マグロ 〜進化の代償〜

カタオニクス

前編 当たり前の日々

マグオ「(…おい!)」


マグロウ「………ん?」


マグオ「(ん?じゃねえよ!!お前当てられてるぞ!)」


マグロウ「むにゃむにゃ…う~ん…」


マグオ「(しっかりしろよ!36ページ!!)」


マグロウ「ん~…もう食べられないよ…。」


マグオ「いやいや!!当てられてるんだって!!」


先生「もういい。廊下に立ってろ。」


マグロウ「あぁ…はい…すんません…。」


マグオ「…バカなやつ。」


先生「いや、お前も。」


マグオ「!!!」


〜放課後〜


マグオ「…ったく、お前のせいで俺まで怒られちまったじゃねぇかよ。」


マグロウ「だから謝ってんじゃん。」


マグオ「まぁ…わかればいいけど…あ!来た!」


マグロウ「どこどこ!?」


マグオとマグロウはまだ稚魚だった頃に出会い、なんだかんだでよくつるんでいた。


たまたまクラスもずっと同じで、お互い特に仲がいいという意識はしていなかったが、二匹でいる事が当然になっていた。


マグオ「…はぁ~やっぱ可愛いなぁマグ美。」


マグロウ「だな。目の輝きが他のマグロとは違うもんな。」


マグオ「ハリもツヤも格段にいいよな。脂ものってそうだし。」


マグロウ「一回でいいから一緒に回遊してぇ~。」


マグオ「お前なんかが相手にされるわけないだろ!」


マグ子「あんたもね。」


二匹「!!!」


マグオ「いつからいたんだよ!」


マグ子「今来たとこ。また二匹してマグ美ちゃんみてたんでしょ?」


マグロウ「別にそんなんじゃねぇし…。」


マグ子「あ~やだやだ。やっぱり男子はああいう活きのいいマグロが好きなのね。」


マグオ「うるせぇな…。関係ないだろ。」


マグ子「関係ない…か。それもそうね。ねぇ!私お腹すいた!カタクチイワシ食べにいかない?」


マグロウ「お!いいね!行く行く!マグオも行くだろ?」


マグオ「あ~行きたいけど…今日の夕飯ブラックタイガーらしいんだよね。」


マグロウ「は!?マジで!?いいなぁ~ブラックタイガー…あ!そうかお前今日誕生日か!」


マグオ「完全に忘れてただろ。」


マグロウ「完全に忘れてた。そっか、おめでとう。いいなぁブラックタイガー…どうせウチ今日もスルメイカだぜ?最近ウチの近所にスルメイカの群れが来てるから。」


マグ子「確かに夕飯がブラックタイガーならカタクチイワシなんて食べてる場合じゃないわね。また今度一緒に行きましょ!」


マグオ「悪いな。…あ!じゃあ今度とっておきの穴場に連れてってやるよ!」


マグロウ「マジで!?約束な!」


マグオ「あぁ、約束だ。じゃあウチあっちだから。また明日な!」


去るマグオ。


マグ子「…まあ私はアイツの誕生日覚えてたけどね。て言うかアイツ最近成長したわよね。」


マグロウ「なんでちょっと強がった?でも確かにアイツ最近大きくなってきたな…。そんなことより早く行こうぜ!カタクチイワシは今が旬だから!」


マグ子「そうね!急ぎましょ!」


~マグオ家~


マグオ「…え!?なんで!?高校卒業するまではって言ってたじゃん!」


母マグロ「大きな声出さないでマグオ。」


父マグロ「仕方ないだろう。お前はクロマグロなんだ。成長したら大回遊魚になるんだよ。」


マグオ「だからって…だからって急すぎるよ!俺も大回遊魚になるのはわかってたけど、高校は行っていいって言ってくれたじゃん!!」


母マグロ「わがまま言わないの!あなたが成長するまでって約束よ!もう立派なクロマグロなんだから大回遊魚になるのは当然でしょ。」


父マグロ「わかってたはずだぞ、マグオ。わかった上で高校に進んだんじゃないか。あの時のわがままを聞いてやったのにまたわがままを言うのか?」


マグオ「…!こんなことなら…クロマグロになんて…生まれなければよかった!!!」


家を飛び出すマグオ


マグオ「…結局ブラックタイガーも食べ損ねちゃったな…」


お腹を空かしながら一匹泳ぐマグオ。


水面にはスルメイカの大群が見えた。


マグオ「最悪の誕生日だぜ…」


月の見えない夜だった。

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