曾根崎心中。または、あやとりのとり方。

相田みょん

曾根崎心中。または、あやとりのとり方。



 登場人物


男1 籠持ち・主人     砂糖・父・部長・露出狂

男2 はつ         化粧

男3 客・女郎1・下女   電球・母・トラ・女・介護士

男4 役人1・女郎2    傘回し・男の子・おばあちゃん

男5 九平次        ワカメ・オオカミ

男6 長蔵・役人2・女郎3 歯磨き・犬

男7 徳兵衛        モンスター


 本作において全ての役は男性が行うものとする






0・オープニング


   白とも黄色ともつかない光に照らされている舞台。

   四方をコンクリートの壁に囲まれ、真ん中にはコンクリートのとても太い柱が

   一本立っている。その柱の前に、台があり、水槽が一つ置かれている。水槽に

   は生き物などはおらず水や水草だけが入っている。常時エアーポンプが水槽内

   部に空気を送り続けている。

   暗転。



1・メレンゲ


   明転。けたたましい音楽。

   男が7人、うめく。口でどこかへつながっているゴムを引っ張りながら前進。

   その手には、ボールを抱えている。泡立て器。ボールの中には卵の白身がたっ

   ぷり入っている。皆、神妙な面持ち。


男達 うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!


   男たち、音楽にあわせて泡立て器をぐるぐるぐるぐる回す。


男達 うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!


   男たち、白身をかき混ぜる。泡立っていく白身。全身全霊の力を込め、泡立て

   器を回す男たち。白身はだんだんと泡立ち、真っ白なメレンゲに姿を変えてい

   く。汗がほとばしる。息が切れる。メレンゲまであと少し。

   そこへ、大量の砂糖をもった男1がどやどや入ってくる。


男1 おい!おまえら、もっともっと混ぜろ。

男達 はい!!

男1 まだまだ足りねえぞ!

男達 はい!


   と、回転数をあげていく。汗が飛び散る。


男1 ばかやろう!しょっぺえぞ!

男達 はい!

男1 甘さがたりねえんだ!ばかやろう!

男達 はい!


   と、男1は全員に砂糖をぶちまける。激しく投げる。男達は嬉々として浴び

   る。砂糖は客席まで飛び散る。メレンゲが出来上がる。


男2 できました!

男1 よし!(食べる)甘い!!


   と、男2、3を残してほか退場。男2はボールを横に置き座る。



2・化粧


   電球のみの灯り。

   男3が電球を引っぱり、息の上がっている男2を色々な角度で照らしていく。

   下から上に、上から下に。それはとても官能的である。恍惚とした表情で男2

   は鏡を見て、化粧をしていく。携帯電話の音がする。


女 もしもし? さとみ? うん。え、どうしたの? うん。あれ? あっ…


   女、アイラインを引くのを失敗する。


女 ん?あ、なんでもないなんでもない。なんかちょっとアイラインミスった(笑) 

  でも、まじかー。あれって明日だっけ? えー、絶対無理なんだけど。え、さと

  みはもう終わったの? うわー、真面目ちゃんかよ(笑) え? うん。まぁ、大

  丈夫。なんとかする(笑) いや、ほんとありがとね。うん。うん。はーい。じゃ

  あまたね。はーい。


   女、電話を切る。



3・傘回し


   と、足音がするので男3は音の方向を照らす。そこには可愛らしい傘を回しな

   がら男4が来る。傘の先には細い糸で人形がつながれている。人形は観音像に

   見えなくもない。傘を回しながら男は舞台を後にする。



4・化粧その2


   化粧を依然している。男2は、最後に唇に紅を引く。そして、女になる。



第一幕の1


   舞台下手。はつと客の男がいる。

   と、上手から男二人の足音が聞こえてくる。客は電球でその方向を照らす。

   二人の声が聞こえる。一人は徳兵衛。もう一人はその部下、長蔵。客はあわて

   て電球をもとの位置に戻す。と二人とすれ違うように退場。


徳兵 なぁ、長蔵。

長蔵 なんですか、徳さん?

徳兵 お前、薄口醤油と濃口醤油どっちが塩分多いか知ってるか?

長蔵 なんですかそれ。バカにしてんですか? そんなの塩が少ないんだから薄口で

   しょ?

徳兵 お前はバカだなぁ、長蔵。

長蔵 ええ?

徳兵 薄口と濃口はな、薄口の方が塩分が多いんだよ。

長蔵 ええ、そんな。じゃあなんで薄口なんだよ?

徳兵 それは自分でちゃんと勉強しなきゃダメだろ。お前だって醤油屋なんだからそ

   のくらい知っておかないと。

長蔵 はーい。

徳兵 ちゃんとものを知らないとな、長蔵。悪い奴に騙されちまうんだぞ? わかっ

   てるか?

長蔵 わかってるよ。

徳兵 俺たちは商人だ。商人の仕事は金稼ぎ。金は取られちゃいけないんだよ。

長蔵 わかってるって。


   徳兵衛キャップのような帽子をかぶっている。はつ、徳兵衛たちに気づく。


はつ ん?あれは徳様じゃないか!これ、徳様!徳様!


   と、徳兵衛もはつに気づく


徳兵 お、あれはおはつじゃないか。

長蔵 え。

徳兵 長蔵、わかるよな。

長蔵 まじですか。

徳兵 頼むよ。

長蔵 しょうがないなぁ。わかりましたよ。お得意さん回ってくればいいんでしょ?

徳兵 さすが。わかってるね。

長蔵 今回だけですからね。

徳兵 あ、あと、安土町の染物屋で金受け取るのわすれるなよ。

長蔵 はいはい。

徳兵 悪いな。家の奴らにはすぐ戻るって言っといてくれ。

長蔵 はーい。

徳兵 あとで何か奢るからさ。じゃあまたな。

長蔵 はーい。


   長蔵、下手に去る。徳兵衛、はつのもとへ。


徳兵 よう、おはつ。なにしてるんだ?


   と、帽子を取ろうとする徳兵衛。はつ、それをとめて


はつ ああ、そのままかぶってて。

徳兵 え?なんで?

はつ まだお客さんと一緒だからさ。だから、これはこう。


   はつ、帽子を徳兵衛にかぶせる。


徳兵 わかったわかった。今日は店じゃないのか?

はつ なんか田舎のお客さんらしくてさ。せっかくの遠出だから一緒に観音様を巡っ

   てたんだけど、休憩がてらちょっと飲んだら盛り上がっちゃって。

徳兵 そのままこんなとこで飲んでるってわけだ。

はつ そうなのよ。ホント疲れちゃう。

徳兵 お疲れ様。

はつ そんなことよりさ、このごろ全然連絡くれないじゃない?

徳兵 え?

はつ いや、ね、アタシだってもう大人だからさ、徳様が忙しいのだってわかってる

   わよ?けど、でもやっぱり心配だし……

徳兵 悪かったよ。

はつ なんか聞いた話によれば、故郷に帰ったとか聞いたけどそれはさすがにホント

   じゃなさそうだし……徳様はなんにも思わないかもしれないけど、そういうの

   って結構辛いし……

徳兵 だから、悪かったって。でも、事情を言ったら、おはつまで苦しむかなと思っ

   て。だから言わなかったんだよ。

はつ そんなの気にしなくていいのに。

徳兵 でも、最近、本当に厄介事が続いててさ。正直金集めるのに必死で、京都の実

   家にも帰ったよ。

はつ そうなの?

徳兵 もうホントに忙しすぎて死ぬかと思った。

はつ ちょっとでも話してくれればよかったのに。なんで言ってくれなかったの?

徳兵 別に隠してたわけじゃないけど、言ってもどうしようもないから……

はつ でも、言わなきゃわかんないでしょ?

徳兵 うん。

はつ ちゃんと教えて。

徳兵 わかったよ。でも、もうだいたいのことはどうにかなったんだ。

はつ そうなの?

徳兵 うん。前にも言ったけど、うちの旦那様はさ、実の叔父さんだろ? だから、

   甥の俺に親切にしてくれるし仕事の面倒も見てくれる。

はつ うん。

徳兵 だから俺も、叔父さんのために精一杯仕事頑張ってたんだよ。でも、それを見

   て叔父さん、奥さんの姪っ子と俺を結婚させようとしてきて。

はつ え!OKしたの!?

徳兵 してないよ! 俺にはちゃんとおはつがいるし(照)

はつ 照れてる(笑)

徳兵 うるさいなぁ(照) で、だから相手にしてなかったんだけど。でも、叔父さ

   ん、知らないうちに俺の母親と内緒で結婚の相談してて。母親は金もらって帰

   っちゃうし。

はつ だから実家に?

徳兵 そうそう。さすがに俺も納得できなくて、叔父さんに文句言ったんだよ。いく

   ら世話になってるって言っても、強引すぎるって。

はつ うん。

徳兵 そしたら、叔父さんもさすがに怒っちゃって、『お前が結婚を嫌がるのは天満

   屋のはつって女に惚れてるからだろ!散々世話してやっといて!結婚が嫌なら

   お前の家にやった金を弁償しろ!そしてすぐ大阪から出て行け。二度と戻って

   くるな!』って言われて。俺も意地になって『わかった!』なんて言っちゃう

   し。

はつ なんで怒らせちゃうかなぁ。

徳兵 しょうがないだろ。で、とりあえず実家に帰って、母親に金を返して貰いに行

   ったんだけど、もう全然話聞いてくれなくて。『絶対お金は返しませんー!』

   って離さないの。しょうがないから、町の人みんなに頭下げて、みんなに説得

   してもらって、ようやく返してもらって。

はつ よかった。

徳兵 もうホントに恥ずかしかったよ。

はつ で、お金は返したの?

徳兵 いや、まだ、

はつ え、なんで?

徳兵 たしかに、金を返せば埒があくことはあくんだけど、でも、それでも大阪には

   いられないし。そうしたらもうお前にも会えなくなるし……


   徳兵衛、うなだれる。と、はつ、優しく寄り添う。


はつ ホントにアタシのせいで……

徳兵 いや、お前のせいじゃ、

はつ ううん……でも、嬉しいの。

徳兵 え?

はつ ちゃんと、思ってくれてるんだなぁって。

徳兵 はつ……

はつ まぁ、でも、たとえ大阪を追い出されてもさ、徳様はなにも悪いことをしたわ

   けじゃないし。恥じることなんて何もないじゃない。

徳兵 ……そうだな。

はつ うん。でも……

徳兵 でも……?

はつ もしももう一生徳様に逢えなくなるくらいなら、アタシ死んでもいいから。

徳兵 はつ……

はつ 二人で死んじゃってさ、そうすれば誰にも邪魔できないよ。ね?

徳兵 ……ああ。


   二人、優しく静かに涙を流す。



5・ワカメ


   男5がやってくる。

   男5が水槽に増えるワカメを少しづつ少しづつ入れていく。ワカメは水を吸 

   い、どんどん膨張していく。水槽の中が黒く侵食されていく。

   男2、7だんだん不安になっていく。

   男5、去る。



第一幕の2


はつ っていうかさ、まだそうなるって決まったわけじゃないし。返すなら早く行っ

   て叔父さんの機嫌を取ってきたら?

徳兵 ああ、そうだな。そうなんだけど……

はつ なにかあるの?

徳兵 油屋の九平次知ってるだろ?

はつ うん。

徳兵 アイツが、『月末にどうしても金がいる!』って泣いて頼んできたから、貸し

   ちゃって……

はつ はぁ、なにやってんのよ。

徳兵 いや、ごめんって。でも、アイツとは兄弟みたいな仲だしさ。俺が困ってるこ

   とだってアイツは知ってるから大丈夫だって。

はつ いつ返してもらうの? 叔父さんとの約束は明日なんでしょ?

徳兵 いや、三日には返してもらうはずだったんだけど、なんか連絡が来なくて。

はつ ええ?

徳兵 昨日も会いに行ってみたんだけど、留守で会えなくて。今朝尋ねようと思って

   いたんだけど、得意先を回って仕事の始末をつけてるあいだにこんな時間にな

   っちゃって。

はつ 何してんのよ。

徳兵 いや、まぁ、ちゃんと晩には行って埓をつけるよ。

はつ ホントに? 大丈夫?

徳兵 大丈夫だよ。九平次だって悪い奴じゃないし。

はつ アタシちょっと苦手なんだよね。チャラチャラしてて。

徳兵 思ってるよりいいやつだよ。アイツは。

はつ 徳様がそう言うなら信じるけど……

徳兵 (遠くを見て)ん? あ!おはつ見てみろ!



6・ピー(効果音)


   男4、5、6やって来る。楽しそうに話しながら歩いている。手にはわけの分

   からない気持ち悪いものと、一升瓶。舞台に残っていた男2、7もその輪に混

   じる。


男5 うめえなあ。こんなにいいピー(効果音)はなかなか取れないよ。

男4 まじでうめえ

男2 酒もうめえぞ

男7 ピー(効果音)の方が美味いよ

男6 久しぶりにいいピー(効果音)だぜ、テンション上がってお母さんよんじゃった

   よ

     

   母親(男3)がやってくる。


母  うわ! こりゃいいピー(効果音)だ!

男6 ピーの前に酒のめよ、おふくろ。


   と男6は母親(男3)に口に含んでいた酒をぶっかける。他の人もそれに習っ

   てかける。


母  もうお父さんも呼んじゃう。


   と父親(男1)やってくるなり、全員に酒をぶっかけられる。父親は嬉しそう

   に浴びる。


父  ピー(効果音)は日本海の宝じゃ。

皆  そうだ!そうだ!(酒をあびる)

父  頭も内蔵も、骨だって食うぞ。

皆  そうだ!そうだ!(酒を浴びる)

女  ピー(効果音)に捨てるとこ無し。

皆  そうだ!そうだ!(酒をあびる)

父  今日は生で食うってのはどうだい?!

皆  おおー

男4 あの、生でいけるんですか?

父  ばかやろう。生のピー(効果音)はうまいぞー。

皆  そうだ!そうだ!(酒をあびる)

父  味はそうだな……ピクルスに近い。

男4 え!? 肉じゃあないんですか!?

父  何言ってるんだピー(効果音)は山菜だよ。

男4 でも、なんか足みたいのついてんじゃん

父  擬態だよ擬態。

男4 でも、さっき骨まで食べられるって、

父  細かいことはいいから、ほら、


   父、得体の知れないものを少しちぎり男に差し出す。臭い。

   父、ちぎったそれを食べたかと思うとすぐ吐き出す。と全員食べる。そして、

   吐き出す。


父  ホントにうまいな、このピーピーピー(効果音)は!

母  もうピー(効果音)がピー(効果音)でピー(効果音)しちゃう!

皆  ピー――――――――――――――――(効果音)


   全員爆笑。


男6 (尻を抑えて)あ、きたきた!

父  尻が燃えるぜ!

母  痛い!うまい!痛い!


   全員爆笑。「痛い」「うまい」などいいながら次の場に必要の無いものはお腹

   を抱えながらはける。



7・マジック


   男7、2が舞台にいる。そこへ男5が笑いながらやってくる。


男5 ハーハッハハハ!ハーハッハハハ!

男7 見える。

男2 見える。

男7 見えるぞ。

男2 見えるぞ。

男7 はっきり見えるぞ。

男2 くっきり見えるぞ。


   男5は男7、2の前に仁王立ち、殴ると見せかけて手から紙吹雪をまき散ら

   す。


男5 ハーハッハハハ!ハーハッハハハ!


   男5、去る。男7、2はやりきれない表情。

   と、男4が笑いながらやってくる。


男4 ハーハッハハハ!ハーハッハハハ!

男7 見える。

男2 見える。

男7 見えるぞ。

男2 見えるぞ。

男7 はっきり見えるぞ。

男2 くっきり見えるぞ。


   男5は男7、2の前に仁王立ち、殴ると見せかけて手から紙吹雪をまき散ら

   す。


男4 ハーハッハハハ!ハーハッハハハ!


   男4、去る。男7、2はやりきれない表情。

   と、男6が笑いながらやってくる。


男6 ハーハッハハハ!ハーハッハハハ!

男7 見える。

男2 見える。

男7 見えるぞ。

男2 見えるぞ。

男7 はっきり見えるぞ。

男2 くっきり見えるぞ。


   男6は男7、2の前に仁王立ち、殴るかと思いきや手からステッキが飛び出

   す。男7、2驚く。男6、去る。


男7 すげぇ……

男2 すげぇ……

男7、2 すげぇや……


   と、男4、5、6が笑いながらやってくる。


男4、5、6 ハーハッハハハ!ハーハッハハハ!

男7 見える。

男2 見える。

男7 見えるぞ。

男2 見えるぞ。

男7 はっきり見えるぞ

男2 くっきり見えるぞ。


   男4、5、6は男7、2の前に仁王立ち、殴ると見せかけて手から大量の紙吹

   雪をまき散らす。紙吹雪は客席にまで届き、観客の頭や体にもかかる。

   男4、5、6、去る。とても悲しい顔の男7、2。

   と、男7、男5を呼び止める。



第一幕の3


徳兵 おい、九平次! 

九平 ん?お、徳兵衛。

徳兵 お、徳兵衛じゃないよ。お前、なにやってんだよ、俺には連絡もよこさない

   で。遊んでないで、さ、貸した金返してくれ。


   と、徳兵衛、手を出す。


九平 は?なんのことだ、徳兵衛?

徳兵 いや、なんのことだ、じゃなくて。


   と、徳兵衛、にじり寄る


九平 え、なになに?意味わかんない。

徳兵 いや、お前ふざけんなよ?

九平 なに?けんか?(周りの男を指して)この人たちは町の役人たちだよ。今、伊勢

   講に行って、その帰りなんだけど、酒も少し飲んでる。それでもいいの?

徳兵 喧嘩なんかしないよ。俺は先月の二十八日にお前に貸した金を返してもらいた

   いだけだ。

九平 ハハハ。

徳兵 何がおかしい。

九平 おかしいのはそっちだよ徳兵衛。

徳兵 はぁ?

九平 お前との付き合いは長いが、お前から金を借りたことなんて一回もないよ、俺

   は。意味の分からない事を言うな。

徳兵 は?何言ってるんだお前。お前俺から金借りて、三日には返すっていっただ

   ろ!

九平 だから、そんなこと言ってないって。

徳兵 お、お前、ふざけるな! あ、あの金がなきゃ俺は……!


と、徳兵衛、九平次に掴みかかろうとする。が、男達に止められる。


徳兵 クソ!お前、俺を騙したのか!あの金がなきゃ俺がどうなるかお前わかってる

   だろ!俺とお前は親友だって言ってただろ!

九平 だから、金なんて借りてないって言ってるだろ。わからないやつだなぁ。

徳兵 嘘だ!確かに貸した!そうだ……!証文もある。俺はいらぬと言ったがお前が

   書かせた証文が!


   徳兵衛、懐から折りたたまれた紙を取り出す。


徳兵 これだ!これにはお前の判も押してある。もう嘘は付けないぞ!

九平 見せて。


   九平次、徳兵衛から紙を取り、広げる。ほかの男たちも紙を覗き込む。


徳兵 役人の皆さんもその判には見覚えがあるだろう。どうだ九平次。

九平 ダメだなぁ。

徳兵 え?

九平 俺たちは親友なんだろ?親友に嘘はダメだよ、徳兵衛。

徳兵 俺は嘘なんか……

九平 確かにこの判は俺の判だ。

徳兵 そうだろ!

九平 だけどな、徳兵衛。俺は先月の二十五日に鼻紙袋を落として、一緒に印判もな

   くしてるんだよ。

徳兵 !?

九平 いや、いろんなとこに張り紙もして探したんだけど、見つからなくてさ。しょ

   うがないから今月から、このお役人さんたちにも届けを出して、印判を変えた

   んだよ。

徳兵 ……

九平 どうしたら二十五日に落とした判子を二十八日に押せるんだよ。なぁ、徳兵

   衛?

徳兵 おまえ……!

九平 お前が俺の判を拾って、そして偽の証文を作り、自分で判を押したとしか考え

   られないんだよ!

徳兵 クソ野郎!!


   徳兵衛、また九平次に掴みかかる。が、男達に止められる。それでも暴れる徳

   兵衛。


徳兵 クソ!騙したなこの野郎!お前とは兄弟だと……親友だと思ったいたの

   に……!!


   徳兵衛と男たちの取っ組み合いが始める。はつは、アタフタして、止めにも入

   れず


はつ 誰か!誰か!助けて!徳様が!徳様が!


   客や籠持ち達気づいてはつの方へ。


はつ ああ、助けて!徳様が!徳様が!


   と、客に頼むが、


客  ああ、これはどういうことなんだ。逃げるぞ。


   と、無理矢理にはつを籠に押し込む。


はつ いや、ちょっと待って。違う!


   はつ、客とともに籠に乗り、奥へ運ばれていってしまう。

   九平次たちは徳兵衛を殴ったり蹴ったりして押し倒し、頭をつかみ水槽まで引

   きずっていき、頭を水の中に突っ込む。



7・目隠しビンタ


   男4、5、6が、男7を羽交い締めにして、目隠しをする。

   男6、男7にビンタする。


男7 えええええええ!なんで!なんで!

男6 めっちゃ怖いだろ。

男7 怖いよ! 

男6 怖いだろ!

男7 怖いよ!

男4 俺だったらビビらねえし

男7 言ったな


   男4、自分の目を隠す。男6、7は押さえつける。

   男5、フェイントをかけたりする。


男4 ………………え、ちょっ!怖い怖い!

男5 えへへ

男4 え、早くしろ!


   男5、「おい!おい!」というかけ声とともに連続でビンタをする。


男4 痛い!

男5 えへへ

男7 今度俺。今度俺。

男6 え、じゃんけんしよ。

男7 わかった。いいよ。


   じゃんけんする四人。と男1があらわれる。


男1 てめえら、生半可な気持ちでビンタをしてるんじゃあねえ!

皆  部長!!

男1 ならべ!

皆  はい!


   と、全員集合。


男1 遊びじゃあねえ、ビンタはこうするんだ!


   と、全員に流れるようにビンタをする。


皆  押忍!

男1 はい、フォア100回!

皆  押忍!


   と、二人一組になってリズムにあわせてビンタをしていく。


男1 フォア!フォアフォア、バック!

皆  押忍!

男1 バックバック、

皆  押忍

男1 フォア

皆  おい!おい!おい!おい!

男1 バックフォア、交代!

皆  おい!おい!おい!おい!


   以下、気の済むまでビンタを続ける。


男1 はい!解散!



第一幕の4


   九平次たちはその場に徳兵衛を置き去りにして笑いながら下手に去っていく。

   しばらく間。

   徳兵衛、起き上がりその場に座り、


徳兵 クソ!九平次の野郎!あんなに仲良くしてやったのに……クソ!クソ!


   床を殴りながら叫ぶ徳兵衛。


徳兵 クソ! クソ……


   崩れ落ちる徳兵衛。しばらくして徳兵衛起き上がり、落ちた帽子を拾う。



8・中高生が携帯の待ち受けにしていそうなデコレーションされた恋愛に関する詩のようなもの


   突然、中高生が携帯の待ち受けにしていそうなデコレーションされた恋愛に関

   する詩のようなものが書かれた画像が映し出される。そこだけが白っぽい光に

   包まれて明るい。

   男6が一人、やってきてみかんを食べはじめる。画像はどんどん切り替わる。

   男6、冷めた目でそれを見ながら食べ続ける。

   最後に「恋の手本となりにけり」という一文が出て画像は終わる。



9・お母さん助けてサギ


   男の子(男4)が出てくる。母親を探してウロウロしている。


男の子 おかあさーん! お母さんどこー!


   トラ(男3)が出てくる。


トラ ガオー!

男の子 わあ、トラだ!トラだよー!怖いよー!おかあさーん助けてよー!


   男の子、トラから逃げる。その前にオオカミ(男5)が立ちはだかる。


オオカミ ウガー!

男の子 わあ!オオカミだー!おかあさーん!助けてよー!助けてくれるって言った

    ろー!おかあさーん!


   男の子、必死に逃げる。その前にモンスター(男7)が立ちはだかる。


モンスター お;ん;kfjんヴぃkんv。kdj!!!!!!

男の子 うわあ!おかあさーん!たすけてよー!何言ってるのかわからないよー! 

    翻訳してよー!


   男の子、逃げる。その前に露出狂(男1)が現れる。


露出狂  (コートを広げ)ほら!

男の子 おかあさーん!ヘンタイがいるよー!怖いよー!助けてよー!助けてくれる

    って言ったじゃーん!

露出狂 お母さんは助けてくれないよ。

男の子 え?

オオカミ お母さんは助けてくれない。 

男の子 そうなの?

トラ そうだよ。

男の子 でも、助けてくれるって言ったよ。

モンスター おhん;jfんvfkjv;にvf;


   間。


男の子 …………え?

露出狂 お母さんは助けてくれないよ。

オオカミ (トラと一緒に)お母さんは助けてくれない。

トラ (オオカミと一緒に)お母さんは助けてくれない。


   トラたち、男の子に迫っていく。


皆  お母さんは助けてくれない。助けてくれないよ。

男の子 そんなことないよ!

皆  お母さんは助けてくれない。助けてくれないよ。

男の子 うわー!


   トラたち、男の子を覆い隠す。男の子飛び出す。男の子、男になっている。男

   になった男の子はトラたちをなぎ倒していく。男の子、全員倒し、一人。


男  これが力……

トラ そう。それが力。

男  力……

オオカミ お前は強い。

男  俺は強い……

露出狂 お母さんの助けはいらない。

男  お母さんの助けはいらない……

モンスター ういhlvbぃふv;sr……

男  (モンスターの言葉を遮り)お母さんの助けはいらない!

皆  おお!


   男、トラ、オオカミ、露出狂、喜び盛り上がりながら去る。モンスター立ち上

   がり、頭を外す。そこには母の姿。母、男たちの去ったほうを見て、


母  ヒロシ……


   母、泣く。



10・タバコ


   男1、2、3、4、5、6がやってくる。泣いている男7を気遣うようにタバ

   コを渡し、半円に並ぶ。皆、無言でタバコを吸い始める。紫煙が立ち上る。静

   かな間。張り詰めた空気。


男1 (なにか男7を励ますような、格言のようなことを言う)


   静かな間。


男2 (なにかくだらないことを言う)


   静かな間。


男3 (なにかくだらないことを言う)


   静かな間。


男4 (なにかくだらないことを言う)


   静かな間。


男6 (なにかくだらないことを言う)


   静かな間。


男7 (なにかくだらないことを言う)


   静かな間。


男5 (なにかくだらないことを言う)


   静かな間。と男7再び泣きだす。皆、男7を気遣う。男1、5、男7に優しく

   寄り添いながら、3人去る。


第二幕の1


   舞台には机と椅子が置かれている。

   はつがほかの女郎たちと座っている。一緒にはいるが誰とも話さず、ひとり遠

   くを見て物思いにふけっている。


女1 ねぇ、おはつ、徳兵衛様なんか親友騙してボコボコにされたって聞いたんだけ

   どそうなの?


   はつ、答えない。


女2 いや、なんか聞いた話によると踏まれて死んじゃったらしいよ。

女3 え、アタシは言い訳してるところを捕まったって聞いたけど……

女2 え、そうなの?

女1 死んでないといいけどねぇ。

女3 でも、そうとうやられてたらしいよ。

女2 死ぬくらいでしょ?

女1 だから、まだ死んだかはわからないでしょ。

女2 でもさぁ……

はつ ああ、もうやめてよ!聞きたくない!

女3 ご、ごめん……


   間。

   と、ボロボロの徳兵衛が下手からやって来る。徳兵衛に気づくはつ。はつ、様

   子を見て、


はつ ちょっと夜風に当たってくる。

女1 え、はつ?


   と、立ち、徳兵衛のもとに駆け寄る。


はつ 大丈夫?なんかいろいろ噂されてたけど。でも、生きてて良かった。

徳兵 お前も聞いてた通り、すっかり九平次のやつに騙されたよ。本当のことを言っ

   ても誰も信じてくれない。

はつ そんな……

徳兵 もうどうしようもないんだ。俺は……


   と、二人泣く。

   前と並行して上手から天満屋の主人がやって来て、


主人 あれ? おはつは?

女3 ああ、おはつちゃんなら夜風に当たるって外に。

主人 えー、なんだよ、しょうがないな。


   店の入口あたりまで行って、はつを呼ぶ。


主人 おーい、おはつ。今大変なんだから外なんか出歩くなよ。早く戻ってこい。

はつ は、はい。ああもう、ここじゃどうしようもない。アタシがなんとかするか

   ら。



11・修行


   と、男2は舞台中央であぐらをかいて座る。それに習って男4、6、7もあぐ

   らをかいて座る。

   男1は、舞台上手奥でずっとネギを切っている。

   男達は集中力がみなぎっている。禅の修行のようだ。

   少し舞台がネギ臭くなる。

   女(男3)が傍へよってくる。女は手に数珠を持っている。

   女は男達を少し観察してから、男6に近寄る。手に持っていた数珠で男6の顔

   にフェイスマッサージを始める。


女  どうですかぁー? 気持ちいいですかぁー?


   男6は微動だにしない。


女  気持ちよくないですかぁー?


   女は数珠を首筋に移してゆき、フェイスマッサージからリンパマッサージに変

   化してゆく。


女  ほら、リンパですよー。


   男6は微動だにしない。ように見えるが、本当は少し感じている。


女  滞ってますよー。


   女のマッサージは男6の身体をゆっくりとゆっくりと下降してゆく。それで

   も、男6は我慢している。興奮は高まっていく。舞台はどんどんネギ臭くなっ

   ていく。女のマッサージが股間にきたところで男は耐えられなくなり、声が漏

   れる。


男6 あっ・・・。

男1 喝!!!!!!!


   男6は絶望している。他の男達は彼を軽蔑の目で見る。

   女は哀れみの目を男にむけ今度は男2に近寄る。男1はニラを取り出し再び切

   りはじめる。


女  ほら、リンパですよ。

男2 あっ・・・

男1 喝!!!!!!


   男2は絶望している。男1はニンニクを切りはじめる。舞台に匂いが漂う。

   女は男4に近づく。


女  ほら、(顔を触る)

男4 あっ・・・

男1 喝!!!!!!


   男4絶望。男1はピーを取り出し切ろうとする。

   女は男7を見る。


男7 あっ・・・

男1 喝!!!!!


   男達はうなだれる。女は哀れみの目を向ける。男1はピーを切る事が出来ずに

   苛立つ。男2、4、6、7は申し訳なさそうにネギを片付けながらコソコソ去

   る。

   舞台はとてもネギ臭くなっている。



12・後始末


   舞台上には男1と女がいる。無言の間。

   そこへ、申し訳なさそうに服を着替えた男2、4、6、7が戻ってくる。男2

   は上着を羽織っている。各々手には消臭剤。無言で消臭剤を舞台に撒く。

   気まずい会釈なんかをして、位置に着く。



第二幕の2


   はつ、服の中に徳兵衛を隠し、店に戻る。椅子に座ると、皆に見えないよう服

   から徳兵衛を出し、机の下に隠す。そして、何食わぬ顔でタバコを吸い始め

   る。と、下手から九平次がやって来る。


九平 よぉ、久しぶりだね。

主人 ああ、これは九平次様ようこそおいでで。

九平 (女郎たちに)あれ?どうしたどうした。みんな寂しそうな顔しちゃって。お客

   いないの?俺が客になってやろうか?

主人 はぁ……

九平 なんだよ、嫌なの?

主人 いえいえ!そんなことは!ほら、早く誰か酒を!

九平 いや、酒はいい。もう飲んできた。


   と、九平次、はつの方を向き、


九平 ところでさ、おはつ。お前に面白い話があるんだ。

はつ ……なんですか?

九平 お前の一番のお客様の平野屋の徳兵衛いるだろ? あいつがさぁ、

主人 あ、九平次様、その話は……

九平 なに!

主人 あ、いや、何も……あ、じゃあ私ちょっと、お吸い物でも取ってきますね。


   と、逃げるように主人、女郎1、2、3去る。


九平 でさ、その徳兵衛が俺の落とした印判拾って、偽の証文作って、金を騙し取ろ

   うとしてきたんだよ。怖いよなぁ。

はつ ……

九平 まぁ、結局はヘマこいて、お役人どもにボコボコにされてたけど(笑) 


   九平次、笑う。


九平 ついこの間まで、『俺とお前は親友だ』なんて言ってたのに、ホント、ショッ

   クだよ。面目面目なんて言っておきながら、自分は親友から金騙そうって言う

   んだから。ホント、頭でもおかしくなったんじゃない(笑)

はつ ……

九平 でさ、またここへも顔を出すかもしれないけど、あいつの言うことはぜーんぶ

   嘘だから。頭のおかしい奴にみんなが騙されないようにって忠告しに来たんだ

   よ、俺。優しいでしょ(笑)

はつ ……

九平 ノリ悪いなぁ(笑) まぁ、でも、あんなやつすぐに処刑されるだろうから、こ

   んなとこ来てる暇ないだろうけどね(笑)


   徳兵衛、怒りに震え、机の下から飛び出そうとする。しかし、はつはそれを足

   の先で押し鎮める。と、はつ、姿の見えない徳兵衛に問いかけるように、


はつ ……徳様とはもうどれくらいの仲だっけ?

九平 は?

はつ 徳様とはもうお互い隠すところもないくらいの仲だよね?

九平 はつ?

はつ なんでこんなことになっちゃたんだろうね……でも、しょうがないかな。バカ

   みたいに男気見せて、それで騙されて……ホントに徳様の悪い癖だよ。まぁ、

   そこに惚れたんだけどさ。

九平 お前何言ってんの?

はつ ……これからどうしよっか?もう証拠だってないし……どうにもできないよ?


   と、はつ、皆に気づかれぬよう足先で徳兵衛に問いかける。

   徳兵衛は泣くのをこらえながらその足を持ち、足首を喉笛になでつける。



13・しじみ


   しじみが開いていく映像が流れる。男達それを、ぼーっとみる。意外に長い。

   しじみがパカッと開いたら男2、5、7去る。



14・おばあちゃん


   はつが居た場所にはおばあちゃん(男4)がいる。九平次の居た場所には  

   介護士(男3)。徳兵衛の居た場所には誰もいない。


おば みちこさーん。みちこさんはいるかい?

介護 はいはい。目の前にいますよ。なんですか?

おば みちこさん、朝ごはんはまだかいね?

介護 朝ごはんはついさっき食べましたよ。

おば あれ? そうだったけね?

介護 そうですよ。あと、アタシ、みちこじゃなくてミサですからね。「み」しか合

   ってませんからね?

おば あー、ごめんごめん。

介護 いえいえ。じゃあまた何かあったら呼んでくださいね。

おば あ、

介護 ん?

おば 朝ごはんはまだかいね?

介護 だから朝ごはんはさっき食べましたよ。わかりました?

おば あー、そうだったそうだった。ごめんね、次郎。

介護 ミサです。誰ですか次郎って完璧、男じゃないですか。


   おばあちゃん何もいない地面の方に手を伸ばす。


おば おー、次郎。お手。

介護 え、犬!?次郎って犬!?

おば おー、次郎よしよし。

介護 しかも、結構でっかい。

おば 次郎はね、いつも仕事から帰ってくるとこうやって犬みたいになってねぇ。

介護 え!?

おば もっとしてくれ、もっとしてくれって、聞かなかったよ。仕事場じゃあんなに

   威張り散らしてたくせにね。

介護 え、次郎って旦那さん!?旦那さんなの!?

おば そ、そこはそんなに広がらないよっていうのが次郎の口癖だったっけ。

介護 佐藤さん!? 何言ってるの!?

おば アタシもそんな次郎に興奮して目一杯広げたりしてねぇ。

介護 え、いいの!? これはOKなの!?

おば あの日もそうだったねぇ……


   おばあちゃんの回想。おばあちゃんは椅子の下に見えない旦那を見る。


おば おかえりなさい。今日は早かったのね。ん? ああ、そうね。もう明日だもの

   ね。仕事なんかしている場合じゃないか。(おばあちゃんいやらしいことを

   されて)もう、ちょっとやめてくださいな。そういうのはまた後で(笑)ほら、

   汗かいたでしょう? お風呂湧いてますから、先に入ってらっしゃい。ご飯も

   もうすぐ炊けますから。ホントは今日はあなたの好きな栗ご飯にしてあげたか

   ったんだけどねぇ。やっぱり物資が厳しいみたいで。お米ももうちょっとしか

   もらえなくって。栗なんて高級品でしょ?でも、頑張って作ったのよ?お魚だ

   ってあるわ。ねぇ、向こうに行ったらお腹いっぱい食べられるのかしらね?あ

   あ、ごめんなさい。石鹸が切れてたわ。(タンスを探して)あれ?確かここ

   に……え?いらないって、そんなわけにはいかないでしょ。お国のために戦う

   んだから体くらい清めないと。(また探して)あれ、どこにやったのかしら?あ

   れ?あれ?(振り返って)え、もう行くの? もうそんな時間? あら、アタシ

   ったらなんの準備もしないで。どうしましょ。そういえばアナタ昨日は何もし

   ませんでしたね?帰ってきてからのお楽しみ?もう、いやらしい(笑)じゃあ絶

   対帰ってきてくださいよ。まぁ、日本軍は連勝らしいし大丈夫でしょうけど。

   うん。わかってるわよ。ちゃんと待ってますから。じゃあ、いってらっしゃい

   ね。うん。


   おばあちゃん、旦那さんを見送る。


おば あなたー!いってらっしゃーい!天皇陛下バンザーイ!大日本帝国バンザー

   イ!お国のために頑張るのよー!天皇陛下バンザーイ!大日本帝国バンザー

   イ!


   だんだんと日は暮れていく。


介護 佐藤さん?大丈夫ですか?佐藤さん?

おば あ、ジェシカ。

介護 ジェシカじゃないよ!いきなり外人かよ!

おば 朝ごはんはまだかねぇ。

介護 今、持ってきますから、ちょっと待っててくださいね。


   介護士、朝ごはんを取りに行く。おばあちゃんゆっくり空を見上げる。



15・メレンゲ2


   とそこへけたたましい音楽とともに男達がボールを抱えて乱入してくる。ボー

   ルの中にはたっぷりのメレンゲ。ボールにはゴムがついており舞台奥へつなが

   っている。アナウンス(男1)が入る。


アナ よーい、


   男たち、構える。


アナ はじめ!


   男たち、一斉にボールの中のメレンゲを泡立て器でかき混ぜ始める。必死にメ

   レンゲをかき混ぜる男たち。油断をするとゴムのせいでボールが引き戻されボ

   ールを被ってしまう。しばらくかき混ぜたところで音楽が止まり、出番以外の

   役者は去る。



第二幕の3


はつ ……これからどうしよっか?もう証拠だってないし……どうにもできないよ?


   と、はつ、皆に気づかれぬよう足先で徳兵衛に問いかける。

   徳兵衛は泣くのをこらえながらその足を持ち、足首を喉笛になでつける。


はつ (泣きながら)そっか……そうだよね……

九平 え、何、泣いてんの?

はつ ……そうするしかないよね

九平 は?

はつ (九平次のほうをむいて)もう生きてたってどうしようもないもんね……

九平 ちょ、なんだよ!マジでキモい!何泣いてんの?

はつ ねぇ、九平次様、徳様は死ぬかな?

九平 はぁ?徳兵衛が死ぬわけないでしょ(笑)さっきのは冗談!

はつ ……(少し微笑みながら)そっか。

九平 まぁ、でも、ホントにそうなったらお前は俺がちゃんと可愛がってやるよ? 

   っていうか、実はお前も俺に惚れてるんでしょ?

はつ そうね。そうなればいいなぁ。

九平 でしょ?(笑)

はつ だって、そうなればすぐにでもアナタを殺せるもの。



16・メレンゲ3


   とそこへ男達がボールを抱えて乱入してくる。ボールの中にはたっぷりのメレ

   ンゲ。アナウンス(男1)が入る。


アナ よーい、はじめ!


   男たち、一斉にボールの中のメレンゲをかき混ぜ始める。必死にメレンゲをか

   き混ぜる男たち。またしばらくして音楽が止まり、出番以外の役者は去る。



第二幕の4


九平 まぁ、でも、ホントにそうなったらお前は俺がちゃんと可愛がってやるよ

はつ そうね。そうなればいいなぁ。

九平 でしょ?(笑)

はつ だって、そうなればすぐにでもアナタを殺せるもの。

九平 は?

はつ (九平次に微笑む)

九平 ……なんだよ?

はつ ねぇ、徳様?

九平 おい。

はつ ねぇ、徳様、ちゃんと聞いてる?


   はつ、足で徳兵衛をつく。


17・メレンゲ4


   とそこへ男達がボールを抱えて乱入してくる。ボールの中にはたっぷりのメレ

   ンゲ。アナウンス(男1)が入る。


アナ はじめ!


   男たち、一斉にボールの中のメレンゲをかき混ぜ始める。必死にメレンゲをか

   き混ぜる男たち。またしばらくして音楽が止まり、出番以外の役者は去る。



第二幕の5


九平 おい!

はつ うるさい!このろくでなし!つまらないこと言うなら早く帰って!


   九平次、気圧される。



18・NO MORE WAR


   と、アーミーなオカマ(男1.3.4、6)たちが騎馬になって乱入してく

   る。彼女たちは戦争反対を訴えている。


オカマ NO MORE WAR! NO MORE WAR!


   オカマたちの熱い抗議は続く。


男5 おいおい!なんだんだ!

男2 うるさい!このろくでなし!

男5 や、おい!なんなんだよ!

男2 つまらないこと言うなら早く帰って!

 

男5、気圧される。オカマの騎馬は嵐のように去って行く



第二幕の6


はつ ねぇ、徳様?徳様が死ぬっていうならアタシも死ぬよ?ちゃんとアタシも死ぬ

   から……ねぇ……


   はつ、また徳兵衛を足で突く。徳兵衛もその足を抱き、二人声を押し殺して泣

   く。


九平 ……なんだよムカつくな!いいよ、帰るよ。せっかくいい気分だったのに台無

   しだよ。金だっていくらでもあるのに。あーあ、こんな頭のおかしい女郎のい

   るとこやめて、他の店行くわ。


   九平次、去る。

   主人やってくる。


主人 ふぅ、やっと帰ってくれたよ。


   はつ、泣いている。


主人 はつ……ああ、今日はもう終いだ。みんなもう寝なさい。


   主人、机や椅子を片付け出す。


主人 はつも今日はもう休みなさい。


   はつ、立ち上がる。


はつ ……旦那様。

主人 ん?どうした?

はつ ……今までありがとね。

主人 え?


   はつ、去る。


主人 ……なんなんだよ今日は。


   主人、すぐに片付けに戻る。片付けが終わると、主人も去る。

   舞台に徳兵衛だけが残る。



19・スカート


   男7、けんけんぱのような遊びを一人で始める。

   男が遊んでいると、スカートを履いた違う男が一人やってくる。スカートの中

   には男の生々しい脚が見えている。遊んでいた男7、やってきた男に気づき遊

   ぶのをやめる。二人、スカートの裾を持ち、お姫様のような挨拶。今度は二人

   であんたがたどこさのような遊びをはじめる。

   またスカートを履いた男がやってくる。二人、それに気づき遊びをやめる。ま

   たお姫様のような挨拶。三人はバレエの真似事をはじめる。

   スカートを履いた男たち、楽しそうにじゃれあう。スカートがゆれ、男たちの

   脚が見える。足はひとりひとり違う。ゴツゴツしている足。滑らかそうな足。

   毛の多い足。6本の脚が舞台の上で絡まるように動いている。そうして、だん

   だんと動きは洗練され滑らかになっていく。6本の足の動きがそろいはじめ

   る。

   男がやってくる。三人はすぐに動くのをやめる。



20・歯磨き


   音楽が鳴り始める。男が一人やってくる。男は客席の方を向き、歯磨きを始め

   る。口の中が泡立つ。すると、また違う男がやってくる。先にいた男、気づき

   あとから来た男を見つめる。二人見つめ合う。後から来た男も歯磨きを始め

   る。二人、見つめ合い歯磨きをする。音楽とともに舞台はだんだんと官能的に

   なっていく。後から来た男、去る。そして、すぐに戻ってくる。手には水の入

   ったペットボトルとボール。後から来た男、水で口をゆすぎボールに吐き出

   す。水を先にいた男に差し出し、先にいた男も水で口をゆすぐ。後から来た

   男、水とボールと歯ブラシを持って、去る。先にいた男、その場に寝る。



第三幕


   薄暗い舞台。水槽だけが白く光っている。水槽の近くで下女が一人眠ってい

   る。

   上手より白装束のはつが出てくる。すぐに立ち止まりあたりを確認するはつ。

   今度は下手より徳兵衛出てくる。声を殺し、手招きしてはつを呼ぶ。

   はつ、それに気づき、うなづく。が、下女がいて通れない。

   二人考える。はつがなにか思いつく。はつは一旦、上手に入ると、すぐに扇

   と箒を手にして戻ってくる。二つを組み合わせ、水槽の明かりを扇ぎ消そうと

   する。手もカラダも目一杯伸ばして、必死に扇ぐ。水槽の明かり、消える。

   と、同時にバランスを崩してはつが転ぶ。下女、「うーん」と寝返りを打つ。

   下女が起きないことを確認して、二人は手探りでお互いを探し合う。

   と、奥から主人がやって来る。


主人 今の音はなんだ。明かりも消えてるし。早くつけなさい。


   主人去る。

   下女、眠そうに目をこすり、ダルそうに起き上がってダラダラと明かりをつけ

   ようとする。が、暗くて水槽がどこかわからず手探りで探す。

   二人は、下女に見つからないように逃げ回り、なんとか手を取り合い、下手ま

   で行く。下女、手探りのまま、去る。安堵し、見つめ合って笑う二人、去る。



21・傘回し


   誰もいない舞台。そこへ、可愛らしい傘を回しながら男4が来る。傘の先には

   細い糸で人形がつながれている。人形は観音像に見えなくもない。傘を回しな

   がら男は舞台を一周し、去る。



22・犬と星


   電球が落ち着いたか、落ち着かないかの頃合いで男6がひとりいる。


男6 あの、僕、犬を飼ってたんですよ。まぁ、僕が飼ってたっていうよりか家族で

   飼ってたって感じなんですけど。ついこの間死んじゃって。でも、特になにか

   起こったわけでもなく老衰なんですけど。14歳まで生きてすごい長生きだった

   んですけど。僕が6歳の頃に親戚の家で生まれた子犬をわけてもらったんです

   けど。名前はピーちゃんって言って、なんでかって言うと、ホントはもっとか

   っこいい名前にするはずだったんですけど、なんか生まれつき器官が狭かった

   らしくて生まれたときから息するとたまにピーピー言うんですよ。それ聞いた

   お父さんがピーちゃんって呼んだのが定着しちゃって。だから、なんか鳥みた

   いな名前になっちゃったんですね。ピーちゃん。しかもセントバーナードなの

   に。全然似合ってないけどなんか定着しちゃって。それからずーっと一緒に暮

   らしてたんですよ。健康なことしか取り柄のない犬で。毎日欠かさず散歩もし

   て。夜、ご飯食べ終わってから、散歩に行くのが日課で。ピーちゃんと夜空を

   見ながら歩くんです。危ないから懐中電灯つけて。家は田舎の方なんで澄んだ

   星空見ながら、田んぼ道を歩いて。星が好きなんです僕。だから夜に歩くって

   のもあったんですけど。懐中電灯で照らして、あれが夏の大三角形だよーとか

   ピーちゃんに話しかけて。ピーちゃんもわかってるんだかわかってないんだか

   わかんないけどワンって鳴いてくれて。でも、大学に行くために上京しちゃっ

   て夜の散歩もなくなって、やっぱりこっちじゃ星も見えないし。で、ピーちゃ

   んが危ないって連絡が来て久しぶりに実家に戻ったんですよ。でも、その時に

   はもうピーちゃんは冷たくなってて。朝、家の裏にある大きな木の下をほって

   埋めてあげたんです。で、その日の夜に久しぶりに散歩してみたんですよ。ひ

   とりで。そしたらやっぱり星はキレイで。こうやって懐中電灯で照らしながら

   歩いて。


   男の服から懐中電灯が出てくる。


男6 ねぇ、ピーちゃん見て、あれが冬の大三角だよ。あそこにはピーちゃんみたい

   におっきな犬のおおいぬ座って星座があってその中の一番明るい星がシリウス

   って言うんだよ。ホントはピーちゃんじゃなくてシリウスって名前にしたかっ

   たんだけどピーちゃんにはカッコよすぎたね。ピーちゃんはさ、ピーちゃんが

   いいよ。ピーちゃんが一番似合ってるよ。


   男の服からもう一本懐中電灯が出てくる。男、二本の懐中電灯で交互に壁を照

   らす。男の照らす光は様々なところへ散らばり満天の星空のように輝く。そし

   て、最後に電球をゆらして去る。その電球は人魂のように見える。



第四幕


   鐘の音。

   徳兵衛とはつ、歩いている。


はつ よかったね。

徳兵 ん?

はつ 見つからなくて。

徳兵 ホントだよ。ヒヤヒヤだった(笑)

はつ 追ってくるかな?

徳兵 誰も気づいてないよ。

はつ そうだね。


   二人、歩く。


はつ あ、見て。川に星が映ってる。

徳兵 ホントだ。雲がないからかな。

はつ きれい。

徳兵 天の川みたいだ。

はつ ロマンチックだね(笑)

徳兵 うるさいな(照)


   二人、歩く。はつ、立ち止まる。


はつ ……

徳兵 ?

はつ ……

徳兵 はつ?

はつ ……なんでもない

徳兵 ……うん。


   二人、歩く。


はつ 今日ね、お客さんと観音様を巡ってたんだけどね。

徳兵 うん。

はつ 神社で厄年だって言われた。

徳兵 へー。

はつ 女の人は19歳で、男の人は25歳なんだって。初めての厄年。

徳兵 へー。じゃあ俺もだ。

はつ 確かに。ついてないね、アタシたち。

徳兵 ホントにな。

はつ でも、嬉しいよ。徳様と一緒なら。

徳兵 ……

はつ 何か言ってよ。

徳兵 (笑)

はつ もう(笑)


   二人、歩く。


はつ え、なに?

徳兵 人魂だ。

はつ 人魂?

徳兵 俺たちだけじゃないんだ……

はつ うん……

徳兵 俺たちもああなるのかな?

はつ どうなんだろ。……でも、嬉しいよ。徳様と一緒なら。

徳兵 ……ああ。


   二人、歩く。


はつ ねぇ。

徳兵 ん?

はつ 今度旅行行こうよ。

徳兵 え?

はつ 旅行。

徳兵 ……そうだな。行くか。

はつ うん。

徳兵 どこがいい?

はつ うーん、江戸とか?

徳兵 江戸? 江戸なんて何もないよ。

はつ そうなの?

徳兵 そうそう。でかい城があるだけ。

はつ 見たことあるの?

徳兵 ないけど。

はつ ないんじゃん。

徳兵 ないけど、そうだよ。

はつ そっか。じゃあどこにしよう?

徳兵 縁起がいいところがいいな。神社とか巡って。

はつ さんざん巡ったよ(笑)

徳兵 そうだった(笑)

はつ でも、どこか遠くがいいなぁ……

徳兵 ここら辺でいいかな?

はつ あ、うん。


   二人、水槽の前で立ち止まる。徳兵衛、ベルトを外す。


はつ ほかになかったの?

徳兵 急いでたから。


   徳兵衛、自分とはつの腕をベルトで結ぶ。


はつ 雰囲気ないね(笑)

徳兵 ダメかな?


   はつ、懐から赤いひもを取り出す。


はつ これをこう。


   はつ、自分と徳兵衛の小指に糸を結ぶ。


はつ これでよし。

徳兵 うん。じゃあ……


   はつ、横たわり、徳兵衛、その上にまたがる。徳兵衛、ポケットから刃物を取

   り出し、振りかぶる。しかし、なかなか振り下ろせない。徳兵衛、振りかぶっ

   たまま泣き出す。徳兵衛、泣き叫び、はつに刃を振り下ろす。しかし、外れ

   る。もう一度振りかぶり、また声を上げながら振り下ろす。また外れる。徳兵

   衛、泣きじゃくる。と、はつ、徳兵衛の手を優しく握る。はつ、そのまま刃を

   自分の首に持っていく。と、灯体が落ちる。徳兵衛、のけぞる。溢れ出す血。

   徳兵衛、驚くが何かを決心したようにゆっくりとはつから刃を抜く。そして、

   自分の首に当て、目を閉じ、掻っ切る。真っ赤な血が吹き出す。灯体が落ち

   る。徳兵衛、はつの上に覆いかぶさるように倒れる。


   暗転。



23・あやとり


   優しい明かり。客席も舞台も同じ明かり。音はない。

   男7が座っている。一人であやとりをしている。

   男1がやってくる。


男1 あれ、何してんの?

男7 あやとり。

男1 あやとり? 懐かしいね。

男7 小学生以来かな。

男1 なんであやとり?

男7 いや、なんかこのひもが朝起きたら小指に結んであって。

男1 え、キモイ。

男7 そうか?

男1 そうだろ。それでなんであやとり?

男7 うーん、なんとなく?

男1 なにそれ。

男7 いや、それよりさ、このあとが全然思い出せないんだよ。わかる?

男1 え? いやー、わかんないな。

男7 なんだよー。


   男3がやってくる。


男3 おつかれー。

男7 あ、おつかれー。

男1 おつかれー。

男3 なにしてんの?

男7 あやとり。

男3 あやとり? なんで?

男7 なんとなく。

男3 え?

男1 なんかこのひもが朝起きたら小指に結んであったんだって。

男3 え、なにそれストーカー!?

男7 違うよ。

男3 えー、でもわかんないじゃん。

男1 やっぱりキモいよ。


   男4がやってくる。


男4 おつかれー。

男1 おつかれー。

男7 おつかれー。

男3 おつかれー。

男4 なにしてんの?

男3 なんかストーカー出たって。

男4 え、マジ!誰の!?

男7 違うよ。

男4 え?

男3 でも、そんなの絶対ストーカーだよ。

男1 俺もそう思う。

男4 え、なになに?

男1 なんか、このひもが朝起きたらコイツの小指に結んであったんだって。

男4 え、こわ! なに心霊現象?

男3 ストーカーだって。

男7 ストーカーじゃねぇよ。


   男6、やってくる。


男6 おつかれー。

男1 あ、おつかれー。

男7 おつかれー。

男3 おつかれー。

男4 おつかれー。

男6 集まって何してんの?

男4 幽霊出たんだって!

男6 幽霊?

男3 ちげぇよ、ストーカーだよ。

男7 どっちもちげえよ。

男6 は?

男1 なんか朝起きたらこのひもがコイツの小指に結んであったんだって。

男6 すごっ。運命の赤い糸じゃん。

男3 ちがうよ。ストーカーだよ。

男7 ストーカーじゃねえよ。

男4 じゃあ幽霊しかないじゃん。

男7 なくないよ。

男6 で、誰につながってたの?

男7 え?

男6 紐。

男7 え? 誰にも繋がってないよ。

男6 え、じゃあ振られてんじゃん。

男7 振られてないよ。

男1 どんまい。

男3 ストーカーなんかこっちから振ってやりなよ。

男4 だから、幽霊だって!

男7 どっちもちがうよ!

男6 じゃあ何なんだろうな?

男3 一応、警察とかに相談したほうがよくない?

男6 それは大げさじゃない?

男3 でも、こういうのは早いほうがいいって言うし。

男7 だから、ストーカーじゃないよ。

男1 なんで?

男7 いや、なんか、そういうのじゃない気がする。

男4 やっぱ幽霊だよ。

男7 そういうのでもないよ。

男4 えー、お祓い行こうよ。


   男2、やってくる。


男2 おつかれー。

皆  あ、おつかれー。

男2 なにやってんの?

男7 いや、なんかさ、

男2 ああ。朝起きたら小指に赤い紐が結んであって、何気なくその紐であやとりを

   始めてみたものの、とり方がわからなくなって悩んでいたら、みんながやって

   きて、ストーカーだの幽霊だの振られただのあることないこと言いだして話が

   混乱してたんだ。

男7 そうなんだよ。

男6 そうだったっけ?

男7 そうだよ。

男1 で、あやとりは?

男7 あ、そうそう。この続きなんだけど、

男2 どれ?

男7 このあと。

男2 あ、これはね、ここをこうして、ここをこうすれば、ほら。


   あやとり、取れる。


皆  おおー!

男2 このあとできる?

男7 えーと、ここをこうして、これで、こう!

    

   あやとり、取れる。


男6 すごいな。俺全然わかんない。

男3 え、指どういう動きしてるの?

男4 俺、けん玉ばっかりやってたからなー。

男6 俺、ベーゴマやってた。

男7 お前ら何歳なんだよ。


   男5、やって来る。


男5 おつかれー。

男3 あ、ひさしぶりー

男5 ただいまー

男1 え、どっかいってたの?

男5 家族旅行でさ、グアム行ってたんだよ。

男7 いいなー。

男5 いやー、十年ぶりの家族旅行だったんだけどさ、ホント楽しくて。

男4 え、なんかした?

男5 あー、スキューバダイビングと実弾射撃場いったんだけど、ダイビングの人に

   魚の集め方みたいの教えてもらって。(手を動かしながら)こうするんだけど。

皆  へー

男5 で、やってみたんだけど、親父、手じゃなくて頭に魚が集まってきちゃって。


   皆、笑う。


男6 で、お土産は?

男5 え?

男6 お土産。

男5 ああ。虫。

男6 え?

男5 食べられる虫。


   間。


男3 え…… グアムまで行って?


   男たちの動きが止まる。


                              おしまい

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曾根崎心中。または、あやとりのとり方。 相田みょん @akatusay420

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