第11話

「本当に大丈夫?まだ外は雪がほとんど溶けてないのに。」

「大丈夫じゃないけど長靴履いていくから何とかなるよ。

じゃあ行ってくるね。」

一昨日は久しぶりに朝から夜まで一日中ずっと雪が

ふり続いていた。その影響によりルエナの住み処の出入口が

完全に埋まってしまい外へ出るのに、いつもより時間が

明らかにかかり大変だった。しかも雪をまだ前足で開通の

ために二人で掘っている途中なのにルエナがまるで

生まれたばっかりの赤ちゃんみたいに我慢する事が

出来なくなってしまったので私がいるのにも関わらず

恥ずかしそうに見るな見るなと連呼しながら用を

足したから、もう住み処の中は地獄絵図とも言える状況に

陥った。今朝もまた天気が雪で一昨日の二の舞に

なるのだけは避けたかったので私はエルムの家の屋根下に

一時的に避難をしていた所リアンに声を

かけられて、自分では全然そんなつもりはなかったのに

リビングへ招かれた。

「せっかく感謝の気持ちを述べたいのに、この家の主である

エルムは何?外は地面が雪で全く見える事がないのに町に

でも用事があったの?」

「今日出掛けるとか僕もシアンも

聞かされていなかったから多分だけどエルムさんは

外出する事をついさっき急に決めたんだと思うよ。」

長靴がどうたらこうたらとか言っていたけれど、それでも

身動きが取りにくいのは変わらないだろうに。それに

一昨日よりは少ないとは言え今もまだ雪が耐えずに

ふり続けているのが分かりきっているのにそれでも外へ

出ていってしまうなんて。人間で言う所の常に野外暮らしの

自分がそんなエルムの事を言えるのかと誰かさんは

思うかもしれないけど、さすがに犬の私達でもこんな天気に

なったら平気じゃないし普通に困る。

「私がここに来たから急に家を空けたのかしらね?」

「ラフィーさん多分だけど、それはないと思う。リアンが

ラフィーさんを家に上げていいか許可を取ろうと

話しかける前に私達に留守番をエルムさんが頼んだから。」

「僕より先にエルムさんが家の外にいるラフィーの事に

気付いてたかどうかによるね。」

少なくとも私は悪魔で一時的に雪から逃れるためにここに

来たからシアンに案内してもらって初めて来た前回と

違って屋内を覗き見る事はしなかった。家を背に

座っていたため私がエルムに見られていたとしても、きっと

気付く事はない。シアンの言う事を信じていないとか

全然そう言う事ではないけれどエルムと初めて

会った時の事を考えると私とルエナはシアン達や

デネラと違ってエルムに緊張やら

警戒されてしまっている事は間違いないだろう。

「気付いてたら私かリアンにエルムさんなら

ラフィーさんが来ているって伝えてくれるはずだしね。」

「来客が自分やルエナじゃなくて、あのデネラなら

分からなくもないけれど私の場合はどうかしらね。」

「ラフィー?何でそんなにエルムさんが自分の事を

あまり良く思っていないみたいな言い方をするのかな?」

私とエルムが初めて出会った時に一体どんな事があったのか

この二人に詳しく説明したい所だけど今はまだ秘密に

しておいとこう。リアンの言動から考えてエルムの方も

まだ教えていないのだろう。まあ教えたくても色々と

難しいか。それじゃあエルムはあの猫について調べる事が

出来ていないに決まっている。それだと何時まで私は

あの猫のせいでエルムに疑い続けられるのだろうか。

「エルムからは何にも聞いていないのかしら?実を言うと

ちょっと軽くからかってみたら驚かせてしまったみたいで

シアンみたいにさん付けで呼ばれちゃったのよね。」

「どんなからかい方をしたのかは知らないけど、いきなり

初対面でするのは駄目なんじゃない?さすがにそれは

ラフィーが悪い気がするし自業自得だと思うよ。」

「ラフィーさんってば本当に誰かをからかう事が好きだね。」

とりあえず今は自分が悪者にでもなっておこう。

いや猫の件以外は確実に私が悪者である。リアンと

シアンには痛い所をつかれた。

「次に私と会うまでにエルムには誰かにからかわれる事を

慣れて欲しいから二人のどっちでも構わないから

鍛えてもらえないかしら?確かに私の方が悪いけれど

簡単にからかわれてしまう方もいけないと思うのよ。

エルムと違ってシアンはしっかりとしてるし。」

「鍛えるって…僕達はラフィーみたいに誰かをからかう事は

ほとんどしないから難しいね。」

「ちょっとふざけて悪戯とか、ちょっかいをかけると

時々いい反応を見せてくれるから、もしかしたら

からかいがいがあるのかもしれないよ。」

リアンが頷いていると言う事はシアンの話は

信じていいんだろう。私が初めて話しかけた時のエルムの

反応と表情も悪くなかったと思い出す。

「シアン貴女もしかして仮にも家族を私のからかいの

標的に推薦しているの?自分が逃れるために。」

すぐにそんなつもりはないってと急いで不定する

シアンに後ろから抱きつく。尻尾もお腹に回して

簡単には逃げられないように密着する。そんな事を

されているのに関わらず楽しそうに笑っているシアンの

顔を見ていたらルエナにはこう言う風に気楽にからかう事は

今までと比べて難しいんだろうなと何故か突然

考えてしまい少し寂しくなった。

「今の私にはリアンとシアン…貴女達が

羨ましいわ。ない事はないだろうけど

悩みがないように見えるわよ。」

「ラフィーさん。今の私って…最近何かルエナとあったの?」

「だから何でルエナと…飽きずに毎回言ってくるわね。何?

風の噂で知ったとか誰かさんに聞いたのかしら。」

「そんな風に言わなくても。まさか…本当に?」

本当この二人特にシアンはいっつもいっつもルエナとは

どうだとかロボットみたいに同じ事を聞いてくる。全然

普通の質問だから不快になるとか、そう言う風ではないけど

今に限って言えば聞かれても、いつも通りに答えられるのか

分からない。でも今となっては私に対するルエナの気持ちを

何となくだろうけど見抜いてたシアンは凄いと思う。

私なんてルエナと共同生活を始めていなかったら一生

分からなかったはず。恋愛経験豊富ではないのを認めるけど

だからと言って、いつも私を頼ってリアンとの事に

ついて相談を聞いて欲しいと頼んできたシアンに

見抜けて私が見抜く事が出来なかった事に対して悔しさを

感じないとはならない。逆に無性に物凄く悔しいと思う。

「本当だったとしても貴女達はまず自分の恋愛の事だけを

考えていればいいんじゃない?特にシアン。もし

現状で満足しているつもりなら冗談抜きの本気で私が

貴女に愛の告白をしたいんだけれど、どうなのよ?」

リアンがしっかりと私達を見ているこの状況で

シアンに軽いキスでもして見せつけてやろうと一瞬

考えた。そんな事をしたらシアンはどう言う反応を私に

見せてくれるのだろうかと楽しみに感じれなかったので

シアンから離れる。

「どうなのよって何とも言えないかな。そんな事より

ラフィーさんちょっと落ち着こう?いつもより口調が強いし

イライラとかしてる?」

「…そうね。自分でも知らないうちに

熱くなっていたのかもしれないわ。ごめんなさいね。」

ルエナの事を指摘されてからの私をシアンに

心配されたって言う事は今まさに私はルエナの事で

悩んでいるんだろうと嫌でも自覚をしてしまった。

「気にしていないつもりだったんだけれど、どうやら

それは違うらしくて本当は意識しない…考えないように

していただけなのかもしれない。」

「何の事で?…っては敢えてラフィーさんに

聞いたりしないから。いつも私ばっかり頼っていたから

今日ぐらいはラフィーさんと比べたら頼りないと思うけど

私とリアンにラフィーさんの悩みとか聞かせて欲しい。」

「有り難いシアンのお言葉ね。助かるわ。でもただただ

聞いてくれているだけでいいわ。」

お言葉はないけれどもリアンは首を縦に振って頷く。

私がルエナの事で悩んでいる自分について話始めると

二人は私のお願いの通りに喋らないでいてくれた。ただ

シアンは事前にこちらから特に頼んでもいないと

言うのに前足で頭部や背中を上から下にかけて撫でてきた。

まるで雪を触るかのように力を込めていないとよく分かる

撫で方だ。自分がシアンの身体を尻尾などで

撫でてやる時とは力の入りが全く違う。シアンの

優しさが自分の心まで伝わってきているとまでは

いかないけれど私に対する思いやりなどを感じる。

話したい事と話せる事を二人に聞いてもらい、それが

終わった頃には家主のエルムがもう既に帰ってきていた。

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