拝啓 君に告ぐ

ヌヌヌ木太郎

拝啓 君に告ぐ

 初春、寒さ残る頃に会った君。通い始めた喫茶店に、気付けば貴方は居た。最初からどこかフレンドリーな空気と、真面目さを醸し出してて...そう、憧れ、なのかな?ずっとこのまま話してたいって、そう思ったんだ。




「宜しくな。」

「初めまして!このお店は初めて、かな?」

「常連さんか。いい雰囲気のお店だな...これから宜しく。」

 ある日の夕暮れに、君は此処に来たんだよね。第一印象は、"とてもクールな人"だった。言葉遣いは粗野だけど、何処かしっかりしてたんだ。


 あの場所はさ、客同士の距離が近いから、直ぐに打ち解ける事が出来た。数人でさ、まぁ毎日のように会って、馬鹿な話を沢山したよ。...とても楽しかった。そんな時、彼は何時も皆の中心にいた。



 2人きりでも話をした。

 まぁ馬鹿な話ばっかさ。気さくな彼とは何時までも話してられそうで...溺れてたんだな。


「やっべ..ユークリッドの法則がわからん。」

「いや、それ公式覚えれば楽だぞ。問題見せてみ?」

 勉強の話。

 そんな時は何時も...とても優しくって、頼り甲斐があった。


「お前オムライス作ったん?うわー...美味そうじゃん。今度俺も作って見ようかな...」

「いやぁ、美味しかったよ。今度作ったら写真見せてね!」

 料理の話。

 写真見る彼の料理は何時も美味しそうで...いつか、食べて見たかった。


「ねーねー、こないだ好きな人いるって言ってたけど...どんな人?」

「うーんそうだな...兎に角可愛いな。」

「好きになったきになった相手可愛いと思わないヤツいるか...?」

「それもそうだな。」

 恋バナ。好きな人、のことを話す時はいつも幸せそうで...とても羨ましかった。


 ねぇ...なのにさ、どうして置いて行くかな?


 唐突に投げ掛けられた酷い言葉。置き手紙には優しい言葉。どっちがあなたの真意なの?

 書かれてた謝意、辛い過去、別離の言葉。



「何かできることは無かったのかな?」他の客と共に、去る彼を探す。


 見つけた。


 追い付いた彼に縋りつけばそっと一言


「帰ってきてね。」

「...」


 今、返事はいらない。唯僕が..貴方の心の楔に成りたい。置き忘れた傘の様に、きっといつか...貴方が僕で、心を痛めればいい。そうしてここに、戻っておいでよ。その傷、癒してあげるから。

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