後編 約束
マグオ「はぁ、お腹すいたなぁ…」
スルメイカの群れは気がつけば見えなくなっていた。
マグオ「もう…何も考えたくないや…。」
マグ子「何たそがれてんの?」
マグオ「!!!」
マグ子「何よ。カツオが植物性プランクトンくらったような顔して。」
マグオ「…お前はいつも急に現れるな。」
マグ子「そんなことないわよ。ビンチョウマグロは小さいから気づきにくいだけ。」
マグオ「…。」
マグ子「…で?クロマグロのマグオくんはどうしてたそがれてたの?」
マグオ「…知ってたのか?俺がクロマグロだってこと。」
マグ子「わかるわよ。そんな小さな胸ビレの割に尾ビレは発達してるし、なにより体長は私の倍くらいあるじゃない。」
マグオ「…ごめん、黙ってて」
マグ子「大回遊魚になれって言われた?」
マグオ「どうして…」
マグ子「クロマグロだってこと知ってたんだから当然じゃない!!」
マグオ「…マグロウは気づいてるかなぁ」
マグ子「どうかしら。アイツもにぶい所あるし」
マグオ「……」
マグ子「あと、マグ美ちゃんにも伝えなきゃね!」
マグオ「………マグ子…俺…」
マグ子「言わないで!…私の気持ち…考えたことある?」
マグオ「…。」
マグ子「…クロマグロの事は好きになっちゃいけないビンチョウマグロの気持ち…。」
マグオ「…。」
マグ子「…私…もう、行くね?」
マグオ「…うん。」
マグ子「…また…会えるよね?」
マグオ「…会えるさ!きっと!」
マグ子「よかった!じゃあね!」
去っていくマグ子
マグオ「………会えるさ…絶対…!」
~次の日~
マグロウ「おはよ!どうだった!?ブラックタイガー!!」
マグオ「…あぁ、おはよう。…なあ、今日話あるんだけど…。」
マグロウ「? どうした?」
マグオ「いや、あとでいいわ。」
マグロウ「……なんか今日学校だるくね?」
マグオ「?」
マグロウ「さぼっちまおうぜ!」
マグオ「…そうだな!そうするか!じゃあ昨日言った穴場行こうぜ!」
~マグオの穴場~
マグロウ「すげぇ!ここ!もっと早く教えろよな!」
マグオ「いや、俺も最近みつけたんだって!」
マグロウ「…そろそろ話せよ。さっきの話。」
マグオ「…。」
マグロウ「マグ子の事が好きって話か?」
マグオ「…!その話じゃねえよ!」
マグロウ「『その話じゃない』って…ハハ、図星じゃん」
マグオ「…気づいてたのか?」
マグロウ「気づくに決まってるだろ。こっちは自分の惚れたマグロに惚れてるマグロが他にいないか心配してんだよ。」
マグオ「…てことはお前も!?」
マグロウ「…まさかこんなに近くにいたとはな。」
マグオ「…でも安心しろよ。…俺は」
マグロウ「俺な!…今まで黙ってたけど…実はミナミマグロなんだ!」
マグオ「!?」
マグロウ「…だから、成長したら大回遊魚にならなくちゃいけないんだ!」
マグオ「…え?」
マグロウ「…だから、最初からマグ子のことはお前に譲ろうと思ってたんだぜ?」
マグオ「ちょ、ちょっと待てよ!お前も?」
マグロウ「『お前も』って…え?お前も?」
マグオ「…俺、実はクロマグロなんだ…。」
マグロウ「………ぷっ!ハハハ!なんだよ!お前も大回遊魚になるのかよ!」
マグオ「それを言いたかったんだ。」
マグロウ「なんだよ~そういうことか…。じゃあもしかして昨日の誕生日で?」
マグオ「…あぁ、すぐにでも出発しろって…。」
マグロウ「タイミングまで同じかよ…。」
マグオ「同じ…?お前も?」
マグロウ「…あぁ、俺もちょうど昨日親に言われたんだ…。」
マグオ「…。」
マグロウ「…マグ子の事どうすんだよ。俺たちが同時にいなくなってアイツに変なマグロが付きまとったりしたら…。」
マグ子「バ~カ!!!」
二匹「!!!」
マグ子「あんたたちに心配されたくないわよ!!」
マグオ「…マグ子。どうしてここに?」
マグ子「教室に二匹していないんだもん!やっぱりさぼったのね!」
マグロウ「マグ子…俺達…」
マグ子「知ってたわよ!マグオがクロマグロだってことも、マグロウがミナミマグロだってことも!それでも…二匹が…二匹の事が…大好きだから…一緒にいたんじゃない………悪い?」
マグオ「マグ子…俺達大回遊魚になるけど、絶対ここに戻ってくるから…!」
マグロウ「…そうさ!ビンチョウマグロは主にこの海域に生息してるんだろ!?じゃあまた、きっと会えるから!」
マグオ「俺、一秒でも早く泳げるようになる!」
マグロウ「だから…だからまた…三匹で会おう!絶対に!」
マグ子「…バカ。…約束だよ?」
二匹のマグロは精いっぱい泳いだ。あの日の約束を守るために。
こうしていつしかマグロは水流無しでは呼吸が出来なくなった。
了
マグロ 〜進化の代償〜 カタオニクス @furukikkk
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