第14話
チェスマ・ンガダスはその後、いくつかの領内の問題を片付けたらしい。その話は別の機会にするとして、龍の臥所ではまたあらたに一人、試しを受けて一族に加わろうとする者がいた。
歯の根もあわないほどがたがた震えて戻ってきた少女の年齢は十かそこら。手にはしっかり割り符をもっている。確かめるのはおつきにまかせて彼女は少女に暖かい飲み物を渡した。
「龍は見えたかの? 」
少女はうなずいた。すっかりおびえている様子だった。無理もない。彼女は里のものではなく、伝説くらいは知っていても龍の存在とは無縁に育ってきた身の上だった。それをいきなり目の当たりにしたのである。
二姫は彼女を持ち出された文献の回収の途上で連れ帰ったのだ。その生まれ育ったところで、共同体からはじき出され、いずれはろくでもない身の上となって早々に死んで行くであろうその身柄を引き取った。
実のところ、龍一族はそんなはじかれものを試しを通じて受け入れてきたのだ。
「そなたの目には力がある。龍の目は見たかえ? 」
少女はうなずいた。
「薄目をあけて、あたしを見てた。引き込まれそうだった」
そこでもう一度ぶるっと震えた。
「そうかえ、ではそなたは本日より三姫じゃ」
「どういうことでしょう」
「龍は滅多に目をひらかぬ。が、どういうわけか特定の者には必ず薄目をあけるのじゃ。わらわも、一姫姐もそうであった。その者は龍家の姫または公子として長たる資格を得る。理由なんぞ迷信蒙昧の類であろうが、一姫姐もその前の姐さまがたも、決して資格に劣るものではなかったから、そなたも自信を持て。ただし負うべき責めは重いぞえ」
少女はびっくりしていた。
「この、わたしが? 」
「わらわも八つで四姫になったときは同じであったゆえ。その前はそなたとそうも変わらぬ身の上であった。いずれ話してしんぜようぞ。いずれそなたが二姫となり、わらわが一姫となって後見するまで時間はたっぷりあろう」
「そのとき、一姫様はどうなるの?」
「自分の名を取り戻し、好きな人生を送るのさ。二姫に後見の必要なしと一族の判断があれば空位にしてさっさと嫁でもなんでもいけるがの」
「二姫さまもいずれ?」
「そうさな」
二姫は扇をぱちんぱちんと開いて閉じた。
「龍の目を見た男の様子でも見に行くのじゃろな。あれは見かけより面白い男じゃ」
「面白い、ですか」
「龍一族は変わり者だらけゆえ、酔狂風狂に驚いているとやっていけぬぞ」
二姫はころころと笑った。
龍の眠るところ @HighTaka
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