二度あることは三度ある、ってか
「駿〜、食堂行こ!」
俺が今日の四限に返却された数ⅡBのテストが散々だったことにショックを受けて机に突っ伏していると、彩芽が俺を昼に誘ってきた。
彩芽のテスト返却を経ても全くいつもとテンションが変化していないところを見るに、やはり優等生なんだなーと再認識する。俺みたいな凡人とは頭の出来でも違うんですかね……まあきっと日々の努力の結果なんだろうなとは思うけども。
そんなことを考えながらも、好きな人からのお誘いに一気に俺のテンションは上昇。常時の一・五倍くらいになった。ひゃっほぉいっ!
「もちろんっ!」
そういえば最近ずっと昼は誰かと食べてるんだなぁ……それも、相手は今まで話すことすら烏滸がましいのでは? と卑屈になりながら思っていた、あの見るからにランクの高い面々である。我ながら何があったのか不思議だ。きっと他のクラスメイトも同様だと思うけど。
食堂に着いた俺たちは、俺がトマトソースパスタ(500円)、彩芽がクリームチーズとローストビーフの贅沢サンド(750円)を注文し、席に座る。
一昨日、昨日とは違い、俺達は注目を一瞬浴びるものの「なんだ高木か」という風に無害判定を下され人々は立ち止まらずに通り過ぎていく。なんでだろうね、笹根クン。
「……それで? 彩芽も何か相談事?」
「え、いや、違うけど……なんで?」
「あー、うん、違うんならいいんだ」
どうやら相談が最近の流行であるという仮説は外れたっぽい。だからどうしたって話だが。
……ってか、相談じゃないんなら何で彩芽は俺と昼を一緒にしようと思ったんだろ?
俺はそれを突き止めるべく、俺の質問の意図を計りかねて首を傾げている彩芽に問う。
「それじゃあ、何で今日は俺を誘ったんだ?」
「うーん、なんとなく?」
「え、なにそれ」
なんとなくで俺は誘われたのか……なんつーか、複雑。もっとほら、こう……「友達だし一緒に食べたかったの!」的なことを言ってくれてもいいんだよ? ……そういうラブコメの始まり的なこと言われないと皆に思われてるからこその無害判定なんだろうけど。ぐすん。
「まあ、強いて言えば……湊も有咲も駿と一緒にお昼食べてたっぽかったから、これは私も誘う流れなんだろうなって思った、とか?」
「…………そうか」
最早何も言うまい。
全く、ちょっとくらい神様も俺の味方してくれよ……こんなのはあんまりだ!
俺は無言でパスタをフォークに巻き付け、このトマトの赤があのクソジジイの血の色と想像し、咀嚼……や、これは流石に厨二チックだからやめよ、うん。恥ずかしいし。
「あー、ってか、駿は有咲から聞いた~? 夏祭りのこと」
「っっ! ……あ、ああ。聞いたぞ」
唐突に出てきたかつ話題が話題だったため、俺はむせかける。
聞いたも何も、それについて昨日相談されたんですよーっ!
「にしても、有咲の方から駿の名前が出てくるだなんて……もしかして前から友達だったりしたの?」
「……交友関係狭くてすみませんでしたね」
「ああ、違うのっ、その……うん、単純に意外だっただけだよ!」
「…………」
「ほ、ほら! 今は私達が居るしさっ!」
「……っ、そうだな」
くっ、彩芽に気を遣わせちまった……男として恥ずかしい!
過去に友達がいなかったことくらいなんだ! 今いるのなら、それで十分じゃないか!
そんな風に俺は自らを叱咤し、気を取り直す。
「つーか、夏祭り行くの、結構久しぶりなんだよなー俺」
「そうなの? 学校からも近いし、私とか毎年行ってるよ」
「俺だって昔は家族でとか、妹と二人とかで行ってたんだけどな……妹の反抗期というかなんというかで、ここ何年かは全く行ってないんだよな。一人で行ったところで楽しくないし」
確か、中学入ってからくらいかな。唯音との関係が曇り始めたのは。理由は相変わらずわかってないけど……まあ、思春期がどーたらこーたらって感じだろうな。いつまでも兄と仲いいってのが恥ずかしい、みたいな風に距離置いたとか。
「あーでも、夏祭りの最後の方にやる花火は、家から見てたりするわ。そこまでしっかりは見えないけど」
俺達の行く夏祭りが開催される神社の近くには少し大きめの川があり、夏祭りの終盤にその川の辺りから花火が打ち上げられるのだ。
テレビなどで報道されるほど大層なものではないが、それでも結構本格的な打ち上げ花火が打ち上げられるため、正直夏祭りというより花火大会に近くなってしまっている気もするが……まあ、楽しめれば何でもいいがな。
「そっか……じゃあ、今年は目いっぱい楽しもー! 花火だって、みんなで見た方が絶対楽しいし!」
夏祭りが久しぶりだという俺を励ますのを兼ねてか、テンションを上げてこぶしを突き上げる彩芽。何この娘天使なの? 優しいし可愛いし尊い。惚れる。こんな娘と夏祭りに行けるだなんて……神様は俺をまだ見捨ててはなかったのか。あのジジイにも少しの善性が備わってたってことで。
それに……俺には夏祭り当日にやらなければいけないことがある。
……そう。俺は、新戸さんの恋のお手伝いをするのだ。彩芽を笹根や新戸さんからさりげなく離す、という。
つ・ま・り?
「ああ、俺も今から楽しむ気満々だよ」
――早く夏休み始まれっっ!!!!
もちろん本音を思いのままに叫ぶ訳には行かないので心の中に押し止めたが、ぶっちゃけ楽しみすぎて今すぐ校庭を叫びながら走り回りたい。
想像するだけでニヤけそうになる口元を抑えていると、彩芽が顔を近づけてきた……て、え? え??? な、なんだ……?
過去最高に至近距離。
これから何が起こるのか、期待半分、不安半分な気持ちで目を閉じる。
そして――
「――それに、夏祭りっていったらラブコメイベントの定番だしね。なんかそういうのって、ワクワクするじゃん?」
………………………………あ、そういえばあなたも
何とも言えない気持ちになりながら、俺は「確かにな」とだけ捻り出した。
☆あとがき
これにて第二章は終わりです。
第三章は夏祭り編を予定していますが、リアルのほうが忙しく中々ストックも増やせない状況にあるせいで、更新はしばらく先になりそうです。ごめんなさい。
早く続きが読みたい、という方は、☆だのコメントだので作者を急かしていただけると、更新再開が早まる……かもしれません。
義妹が、俺の運命の人らしいんだが。〜いやいや、俺が義妹なんかと結婚するわけないだろ?(笑)~ 香珠樹 @Kazuki453
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