプレイの話が続くのやら…。」

私達に呆れた様子でリアンは一人で先に容器に顔を

突っ込んで御飯を食べ始めた。


ソファーに腰掛けている私は両手でリアンを

お姫様抱っこをして自分が妊娠して赤ちゃんが

生まれた時はこんな感じなんだなと思った。実際には

リアンより軽くて小さいんだろうけど。

「三人共僕をそんなに見ないでってば。」

「見られているって意識するのを止めてみたら?

目を瞑っていたら視線も感じないと思うよ。」

「照れなくてもいいのに。別にリアンの

変な所は見えていないから大丈夫よ。」

そんな発言を近くで聞いたリアンは私の両手から

抜け出して自分の隣へと移動した。せっかく

シアンがアドバイスをしていたのに逃げられた。

「完全に僕の事をおもちゃにして遊んでいるよね!?

エルムさんとラフィーは。シアンは違うけど。」

「後者はともかく前者である私はそんな事ないよ?

ただお姫様抱っこしてただけなんだけどな。」

「今貴方…リアンは異性にモテモテの

ハーレム状態なのよ?そんなに悪くないじゃない。」

異性として扱われていないのがリアン的には

不服なんだろう。それと仰向けの体勢も。しかし何故

私達と一緒になって、この状況を楽しんでいるはずの

シアンの名前が上がってないんだろうか?

「一人は自分の家族で一人はある相手と両思い。

それなのにハーレムって言えるのかな?」

「…まだ両思いかどうかは自分でも分からないわ。

確定事項と言う訳でもないし。それに家族だとしても

リアンの実の家族ではないでしょう?」

自分の左隣のラフィーはまだまだ私の家に

居座る事になりそうである。相手に対する自分の

気持ちが分かっていないようだから。まあそれは一応

リアンにも同じ事が言える。果たして

シアンに恋愛感情を抱いているのか?最近は

少なくとも私に自分からキスしてこなくなったから

シアンからしたら、いい方向に進んでいる。

「ラフィーさん?私とリアン達が実の

家族じゃないのは当たり前で普通の事だよ。だから

義理の家族である事を自分は全然気にしないよ。」

「それは禁断の愛に目覚めているって事なの?恋に

種族は関係ないって話なのかしら?」

すぐさまラフィーに対して首を横に振った。

リアンとは両思いでも片想いでもない。キスだって

家族としての好意を抱いているからしてるだけ。本当は

変な興味があるからではないと自分で思いたかった。

「ラフィーさん一体何を言っているの?悪魔で

エルムさんは大切な家族で私達の飼い主なんだから。」

「私も飼い主としてルエナの家族になろうかしら。」

私は孤独が嫌だから家族が欲しいって事で

リアン達と出会ったけど、もしかして私と同じで

ルエナって言う犬も親と離れ離れでかつ孤独だから

このラフィーさんに惹かれて家族になりたいと

思ったんだろうか。もちろん下心もあるでしょうけど。

「いやそこはルエナさんとお互いが対等な関係である

家族になろうよ?別に飼い主だからエルムさんが

偉そうにしていると言ってはいないけど。」

「私の事を偉そうだなって思っていないんだったら

最初から言わなくたっていいよ。」

ピーピーと聞き覚えがある音が鳴った。ストーブの

運転延長を知らせる物ではなく給油を知らせる物だ。

立ち上がってスイッチを押して音を止める。このまま

放っておいて寒くなったとしてもこたつに

逃げれば何ともないけど、そうすると明日の朝が

辛くなるので缶を出して灯油が入っているポリタンクが

ある物置部屋へと移動する。手招きして私に

ついてきたリアンと共に。二人で部屋に入りすぐに

出入り口のドアを閉める。

「しばらくの間でいいんだけど、この部屋で

何かする時は自分以外に誰もいない事を最初に

確認してからにしてくれないかな?」

「それは何か理由があるんだよね。」

その理由を説明するために棚から本を出す。

リアンが何回も何回も見てる本を。

「風呂上がりに分かったんだけどさ。この本ね?

ラフィーが中身を見たらしいんだよ。」

「えっ!何でラフィーが?」

私がラフィーから説明された事をそのまま本人に伝える。

この部屋にずっと二人だったって言う事は当然

リアンが今自分が手にしている本を使って自慰を

ここでしていた所をラフィーが見てしまっているだろう。

「ここは誰かが頻繁に出入りする事はないからね。

だから一人っきりで考え事をするのにラフィーには

ちょうど良かったんだろうね。」

自慰を見られているかもしれない事に気付いたのか

リアンは黙ったままで部屋中を動き回る。

「誰か一人でもここに隠れる事が

出来ないようにするために近いうちに荷物の移動を

しとくから。まああのラフィーがいつ頃まで、この家に

いるのか分からないけどね。」

「もしかしてこのスペース…隙間にいた?。」

リアンが箱と箱の間にある空いた空間をじっと

見つめている。その周辺にある荷物はとても軽く箱を

動かそうと思えば私でも簡単に動かず事が出来る。

多分ラフィーは姿を箱で隠れていたからリアンは

何の警戒もする事もなく、いつも通りにこの物置部屋で

過ごしてしまったと思われる。自分でも言った通り

ここは基本的に私かリアンしか

入っていかないから部屋の中に誰もいなかったとしたら

自分一人しかいないと思ったとしても仕方がない。

しかし私がラフィーをこの家に招いた事で今回みたいな

イレギュラーかつアクシデントが起きてしまった。

リアンの行動を観察してるうちに給油がとっくに

終わっていたので缶の蓋をきっちりと閉めとく。

「リアンって本を見ている時の集中力って本当に

感心するぐらい凄いよね。だからラフィーがその

空きスペースからリアンに気付かれる事なく

この部屋から出ていったと考えていいかもね。」

「そうだとしてもラフィーは僕の…か本の中身を

見ていても不思議じゃないよね。」

「自分にとって悪い方向に考えるのはもう止めようか。

私達家族のシアンにバレた訳じゃないんだから

まだ大丈夫だよ。ただ念のため私の方からラフィーに

本の事は秘密にするように釘刺しとくからさ。」

不安そうな表情で私を見つめてくるリアンの前で

しゃがんで安心させようと背中を撫でてやる。ずっと

部屋にいたせいか身体が冷えてきてしまったので

缶を片手に持ってリアンが先に廊下に行ってから

私も物置部屋から出た。そんなに室温が

下がった訳ではないだろうけどシアンとラフィーは

二人仲良く、こたつに入って暖を取っていた。

「やけに遅かったわね。給油に手間取ったのかしら?」

「まあそんな感じ。所で、そのこたつってコンセント

差し込んでないけど電源入れるね。」

ストーブに灯油缶を入れて、しばらくしてから

電源スイッチを押す。リビングに来て、すぐ

コンセントを差したこたつの中はもう既に

暖かくなっており、さっそく入る。

「こたつって入ってると結構眠たくなってくるわよね。

住み処にも出来れば一台欲しいわ。」

「住み処って…やっぱりルエナさんの所?」

たまにはルエナの事を忘れていたいんだけれどと

シアンにラフィーが本音を溢す。こちらとしては常に

考えてもらっていた方が本当に助かる。

「あまりにも長く、ここにいるとラフィーさんが

野良犬の生活に戻るのが大変になるんじゃない?

あの時私はいつまでも居てもいいとは言ったけど。」

「この際私やルエナもリアン達みたいに貴女だけの

可愛いペットになりたい所だけど、犬が二匹だけでも

世話はやはり大変なんでしょう?」

「ようやく慣れてはきたけどね。散歩とかは

リアン達が自分から一人で行ってくれたりするし

基本的には聞き分けいいから人間の言葉を喋れない

普通の犬と比べたら世話とか楽な方だと思うよ。」

明らかに家事の方が大変だと私は感じてる。何か

ラフィーが勝手に自分もこの家に住みたいだとか

言っているけど、もしあの二人を飼うとしても

室内犬にするとは限らない。

「部外者が口に出す事ではないかもしれないけど犬用の

トイレシートは何で使わないのかしら?トイレの世話を

する必要がなくなるから便利だと思うわ。」

「出費がかさむって言うのとシートだから人間用の

携帯トイレみたいに何処にでも敷けるんだよね。でも

個室のトイレと違って排泄を

見られるかもしれないでしょう。それが大きい理由。」

実を言うと金銭的には全然困らない。ただ買ってきても

リアン達は多分使わないはず。特にリアンは。

もしシアンがリアンのトイレシーンを

見てしまったら果たして冷静でいられるだろうか。

隣から私達の会話に混ざる事なく何度も何度も

リアンは溜め息をついている。ネガティブな考えを

どうしても捨てる事が出来ていないみたいだ。反対側に

いるシアンとラフィーからはこちらは見えないはず。

皆みたいに床に横になってからリアンを軽く抱く。

「ちょっとリアンで暖を取らせて貰うね。」

相当落ち込んでいるのかリアンはただ頷いた。

もしや今ならリアンに何でもやりたい放題なのか?

こんなにも自分が抱かれた事に反応がないって事は。

「リアン達は野良犬にしては貴重な

恥ずかしがりやだったって言う事を忘れていたわ。

あとシートだと匂いとかも

嗅がれてしまうでしょうからね。」

「ちょっとラフィーさん!?誰が誰の匂いを嗅ぐだとか

言っているのかな?さすがにそれはないと思うよ?」

ラフィーの発言には同意出来る。理性を捨てて寝ている

リアンの勃起した性器を口で食べて白濁液を

頂いたシアンならシートに残ったリアンの尿の

匂いを楽しんだり吸ってしまったりしそうだ。

「それはないって犬なら普通の事じゃない。さすが

未だに誰かに会うたびに相手の股やお尻の匂いを

嗅ぐ事が恥ずかしくて出来ないシアンね。」

「出来ないと言うか…しないと言うか…。」

犬の行動って人間が同じ事を人間にすると

変態行為になってしまうから私からしたら下半身の

匂いを嗅がれるのはちょっと抵抗がある。そんな事を

しなくったって体調が悪い時は口頭でリアン達に

伝える事が出来るし。しかしラフィーが言ったように

トイレシートを検討してもいいかもだ。リアン達は

自分に排泄シーンを見られる事にはもう慣れているから

誰も近付かないように私が見張ってるうちに用を

足してもらって、すぐにシートをゴミ箱に

処分さえしてしまえば何の問題もないでしょう。

「ラフィーさん眠いようなら先に私の部屋に行って

休んでいたら、どうかな?こたつに入りっぱなしだと

そのうち寝て風邪とか引いちゃうだろうからさ。」

「仮にも私は屋外育ちの野良犬なのよ。そんなに

身体は弱くないはずだから大丈夫よ。気遣い

ありがとう。でもそうね…お言葉に甘えるわ。」

「そうそう。病は気からって言うから今の

ラフィーさんは精神的に疲れているだろうから

しっかりと休んでおいた方がいいとおもうよ?」

あっ、じゃあ私も…と言ってラフィーと共にシアンは

廊下へと歩いていった。結局物置部屋から戻ってきて

ここまでリアンも一度も口を開く事はなかった。

「どうするリアン?まだ早いけど私達も寝る?」

「うん、そうし…何してるの?エルムさん。」

「いや、これは勘違いしないで。珍しく

リアンの方から私に抱き付いてきたんだからね。

ラフィー達に見えないからって大胆…。」

まだ話が終わってないのにも関わらずリアンが

ほんの一瞬だけ私の口にキスをしてきた。あまりにも

唐突すぎて何も反応が出来ない。何でいきなり…?

「こ、これだけと思うよ?自分からしたのは。絶対

エルムの方からくっついてきたんでしょう?」

その問いに自分は素直に頷いた。私から見たら

リアンは気持ちが沈んでいたのかなと

思っていたのに本当に何で、こんなタイミングで

キスをしてきたんだろうか?何時リアンを

興奮させる事があったのかは私には分からない。

「…ごめん。やけくそでその…口つけちゃったって。」

「やけくそって…そんなんで私はリアンに唇を

奪われたの?いや謝らなくてもいいんだけどね。

するなら、ちゃんと気持ちを込めてして欲しい。」

それと事前告知がなかったからキスをしたと言う感じが

あまりしなかった。せっかくリアンからの初めての

多分健全で家族としてのキスを身体に受けたのに全然

実感がないのは酷すぎる。まあかと言って

いつもみたいにまた自分からするのもなぁ…。

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20XX年11月1日 n3862bk @n3862bk

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