あなたの未来お売りください。

須田 千秋

あなたの未来お売りください。

ネットカフェで暮らす様になって1年。


3年前に先輩の失敗をなすりつけられ、会社をクビになった。


暫く貯金を切り崩しながら、職探しをしていたけれど、不況の煽りを受けなかなか見つからず、昨年とうとう、ネットカフェ難民となってしまった。


日雇い労働で、毎日その日暮らし。

日給6000円で、きつい肉体労働。


食事と言ったら、スーパーの半額弁当。

それを、ネットカフェに持ち込み食べて寝る。そんな日々を送っていた。



いつものように、仕事が終わり

ネットカフェへと向かっている途中、

空き缶が転がってきた。


転がってきた先を見ると、人一人が通れる位の路地があった。

何かに誘われるように、その路地に入っていくと、そこには、小さなお店があった。


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あなたの未来お売りください。

1日2万円


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「なんだよそれ。」

俺は、アホらしくなり、その路地を後にした。




「あなたの未来…」

俺はそれこら、あのお店のことが気になり、

仕事が手につかなくなっていた。




「一度、話だけでも聞きに行こうかと思ってる。」

俺はこの話を日雇い仲間の鈴木に話した。


「怪しいだろ」

「やっぱり?」

「そらそうだろ、いくらなんでも未来を買い取るなんて、非現実だろ。」

「やっぱりそうかな。」

「まぁ、俺は反対だな。お兄さーん!生二つ!」



「はいよ!」威勢の良い声が店内に響いた。




3日後

鈴木の反対を無視して、この場所にやってきた。

中に入ると、高級ホテルのような内装で、

受付には、背筋のピンと伸びた女性が2人私を出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ」


「あのー初めてなんですけど」


「はい。それでは説明させて頂きますね。こちらへおかけください。」


私は、カーテンで仕切られた、小さなテーブルが用意された部屋に案内された。


「ここで少しお待ち下さい。」


「はい。」


少しすると、先ほどの女性が戻ってきた。


「本日は、御来店ありがとうございます。」

「初めてのご利用とのことで、システムをご説明させていただきます。」

「あ、こちら、オリジナルハーブティになりますので、お飲みください。」



そこで私は、一通りの説明を受けた。


・未来を1日単位で買い取ってくれる

・手術は1時間程度で終わる。

・手術料は一回1万円

(買い取り額から天引きされる)

・痛さはない。

・手術には麻酔を使用する。

・未来の買い取りには限りがあり、買い取りが上限に達した場合の責任は取れない。



怪しさ満載だったか、損をする事はないと思い、試しに1日分の買い取りをお願いしてみることにした。



「明後日の10時にまたお越し下さい。」

「ありがとうございました。」



そして当日

「いらっしゃいませ、お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」

「まずはここで、こちらにお着替えしてください。お着替え終わりましたら、こちらでお待ち下さい。」


「わかりました。」

服を着替え、待合室で待っていると。


「田中さーん」

「3番の手術室までどうぞ。」


手術室のなかは、ベッドと、何かの装置が置かれているだけの簡素な作りだった。


「では、これより、手術を行います。楽にしてください。」








「田中さーん、わかりますか。」


「お疲れ様でした。ご気分戻りましたら、お隣の更衣室で着替えを済ませて、受付にお声かけください。」


目を覚ました俺は、別の部屋のベットにいた。

自分の服に着替え、受付に戻った。


「田中さーん、お待たせしました。」

「はい」


「1日分の買い取りで、2万円

手術料1万円で、1万円のお渡しとなります。」


「ご利用ありがとうございます。」

「また、いつでもご予約ください。」



こうして、初めての未来買い取りを終えた。


あっけなく終わってしまったので、なんだか、肩透かしな感じがした。

一時間眠っていただけなのに、簡単に1万円が手に入ってしまった。





それから2週間

「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ。」

「本日は、何日分の買い取りいたしましょううか。」


「1週間分お願いします。」


「わかりました。では、こちらにお着替えください。」








「田中さーん、わかりますか。」


「お疲れ様でした。ご気分戻りましたら、お着替えを済ませて、受付にお声かけください。」

「ありがとうございます。」




「田中さん、お待たせしました。」


「1週間分の買い取りで14万円

手術料1万円で、13万円のお渡しとなります。」


「ご利用ありがとうございます。」

「また、いつでもご予約ください。」




たった一時間で、大金を手に入れれるこのシステムに、私はどハマりしてしまった。



仕事は辞めた。

ネットカフェでの暮らしもやめ、

都内のマンションに引っ越した。


キャバクラや、高級料亭にも通えるようになった。


「いつもありがとうございます。2週間分の買い取りで28万円

手術料1万円で、27万円のお渡しとなります。」



「9万円のお渡しとなります。」



「41万円のお渡しとなります。」



金は無くなれば作ればいい。

俺は、未来の買い取りを辞めれなくなっていた。




今度は、車が欲しい。


1500万いや、いっその事こと、2000万のこの車にしよう。


「1日2万円だから…1000日分かぁ。まぁ、これで死ぬわけじゃないし、売っちゃうか。」


「大丈夫なのかよそれ、怪しすぎないか?」

また、鈴木といつもの飲み屋に来ていた。


「大丈夫、大丈夫。ほら、こうやってピンピンしてるし、なんてったってすぐに金が入る。こうやって旨い酒が飲めるのも俺のおかげだろう。感謝しろよ。」


「俺はお前が心配なんだよ。」


「大丈夫だって。この話はやめだ。」

「おねーさーん。生二つ!」





1ヶ月後

あれから、田中とは連絡が取れない。

寿命を全て使い果たしてしまったのかもしれない。

田中が言っていたお店にも言ってみたが、

そこにはお店が無かった。



それから2週間、

まだ、連絡が無い。


テレビには、大物芸能人の不倫問題が特集されている。


(番組の途中ですが、ニュース速報です。)


画面はニュース速報に切り替わった。




「おい鈴木、昼休み終わってるぞ!」

「あ、すいません。今行きます!」






(ニュース速報です。)


(臓器売買を行なっていたグループが逮捕されました。)


(心臓売買を行なっていたグループは、初めは未来買取と称して、患者にお金を渡し信頼させてから、高額の買い取りを希望してきた患者が現れたら、臓器をブローカーに売り渡していたものと見られます。)


(警察は、他にも余罪があると見て捜査を進めています。)

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あなたの未来お売りください。 須田 千秋 @sudachix

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