かしまし

宇佐美真里

かしまし

えぇ~、見掛けに依らず大人しそうなオンナでも…三人集まれば

"姦しい"などと申します。


オンナと云う生き物…ホントにお喋りが大好きで…。

『女子会』『お茶会』なぞと銘打ってのワイワイガヤガヤ…。

『井戸端会議』なンてのも、そのひとつなンでしょうな…。

そのお喋りの内容と云ったら大抵が"噂話"。

いや、オトコだって呑みながらくだらないコトをダラダラと話していたりするじゃない?と反論もございましょうが、オトコは『男子会』なぞ致しません。その名も、ただの『呑み会』。その飾り気のないネーミングと云ったら…トホホホホ…。まぁ、"呑み"が過ぎて『男子会』ならぬ『断酒会』の必要性に迫られる…なンてコトは、これは逆にオトコに多い話だったり???


さて、ここは居酒屋…。

学生街にある店だけあって客の大半は学生。単価が安い店なンで当然賑わうワケですが、懐は寂しいがチョイと鼻は効くサラリーマンやOLなぞもチラホラと居なくもない…。店内には"J-POP"なンて謂れる前の"歌謡曲"が流れていたりする…今じゃあ、かなり少なくなった"昭和"を感じさせる店だったり。そんな中、今日も『女子会』に花が咲いているワケです…。


A:「ねぇねぇ、社会学部の神田って知ってる?」

B:「知ってる、知ってる!結構有名だヨ、イケメンでしょ?」


この神田と云うオトコ…。パッと見たトコロ、背も高く二枚目で…云うなればイケメンってヤツですな?!


A:「そう、イケメン。でもヒドいンだって…」

B:「らしいよネ…」

A:「英文科の松田ってコは堪えられなくて二ヶ月で別れたって話…」

B:「二ヶ月?よく耐えられたよね?仏文の聖子なンて三週間だったって!」

A:「嘘?!」

B:「アタシの知り合い…あ、サークルのね?その知り合いなンて、散々奢らされて向こうからは一切連絡来なかったから、やっぱり愛想尽かしてた」

A:「それ、知り合いじゃなくてアンタのコトなンじゃないの?」

B:「やめてヨ!本当に知り合いの話だって!携帯の履歴も発信履歴ばっかりで、着信なンてただの一件もなかったらしいヨ…」

A:「ナンかさ?約束すっぽかしてたり…って話も聞くヨ?」

B:「聞く、聞く!」

A:「でもさぁ、こんなコト言ってるケド実はワタシもだったりして…へへ」

B:「えぇ?アンタも?!」

A:「うそうそっ!ンなワケないじゃん!」

B:「ナンだが怪しいなぁ………」

A:「ホントだってっ!いや、うそうそ!冗談だヨ…」

B:「どっちヨ?!慌ててるトコロがやっぱり怪しいし…」


そこで大笑い。果たして、ホントに神田クンと付き合いがあったのかは、さて置いて…。神田クンの噂話は終わる気配が全く見られない…。


B:「"持ち合わせ"がないとか言って、借りたお金もなかなか返さないらしいヨ?」

A:「え~っ!?ケチかと思えば、お金にルーズなの?」

B:「どっちにしても金に汚いとか?」

A:「顔はキレイなだけに、余計残念………」

B:「だね!最低…。でも、そんな"金々"王子って云ったって、実家通いじゃないの?」

A:「実家…らしいケド、絶対部屋行かせてくれなかった」

B:「くれなかった?…って、アンタやっぱり?!」

A:「いや、くれなかったって…えぇ~と、松田ってコが言ってたってコト!もうっ!」

B:「ナニ逆ギレしてンの?やっぱりアンタ自分のコトでしょ?」

A:「違うって、言ったじゃん!すみませ~んっ!カシスグレープお代わりお願いしま~すっ!」

B:「話逸らしてるし………」


そういえば…オンナが三人集まっての、かしましい『女子会』のハズが、盛り上がっているのは二人ばかり。残りの一人は黙ったまま俯き加減に聞くばかり。


A:「ところで、さっきから黙ってるケド、アンタはナンか知ってる?」

C:「………」

B:「どした?アンタも、もしかして"被害者"だとか?」

C:「被害者…ってワケじゃないケド………」

AB:「「ケド???」」


身を乗り出す二人…。


C:「地元が一緒だったし…」

AB:「「えぇっ?!そうだったの?!」」


どうやら話は大展開の予感?!

二人が何度もハモる中、店内BGMの歌謡曲には、松田聖子の『スイートメモリーズ』が………。


♪なつかしい 痛みだわ

 ずっと前に 忘れていた

 でもあなたを 見たとき

 時間だけ 後戻りしたの♪


B:「まさかホントに付き合ってた…とか?」

C:「うん………つきあってた…って言っても、アレをホントにつきあってたって言うのかは怪しいモンだケドね…」

A:「マジかっ?!」

B:「アンタもつきあってたンかいっ!?」


♪あの頃は 若過ぎて

 悪戯に 傷つけあった二人

 色褪せた 哀しみも今は

 遠い記憶 Sweet Memories♪


B:「これは詳しく聞かずにはいられないでしょ?すみませ~んっ!レモンサワーひとつっ!」

A:「ワタシもまたお代わりしちゃおうかなぁ~」


二人は本腰入れて聴くご様子…。


C:「あんまり自分のコト、話そうとしないから…誤解され易いンだよネ…彼」


♪失った夢だけが

 美しく見えるのは何故かしら

 過ぎ去った優しさも今は

 甘い記憶 Sweet Memories♪


…っつうワケで、神田クンの過去が明らかに。


実はこの神田クン…高校生の頃に、妹が病気になり足が不自由になったとか。で、今ではその妹…車椅子の生活なンだとか。


A:「あ…病気の妹さんが居るンだ………」

B:「そんなコト…ひと言も言ってなかった…彼」

A:「言ってなかったって?!やっぱアンタ彼とつきあってたンじゃん?!」

B:「あ…バレた?へへ」


C:「あんまり自分のコト、話したがらないからネ…彼」

妹思いの神田クン…そんな妹に付き添って病院に通ったりリハビリに協力したり。


A:「だから、『突然病院に行くコトになったから…』ってデートすっぽかされたのか…ワタシは?」

B:「アンタも彼とつきあってたンじゃん?!結局…」

A:「ハハ…二週間程度ネ…」


車椅子生活を余儀なくされる妹の世話をするうちに、彼は『車椅子支援募金』やらナンやら…と、色ンな募金活動・ボランティア活動を知るコトになっていく…。アルバイトで稼いだ金はそれらの活動につぎ込まれ…常に自分は金欠状態。すっからかん…。

それでも彼は生粋のイケメン。黙っていたって、オンナたちがほっとかない。彼に電話を掛けるも、病院やらアルバイトやらで繋がらない…。ようやく繋がった電話でデートを取り付けたと思っても彼の金欠に、オンナたちは惚れた弱みか?驕っちまう。驕ってやれば期待も増す…。期待は増すが、相も変わらずドタキャンされるやら、待てど暮らせど彼からは連絡は来ないやら…常にオンナの一方通行。次第に期待疲れしていくオンナたち。


C:「嘘はないンだけど彼、説明が足らないどころか"ゼロ"だったからネ」


AB:「「確かに初耳だわ…」」

C:「誤解され易いンだよネ…彼」

AB:「「そんなン、誤解するでしょう…当然!」」

C:「地元じゃあ"ボランティア青年"ってコトで、結構有名だったりするンだケド…ワタシはそれも知ってたから、見ていてシンドくなってナンとなく自然消滅…」

AB:「わかるぅ~」


♪「幸せ?」と 聞かないで

 嘘つくのは 上手じゃない♪


相も変わらず、店内には『スイートメモリーズ』が流れていた。


見ると聞くとは大違い…ヒトは見掛けには依らねぇ…っつうコトで。


まぁ、ヒト様に迷惑掛けるホドのボランティアってのも如何なモノか…。

ナニゴトもホドホドに…という、新作『かしまし』の一席でございました…。


それでは。



-了-

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