コロナの時代に読むべき作品
樹 亜希 (いつき あき)
この時代に……
小松左京の『復活の日』を私は選びます。
中学生の時代といえば、年齢が分かってしまいそうですが、
近所の書店で小学生の頃から入り浸っていた私は、漫画は小学生の時に卒業して
文庫本の「あ」、阿部公房から手を付けていたが、この作品は映画化という帯が付いていて鮮烈な感じがして一気に読んでしまった。
言いようのない、重い気持ち。油もの、そう、唐揚げを食べすぎたような気分の悪さだったように記憶している。
どうして、こんなことに。世界の終わりをそこに見た。
文字の中でよかった、とどめて置けば。
よせばいいのに、祖父が弐番館と呼ばれる映画館に夜警の仕事でいたものだから、さっそく電話をして一人で見た。何度泣いたかわからない。もちろん本を読んだときもそうだった。
主演の草刈正雄さんが好きだったことや、オリビア・ハッセーの瞳の蒼さを今でもありありと思い出せる。
殺人ウイルスにより、世界は滅んだ。
恐ろしいものを書かれたな、小松左京先生と思った。日本沈没も読んだうえで映画館に行った。どうしてこんな破滅的なSFをお書きになるのかとおののいた。
中学のナイーブなハートは震えた。夜が来るのが怖くて、眠れずに猫を抱きしめて何度も目が覚めた。
ありえないよな、こんなことただのSFだと思い込むことしかできなかった。それでも不安な気持ちを誰にも打ち明けることができずにいたが、当時好きだった中学の先生に放課後に本を持参して話を聞いてもらうことにした。
それなら、先生と話をしていても問題ないよなどというよこしまなことではない、親は知性を持ち合わせている人ではなかったので、先生なら間違いない、これが本当にならないし、よくできたSFだと言ってくれると思ったからだ。
彼ならば打ち消してくれるし、食事もおいしくなって、夜も眠れるようになるだろうと救いを求めた。
残念だが、あの時彼がどんな答えを返してくれたのかは覚えていない。
10歳違いなので今は彼もこのコロナの時代を共に生きているはずだ。きっと十代の生徒のたわごとを先生は優しく、いなしてくれたはずだ。でもね、先生、本当に起こるんだって知っていたらすごいことです。私のことと復活の日を思い出してくだされば……。
不思議なことに小松左京先生はタイトに、今の時代を言い当てられていました。コロナの第一報、私の記憶では1月18日でしたが、ああ、あれだ。復活の日、リアル版じゃないのか? と瞬間に思いました。初版の表紙はとてもショッキングです。帯では夕日を背にした草刈さんの影が黒く浮かびあがるシルエット、杖をついてボロボロの洋服をぶら下げて、南極基地に到着するシーンです。
人が人を信じられず、お互いを疑い同じ人間なのに殺しあう。そして最後に残ったのはほんの数名という人類最後の生き残りが迎えるその先には希望があるのか……。
今はこれを読めば、無責任な行動をとる人や、責任のない発言をする人が減るのではないかと思うのは私だけでしょうか。しかし、リアル過ぎて煽りとなり、自警さんたちを増やすだけになるかもしれない。私の娘が当時の蔵書を同じく中学時代に読んでいたので、あの本の通りだと驚いていましたし、小松左京という作家の偉大さに先生が今、存命ならばどんなコメントをされただろうかと親子二代で拝読した作品です。
今、これを読まなくして何を読むのかと私は思います。無駄に恐れる前にではなく、個人レベルでできることは些細でもそれを守らないと確実にこの本が本当になるかも知れないということを……。
コロナの時代に読むべき作品 樹 亜希 (いつき あき) @takoyan
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